8・時間
「ソッカ!ソーダヨネ!アハハ!」
乾いた笑い声に聞こえて仕方なかった。
からからと、肉体のない機会はあるべき音を出すだけだった。
「もし、俺がさ・・・・・・お前の事、好きだって言ったら・・・・・・どうかしたわけ?」
希望を捨て切れずに哀れに声は部屋に響く。
「・・・・・・あぁ、そーなんだなーッテ・・・・・・ゴメン・・・・・・あたし、最低ダヨネ・・・・・・でも、自分が必要トサレテイルト思うト、すごく・・・・・・嬉しくテ・・・・・・中途半端ナ気持ちナンカデ聞いて・・・・・・ゴメン。」
その答えに期待した自分がバカみたいに思えた。
つまり、奈々香は自分に興味を示してくれる人に少し興味があるだけ。
特定の人物に興味があるわけではないのだ。
「・・・・・・いいよ、別に。それよりお母さんに会いたいんだろ?行くぞ。」
ナナカとパソコンを繋いでいたプログラムを取ると彼女の母親の元へと急いだ。
出迎えてくれた彼女は“骸骨”と呼ぶにふさわしい格好をしていて、今にも倒れそうだった。
青白い、血の気のない肌。
痩せこけた体や頬、目の周りは落ちくぼみ、目がギョロリと飛び出しそうになっている。
恐らく誰もが真夜中、光のあまりない路地で彼女と出会おうものなら即座に叫んで逃げ出すだろう。
「あら、壹也君・・・・・・いらっしゃい。」
「急に来てすみません、おばさんがまだ本調子じゃない事もわかってます。でも、俺を家にあげてもらえませんか?」
彼女は骨で動いているような腕をあげ、どうぞと壹也を家へと招いた。
壹也はそこで一連のことを話し、奈々香にも話をさせたが、奈々香は言葉が詰まってしまったらしくなかなか会話が進まない。
「・・・・・・俺もつい最近この事を知ったので、連絡が遅くなってしまってすみませんでした。」
「・・・・・・そんな、漫画やどこかの物語みたいな事・・・・・・。」
「俺も最近は信じられませんでしたが、現実に奈々香の魂はこの中にあるんです。」
「心配・・・・・・カケテごめんなさい・・・・・・お母さん。」
奈々香がひたすらにあやまる。
どうやらまた背負いこんでしまったらしい。
“自分のせいで”こうなったのだと。
「・・・・・・奈々香・・・・・・いるのね?奈々香・・・・・・!それで・・・・・・奈々香の魂はどうやったら取り出せるの?奈々香の体にはもう時間がないのよ!」
「わかりません。俺にもどうしてこうなったのかわからないんです。」
「そう・・・・・・ちょっとまっててもらえるかしら。」
いやな予感と共に、戻ってきた彼女の手に握られていたものは・・・・・・ドライバー。
嫌な予感は当たった・・・・・・。
「ちょっ!止めてください!落ち着いてください!」
壹也が必死に阻止する。
「どうしてよ!機械に取りついてるんでしょ!?そしたらその機械を失えば奈々香は・・・・・・奈々香は元に戻るかもしれないじゃない!」
「落ち着いてください!これを壊したってもし奈々香が戻らなかったら同じ事ですよ!とりあえずここにいれば彼女は生きているんですから、もう少し様子を見なきゃわからないことだらけですよ!」
押さえ付けられた母親はしゃがみこみ、啜り泣いた。
これが、子どもに依存しながら生きてきたあわれな母親の姿なのかとその母親のつむじを見下ろしながら考えていた。
「もう、もう・・・・・・奈々香の体には時間が残されていないのよ・・・・・・!」
子どもに負担を掛け続けた責を今、すべて背負った母親がいる。
気付くのが遅すぎたのだろう、子どもが失われる直前・・・・・・それも自分が情緒不安定、過労になってからやっと子どもにどれだけ依存していたかを気付きはじめているあわれな母親。
彼女を救える人はどこにもいない。
ただ一人、奈々香をのぞいて。
「俺はこれで失礼します。あの、奈々香を充電するんで、奈々香に会いたいときは俺の家に尋ねてきてくれればいつでもいますんで・・・・・・。」
ナナカを引っ掴むと逃げるようにその場を去った。
部屋に逃げ込むように入ると、扉の前でしゃがみこんだ。
息が、荒れている。
「壹也、あたしまだ充電する必要ナイヨ・・・・・・?」
わかっている。
それでも、あそこにナナカを置いておくのは危険だと思った。
怖いと思った。
あの母親ならナナカを分解しかねない。
もし奈々香が自分のそばからいきなりいなくなったらどうしようかと、ただそれだけだった。
ヘタレ&男の子視点を書きたかったのですが、全然ダメダメですね。
多分次回が最終話になると思います。
読んでくださった読者の皆様、ありがとうございます。




