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オートセーブは深夜0時に  作者: 夕凪の鐘
Episode12 鎖を砕いてその先へ
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64話 恋の病は不治の病

「お邪魔します。やっぱり先に来てましたか、レイジ。」

「久しぶりだな、セツナ。そしてミライも。」

 ミライはともかく、セツナとは昨日会ったばかりだ。とはいえ昨日を除けばヒカリ、ヒエイとのお泊まり会以来の顔合わせだ。レイジはそのことをヒカリに知られたくないので、四月末以来彼女とは会ってないことにするつもりでいた。

「久し……そうですね。」

「久しぶり。元気そうね。」

 セツナは後ろ手に紙袋を持っている。ヒカリに何かと聞かれたときは後で分かると言っていた通り、デザインした衣装は忘れずに持ってきたようだ。ようだというのはセツナ本人がちゃんと衣装を入れた袋を持ってきたと思い込んでいてその心を読んだからであり、セツナが間違えて別の袋を持ってきておりそのことに気づいていないという可能性も捨てきれないからだ。


 二人を自室に上げ、四人揃ったところで本題に入る。

「さて、今日はヒカリたちに渡したい物がありまして……何ですかレイジ? 拳を構えて……」

 セツナは紙袋を漁って中身を取り出す。これで実は忘れてましたというオチならぶん殴ろうと思っていたが、問題なく二人分の、レイジとヒカリのライブ衣装を持ってきていた。

「……ああと……びっくり箱かなって。」

「そんなの持ってきませんよ。子どもじゃあるまいし。」

 もちろんびっくり箱なんてのはでたらめだ。衣装を作る打ち合わせをしたことすら内緒にしておく。あくまでセツナは一人で作り上げたことにしておくには、レイジは中身を知らないふりをしなければならないのだ。


「……じゃん! どうですかヒカリ! カッコいいでしょう!?」

「へぇー、何!? どうしたのこれ?」

 ヒカリが以前呟いていた、ミライたちとは別の高校でも文化祭ではライブをやりたい。その願いを叶えるために、レイジと二人でパフォーマンスを見せる。そのための衣装だとセツナは説明すると、ヒカリは信じられないと驚く一方とても喜んでいた。


「でも、レイジもできるの? 今までそんなこと言ってなかったのに。」

「まあ、趣味で買ったギターがあるからな……すぐ飽きて全然弾けるようになってないけど。」

「レイジってギター持ってるんですね! それならちょうどいいじゃないですか。この機会に二人で練習してみるのはいかがでしょう!」

 レイジにも衣装を渡している横で、ヒカリは早速シャツを上に着てみせていた。やや大きめに作ってあるため上着の上に重ねて着ることもできたが、やっぱり見映えが悪いのでちゃんとシャツ一枚で着たいと思っていた。

「ねえ、ちょっと着替えてきてもいいかな?」

「どうぞどうぞ! もし不具合や要望があれば何でも言ってください。」

 ヒカリはウキウキで部屋を出て着替えに向かった。じゃあ俺もと言わんばかりにおもむろに腰を上げたレイジはセツナにストップをかけられヒカリが戻ってくるまで部屋を出さしてもらえなかった。


「どう、かな……似合ってる?」

 ヒカリが着てきたTシャツには、黒をベースに青い筋が十字に交差した模様が両面に描かれ、(いびつ)な形をした月と思わしきものが背面に描かれていた。

 レイジはシャツを着たヒカリそのものより、その厨二心を(くすぐ)られるデザインに目を奪われていた。そうとは知らないヒカリは、まじまじと彼に見つめられて恥ずかしく思っていた。


「そ、そんなにじっと見ないでよ……恥ずかしい……」

「ほら、何か言ってあげたらどうなの?」

 レイジのドキドキがヒカリの望んでいるそれではないことはミライに見抜かれていた。鼓動の違いはそんなところにまで現れるのか。言われてから言うのもどうかとは思うが、何も言わないよりはいいだろうと考えたレイジは本音で答えた。

 取り繕った言葉ではない、紛れもない自分の本音で。


「なんて言うかその、似合ってるよ。デザインもいいけど、それが似合って見えるのはヒカリだからかな。」

「えへへ、嬉しい。」

 素直に喜び照れ顔を浮かべるヒカリ。もしこの場がレイジとヒカリの二人きりだったなら、彼は欲望を抑えきれずに押し倒していただろう。その証拠に、ヒカリの言葉を聞いた途端彼の鼓動が急変した。それが非常に危険なものだと判断したミライは、咄嗟に立ち上がるとレイジの両手を押さえ込んだ。


「どうしたのミライ!? 急にレイジの腕掴んで……」

「いいからあなたはこいつに近づかないで! 今の鼓動は恐ろしくヤバい思考に至っている合図よ!」

 ミライの叫びと同時に手首を握る力が強くなった。レイジは掴まれた時点で元々抵抗するつもりはなかったのだが、あまりにも強く握られて痛くなってきたのでさすがに解放してほしくなり、痛い痛いと呟きながらミライが力を弱めてくれるのを願った。


「……落ち着いたようね。いいわ、放してあげる。」

 しかしミライは追い討ちと言わんばかりに一瞬強く握りしめ、思わず声を漏らしたのを聞いてその両手を放した。


「今のヒカリの思考も相当危ういわよ。」

「ふぇっ!? もうミライ、勝手に鼓動を聞かないでよ!」

 勝手に心の声を聞いてしまっているレイジにも突き刺さる一言だった。しかしここまで来て真実を打ち明ける気にはなれない。人の心が読める能力を持つ者は、どこもこういった悩みを抱えるのだろうと思ったレイジは、これからは迂闊に能力のことを人に話すまいと決意した。


「さて、気が済んだところで次はレイジの番です。ではこれを。」

 セツナは紙袋からレイジのTシャツを取り出し、乱暴にテーブルに叩きつけた。

「お前相変わらず俺への当たり強いな。」

「無駄口はいいですから早く着替えてください。サイズは適当なので、調整の必要があるかの確認です。」

 そうは言っても適当にLサイズのTシャツを買ってそれに色を塗るだけで完成なので、サイズが合わないという問題はない。これもまたセツナがレイジと打ち合わせを行わずにデザインに取り組んだことをアピールするための芝居だ。レイジは何も知らないふりをして、無言で部屋の入り口へ向かった。

 ドアノブに手をかけ少し開けたところで、レイジは後ろを振り返ってヒカリたちの顔を一瞥(いちべつ)して言った。

「……覗かないでね。」

「誰得なんですか!」

「早く出ていけ。」

 即座に言い返してくるセツナとミライとは対照的に、ヒカリは黙り込んでいた。

「ってヒカリは何で顔を赤らめてにやけているのですか!?」

「セツナ、この子はもう手遅れよ。」


「どうだ? 似合ってるだろ?」

「中身はともかく、我ながら完成度の高いデザインですね。」

「でもちょっとミスマッチ感があるわね。セツナが作ったにしては何か色合いの違う感じがするわ。」

 さすがにミライは鋭い。ギターを持ってこそ完成するデザインがコンセプトなので、今のままでは少し違和感があるのも当然だ。ギターに合わせてデザインしたことなど知らないミライには、このできばえにはいまいち満足がいかず思うところがあった。


「これでいいんですよ。その理由は文化祭本番になって分かります。」

 その一言でミライは納得したかに思えたが、彼女はさっきから薄々感じ取っていた。レイジとセツナの言葉には、ときどき嘘が混じっていることに。

 それに気づいたレイジは後悔した。嘘発見器の前で、裏側を知られてはいけないサプライズを仕掛けることがいかに愚かな判断だったのかを。

 嘘をつけば心拍は不自然に速くなる。その変化に気づけるのは、鼓動が聞こえる能力を持つミライの得意技だ。彼女の前ではいかなる嘘も見抜かれてしまうのだ。

 しかし身体能力の向上はなく、索敵や尋問くらいでしか戦闘には役立てないので、レイジの加入によって現状十人となったSランクの高校一年生の中では最も評価が低い。が、レイジにとって一番苦手な相手である。

 相手の心を読みそれに合わせての言動が自分の本意と違うものであれば、嘘をついたと悟られてしまうのだから。


「セツナ。昨日レイジとどこか行った?」

 いきなりの豪速球(ストレート)が飛んできた。上手くごまかすのを期待したが、心の声や鼓動が聞こえなくても一目で気づけるほどに動揺しており、レイジはもう駄目だと察し諦めた。

「べ、べべ別に、どこにも行ってませんよー。本当ですよー。」

 ミライはセツナに顔を近づけさらに詰め寄った。彼女の鼓動がさらに速くなり、嘘がバレているのが丸分かりだ。


 ここまで来られては仕方がない。変にごまかすと余計に怪しまれると思い、レイジは真相を明かすことを選んだ。

「そうだよ。昨日俺はギターを買いにセツナと一緒に出掛けた。俺のTシャツは、そのギターの色合いに合うようにデザインしたんだ。」

「……それは本当みたいね。」

 ミライからの疑いは少しだけ晴れた。できればこのタイミングで彼女には帰ってほしいのだが、そうもいかない。それこそ彼女たちユニットの信頼関係にひびが入りかねない。


 一方でヒカリは次々と質問してきた。どこで買ったのだとか、なぜ買ったのだとか。疑い、問い詰めに近いその迫り方に我慢できなくなったセツナはヒカリの目を見て大声で話した。

「ヒカリが文化祭で歌いたいって言ってたからですよ。無理を言ってレイジにはギターを買ってもらいました。内緒で買いにいったのも、Tシャツを作ったのも、全部ヒカリが喜ぶと思ったからやったことなんですよ!」

 セツナがそこまで言うとさすがに疑うのは筋違いだと分かったのか、ヒカリは謝り改めてお礼を言った。

 けれども、ミライからの疑いは晴れていない。


「でもいいなあ、セツナは。あの駅の近くって何でもあるんでしょ?」

 確かにレイジやセツナたちの高校、自宅近辺に比べて遥かに都会だった。ビルが立ち並び、多くの食事処で賑わう島の中核であるその市は、少し駅から歩くだけでだいたいの種類の店に行ける。ここからは気軽に行けるほど近い場所ではない、いわば誰もが憧れる町だ。

 セツナはそんな町に一度行ったくらいで調子に乗って、その勢いのまま口を滑らせないかレイジは不安になった。


「そうなんです! なんとあそこの高層ビルにはレストランがあってその豪華なしょくんぐっ」

「豪華なショーウィンドーが綺麗だったんだよなー! でも高くて食事はできなかったのがなーって話をしたんだよなー。」

 レイジの不安が的中し、咄嗟にセツナの口を押さえた。抵抗こそしたが自分の発言がまずかったと自覚した彼女は首を縦に振ってもう話さないように気をつけなければと思っていた。

 二人でレストランに行った理由を遡れば、朝から海で遊んでいたことまで話さなければならなくなってしまう。別に付き合っていないのだから浮気なんてことになるわけではないが、このことをヒカリが知ればショックを受けるのは目に見えているだけに、事実とはいえ知られたくなかった。


 しかしそれを黙っていれば後々彼女は傷つく。だから正直に話した方が良いと考える派のミライからしたらそれは都合の良い逃げでしかない。さっきのレイジの発言、食事はできなかったというのが嘘だと分かっている彼女はさらに深く切り込んできた。

「食事をしたのね。その高級レストランで。」

「……はい。しました。」

 レイジはもう言い逃れできないと思い、諦めて頭を下げた。肝心なのはこの後の言葉だ。


「でもあれは、決してやましいものじゃないんだ。その、本命の誰かと行ったときに恥をかかないためのっていうか……セツナもそうだろ?」

「もちろんですよ。あんなのリハーサルのリハーサルですから! それに……」

 セツナはヒカリの方を向いた。そして今から何を言うのかが読み取れたレイジは咄嗟に両耳を押さえた。

「二人きりでリゾートスポットへ行ったヒカリは、遊びで来たんじゃないって証明したんですか!」


 急に矛先が変わり、そして鋭く突かれたヒカリの顔が急激に熱くなった。

「あ、あれはまだ、試合の祝勝会みたいな感じだったから……」

「私だって、いつかはそういう経験がしたいです! 高校に上がって、出会いがあると思ってました。私はヒカリが羨ましかったんですよ。入学してすぐに運命的な出会いをしたヒカリが!」

「分かった分かったストーップ!」

 本人の前で言われることに耐えきれなくなり、慌ててストップをかけたヒカリはセツナが口を閉じた後にゆっくりとレイジの顔へと目を向けた。


「あの、今の話は……」

「え、何か言ってた? セツナの声がうるさかったから何も聞こえなかったんだが。」

 聞こえなかったのではなく、聞こえないふりである。実際は耳を塞いでも心の声として実際の言葉が聞こえてしまうので、痛い思いをするだけであり本当に塞ぐ必要がない。そして何をやっても聞こえてしまうので、そのときの鼓動の変化は確実にミライに気づかれてしまう。


「まったく……私のためにこんな素敵な衣装作ってくれたのは嬉しいけど、ついでに色々やり過ぎなのよ……」

「ごめんなさいです、ヒカリ。まさかこんなに反感を買うなんて……」

 恋人関係ではない男女が気軽にすることではないとは思いもしなかったセツナはミライにしっかり教育してもらった。そしてレイジとは二度と二人きりで出掛けないよう指摘された。


「レイジもよ。気があるわけではないのに下手に女の子と関わりを持とうとすると、誰かを悲しませることになるわよ。」

 経験者は語る。そしてヒカリは俯いている。彼女にとって一番つらいことは親友であるセツナと結ばれることだ。それは万が一にもないことはレイジにもセツナにも分かっているが、彼女を納得させるには後一歩足りていない。


「俺はこの通り、ギターを一昨日の夜に買ったばかりで全然演奏なんてできないんだ。でも文化祭まで三週間に練習するだけで、ステージで発表できるようになりたいと決めたんだ。その理由が分かるか?」

 そういうことでいいだと言わんばかりにミライは頷く。ヒカリも気づいてはいたのだが自信が持てないのと間違っていたときに恥ずかしくなるので口に出すことはできなかった。


「その理由はヒカリ、お前の願いを叶えたいからだよ。だからこれから三週間、俺と一緒に頑張ろうぜ。」

 ヒカリの頭に二つの出来事が蘇ってくる。

 入学式の日、ボーカルユニットのメンバーとして自分を見てくれて最初に話しかけてくれたレイジ。そして先週の土曜日高校が別々で一緒に文化祭に出れないことを残念がっていた自分に、レイジとの共演を計画しているサプライズを用意してくれたこと。


 そして今、声として受け入れることができた事実に、ヒカリは思わず嬉し涙を流していた。レイジの伸ばした右手に両手を重ね、ヒカリは少し見上げてレイジの目を見て言った。

「私こそ、よろしくね。……ふふっ、なんか夢みたい。」

 確かに成功させるとなれば夢みたいな光景だ。しかしここで終わりではない。あらゆる時間を割いて必死に練習しなければろくに弾けるようにならないし、演奏と歌を合わせなければ成り立たないため息を合わせる練習をする時間をさらに用意しなければならない。

 だからこそ、SランクだとかS+ランクだとかでどうこう言っている場合ではない。四日後の土曜日のトシヤとの決闘に負けてリベンジなんて言える余裕はない。

 何人かに聞いて導き出したトシヤとの決戦の案、そして見えてきた攻略法。それだけでもう十分だ。

 レイジは決戦の日までの三日間、放課後に遠出することもなく、ひたすらギターの練習をして過ごした。

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