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ロボット  作者: 半月
3/9

3・雷

ナナカはまだ「終了」の一言だけで終われるような精巧なロボットではない。

しかも受動態も能動態も何もかもがなっていないのだ。

「プ・・・・・・ショートニングプログラム・・・・・・?ショートプログラムでいいじゃん・・・・・・!」

クスクスと奈々香は口を軽く手で押さえて笑いだした。

「う、うるせー!ショートはshortで短いって意味で、ショートニングはshorteningで短縮って違いがあるだろっ!」

壹也は慌てふためきながら大声を上げた。

その時、ポツリポツリと雨が降ってきたのを二人は気付かなかった。

壹也の両親はまだ仕事中だ。

ザーザーと雨音が激しくなってからようやく奈々香が気付き、窓に近づくとゆうつそうな声を上げた。

窓は一部、彼女の吐息で白く曇って消える。

「あーあ、振ってきちゃったぁ・・・・・・。」

すると雷の音が聞こえだした。

ゴロゴロ・・・・・・。

「うぉ!?」

声を上げたのは、奈々香ではなく、壹也。

その大きな体を縮めてびくつかせている。

「あんた・・・・・・まだ雷ダメなの・・・・・・なっさけないなぁ・・・・・・ほら、大丈夫よ。」

そういって奈々香は壹也の隣に腰を下ろすと、壹也の頭をなではじめた。

「ちょ、俺はもう・・・・・・」

彼女の手を振り払おうとした瞬間、空が光る。

「うわぉっ!」

壹也にはトラウマがある。

彼の両親は小さい頃からよく彼を一人切りにさせた。

そんなある日、雷で家が停電を起こし、何をしたらいいのかわからずに、錯乱に陥った彼は1人でくらい部屋に座り込み、シクシクと泣いていた。

泣くことしかできなかった。

初めて一人でいることがあんなにも・・・・・・怖いと思った。

そんな時、「壹也っ!」黄色いカッパを着て、太い蝋燭を片手に扉を勢い良く開いて入ってきたのが少女だった・・・・・。

少女の家は父親がいない。

母親は疲れ切っていつも帰ってくる。

だから少年と同じく一人のはずなのに彼女は一人を恐れずに少年の隣に居続けた。

初めて誰かいることが心強いと思った。

やがて時は過ぎ、少年は奈々香ではないとダメなのだと、自分の胸の高鳴りで知る。

少女は勇ましく育ち、少年はそんな少女に惹かれていく。

でも本当は知っている。

少女は本当は父親も好きな事、会いたいと泣いていたこと、本当は・・・・・・弱い事。

少女に憧れながら少年はいつしか、彼女を守りたいと思った。

自分が弱々しい事くらい、わかっていても・・・・・・。

なのにこれではあの時と同じだ。

まるっきりかわっちゃいない。

「いいのいいの、無理するなって!“私がしっかりしてなきゃね。”」

奈々香はそういいながら微笑んだが、彼女の口癖はいつも・・・・・・「私がしっかりしてなきゃね。」なのだ。

両親の離婚は自分のせいだと思い込み、余計なことも、欲しいものも我慢して母親は自分のために頑張ってくれているから自分がしっかりしてなきゃねと多分無意識に言い聞かせているのだろう。

だからこそ壹也は言ってあげたいのだ。

“もう頑張る必要なんてない”のだと、“気を抜いたっていい”のだと。

少年高鳴る胸と恐怖とで震えながら彼女に言った。

「頑張りすぎてんだよ、お前は・・・・・・。」

「え・・・・・・?」

奈々香の顔にすこし戸惑いや焦りに似た色が浮かんだ瞬間。

ドッカァァァンッ!バリバリバリッ!

物が壊れる音がして、明かりという明かりが消えた。

「キャッ!」

初めて浮かぶ、彼女の少し慌てて、戸惑う表情。

いつもしっかり者の彼女の姿は気を抜いた、少女の奈々香本心の中にはなかった。

ふいにかけられた言葉がかなり驚いたらしいが、次の瞬間にはもとのしっかり者の彼女に戻っていた。

「停電だ・・・・・・蝋燭ある?」

「えっ・・・・・・あぁ、そこに・・・・・・。」

指差した先には壹也のトラウマから買い溜められた蝋燭数本の束が埃を被っていた。

「やだ・・・・・・壹也、これじゃ明かりっていうより肝試しじゃん!」

奈々香は白く太い一本の蝋燭を握り、笑い声をたてた。

正直、奈々香は誰でも男女構わずこんな感じなので壹也の部屋にはよく遊びにくるが、壹也の事をどう思っているのかは不明である。

「う、うるせ・・・・・・。」

空が光る旅に肩をすくめながら壹也は奈々香に言葉をつっかえながら返す。

「ガスコンロ、借りるね。」

そういって手慣れた手つきで蝋燭に火をともし、怯える壹也のそばに持ってくると、再び壹也のそばに腰を下ろした。


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