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ロボット  作者: 半月
7/9

7・プログラム

何事もなかったように壹也を説教する姿は相変わらずだった。

「どこにいても変わらねーなぁ・・・・・・じゃなくて!お前!なんでそこにいるんだよ!」

「エ・・・・・・多分アタシガコノ子二触ッタトキ二ナンカオカシクナッタ・・・・・・カラジャナイ?」

プログラムをどんどんいじっているらしくそうしている間にもだんだんナナカに仕草がつき、言葉もスムーズになる。

「なった・・・・・・からじゃない?じゃ、ねーよ!今お前の体は衰弱してる!お母さんだってお前を入院させておくために頑張ってぶっ倒れたらしいし、このままじゃ・・・・・・点滴だけじゃ、生命維持はできないらしい・・・・・・俺の連絡が遅かったこともあってお前・・・・・・意識が戻っても脳傷害が起きるかもしれねーって。」

「フゥン・・・・・・。」

「フゥンじゃねーだろ!」

「オ母サンハ?平気ナノ?」

どうして彼女は自分の心配をしないのだろう。

どうして自分より先に他人を心配するのだろう。

壹也は複雑そうな表情を浮かべてから言った。

「大丈夫だよ。ちゃんと安静にしてれば・・・でもそれは同時にお前の危機なんだぞ!?わかってんのかよ!?」

「アタシネ・・・・・・人二頼リニサレルノガ好キミタイ・・・・・・ダカラ・・・・・・自分ヨリ周リヲ気ニシチャウミタイ・・・・・・ダカラカナ?イチヤニハイツモアタシノ心配サセテバッカリデ・・・・・・ソンナイチヤダカラアタシモ生キテルッテ・・・・・・誰カニ・・・・・・・マダ必要トサレテルッテ思ッタ。アタシ、イチヤトイル時間ガ一番好キ・・・・・・デモ、ゴメンネ。アタシノ心配バカリサセテ。」

ナナカは感情が顔に出ないが、その声はまるで少し寂しそうに笑っているようだった。

その声を聞きながら壹也は奈々香の笑顔が無性に恋しくなった。

「バカ・・・・・・お前、バカだよ。何言ってんだよ!もう誰の心配もしなくていいんだ!お前はお前のままでいいんだよ!もう、自分の心配してればいいんだよ・・・・・・!」

「優しいネ・・・・・・壹也・・・・・・。」

驚いて壹也は奈々香を見た。

「アリガトウ・・・・・・。」

さっきの声があまりにも奈々香そのものだったのだ。

もう機械音ではない。

壹也は思わず泣きそうな顔で笑った。

「お前・・・・・・どれだけプログラムいじってんだよ・・・・・・。」

「ダッテ・・・・・・話しヅライから・・・・・・デモ、ヨカッタ・・・・・・壹也、笑ってクレテ。」

壹也は言葉に詰まってしまった。

“また”彼女に気を遣わせたこと。

その優しさの裏の辛さを壹也は知っている。

だからこそ彼女を守と決めて、守れずにいる自分を・・・・・・守られている自分を好きになれずにいる。

小さく唇を噛み締めて、体が震えた。

「無理・・・・・・すんなよ。お前はお前でいいんだからな。」

そういってパソコンを立ち上げようとパソコンの椅子に腰掛けたとたん、クスリと笑い声が聞こえた。

「クサイぃ。」

壹也自信はクサイ台詞を言ったつもりはなかったので目を点にしたが、ああ、そうか、クサイのか・・・・・・と後ろ頭をかいた。

「デモ、アリガトウね・・・・・・壹也。」

優しげな彼女の声に壹也は一瞬錯覚に陥った。

ずっと奈々香がこのまま自分のそばにいてくれるような気がしたのだ。

彼女は肉体を持たない。

心だけがナナカの中にある。

それは時に残酷で、時に優しすぎる甘い夢のようだった。

消えなければいい・・・・・・このままずっと・・・・・・。

だけど彼女の肉体が滅びれば彼女は世間的には死んだことになる。

この表情のないナナカの中であの懐かしい笑顔を見ることも、呆れた顔も、泣き顔も、彼女の涙さえ見ることはできなくなる。

「奈々香。」

ふいに彼女の名前を呼んだ。

「何?」

「一時停止に・・・・・・なってくれないか?たしかお前の思考もスリープモードになるだろ?」

「いいケド・・・・・・どうシて?」

「後で話すよ。」

「わかッタ。」

敬語を標準語としてプログラムしてあるナナカは奈々香のしゃべるタメ語にはまだまだ対応していけないらしい。

いくら中に入っている人物が天才メカ技術者でもやはり困難なことは困難なままらしいのだ。

ナナカの目は点滅し、やがて淡い緑色へと変わった。

「俺・・・・・・どうすればいいか、わかんないよ・・・・・・奈々香・・・・・・。」

そう小さく泣き言をもらし、ナナカの額と思われるところに小さく口を寄せた。

彼女に消えてほしくない存在はきっと俺だけじゃない。

でも、彼女が仮に元の肉体に戻ることができたとして、いつも通りの笑顔が見れるのかさえわからない。

何より自分のそばにいてほしい。

今や彼女の幼なじみとして定着してしまった自分は恋愛対象としては見てもらえないだろう。

それを裏付けるように彼女は自分の言葉に激しい喜怒哀楽を示すことはない。

それに昔、彼氏ができたと何度か聞いた。

その彼氏は自分とはタイプが真逆だった。

素直で優しく、愛想のいい彼女の性格とよく似た感じの優男・・・・・・。

俺はそんな優男にはなれない。

ぶっきらぼうで不器用なまんまだ。

だからこそ彼女みたいな優女に惹かれるのかもしれないけど・・・・・・どうせ戻っても関係が変わらないなら。

このまま二人きりの秘密でいたい。

でもあの母親は娘を亡くしたら気をおかしくするかもしれない。

娘を追って自殺をはかろうとするかもしれない。

彼女の自虐的性格からしたらあり得ない話じゃない。

常に情緒不安定だし・・・・・・。

今度はそれを知った奈々香だ。

きっと奈々香は奈々香ではなくなってしまう。

人格が崩壊してしまうだろう。

でもナナカの中に奈々香がいるとあの母親に伝えたら・・・・・・今度はどうなる?

奈々香をなんとか戻そうともしかしたらナナカを分解し始めるかもしれない。

笑い話であってほしいが、本当にやりかねないこの恐怖はきっと雷よりも勝るだろう。

もしナナカを分解されたら今度こそ奈々香はいなくなるだろう。

彼女が作り上げたNew NANAKA.Programはパソコンのプログラムデータにはない。

これと同じ代物は同じ部品を使っても作れはしないのだ。

パソコンだって立ち上げてみたはいいが、画面がすでに大量のエラーをしめしている。

この基本ベースとなるプログラムさえも消えたらやはり・・・・・・ナナカも奈々香も消滅してしまうだろう・・・・・・。

それならいっそ、二人でいたい。

奈々香に生きていてほしい。

壹也の葛藤は続き、答えを出せずに頭の中で堂々巡りをした。


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