8話 次なる刺客
「今から10分後にそっちに着く、だそうよ。」
皆が水着から着替え終えた後、カリンはヘキサフリートのチャットを見てそう言った。
近くのコンビニで待機していたので、随分と早く到着するようだ。
「ちなみに次は誰が来るの?」
チャットを見ていないクオンは質問した。
「全員よ。」
「は!? 今から3回も勝負するのかよ! それはさすがに厳しいぞ!」
レイジは焦った。手の内がばれるほど不利になる。3人を1人ずつ連続で相手するよりかは、3人まとめて1つの勝負で相手するほうが勝算があるかもしれない。
もうすぐ日が沈む。そろそろイブキがトレーニングにやってくる時間だ。
彼女の前で自分が勝利すれば、実力を認めてくれるかもしれないが、勝利できる確信はなかった。むしろ彼女には自分の活躍する姿を見せることはできないのではという不安のほうが大きかった。
悩んだ末、彼女が来る前に決着をつけようと決めた。
「いや、問題ない。3人まとめて相手になってやる。」
レイジは3人が来るのを待った。
強さというのは気配でだいたいわかる。Sランクで、さらにニュースになる大騒動を起こした張本人たちならば尚更のこと。そもそもこんな時期のこんな時間帯に海に来る人などいないわけで、約束の時間にやってきた連中はその3人だと即座に断言してもいいくらいだった。
「貴様が三門玲司か。外部から来たSランク、どこか不気味さがあり、底知れない強さを感じる。俺は水天宮渡。ヘキサフリートのリーダーだ。以後よろしく。」
ワタル。レイジと同じ学年の中ではかつてこの島最強で、唯一のSランクだった人間。その後次々とSランクが現れ、その上のS+ランクもできた。
彼の位置は相対的に下がったとはいえ、その強さは衰えたわけではない。
かつての最強と、それに匹敵する力をもつ彼の仲間2人と同時に戦うのかと思うと、武者震いが止まらない。
「勝負のルールは今まで通り貴様が決めていい。俺ら3人全員がそれに納得したらそのルールで決まりだ。」
レイジは間髪入れずに答える。
「もう既に決めてある。それは缶けりだ。おにはお前たち3人で、制限時間は5分。それまでに俺が缶を蹴飛ばせば勝ち、5分経っても缶を蹴飛ばせられなければお前らの勝ち。これでどうだ。」
「それなら俺らは缶の近くで守っていればいいし、貴様を捕まえたらどうするんだ?」
「護衛範囲に制限はつけない。代わりに俺にタッチしても5分経つまでは勝負続行、だから俺はお前らを突き飛ばしてでも缶を蹴りにいく。」
つまり3対1の喧嘩に勝って、缶を蹴って勝負にも勝つということだ。
「さっきまでの勝負と違って、力勝負一筋なのね。」
「何をしてくるかわからないのがレイジの戦い方よ。でなければ3対1の勝負なんてしてこないわ。」
カリンやクオンもレイジの戦術を予測しているが、あまり参考にならない。
レイジの発想は、相手や周りの様々な人の状況予測やアイデアなどを読み取り、それらを取り入れることによって生み出される。たとえ勝負開始前に状況打破の策がなくても、周りの助けによって突破口を見つけだす。現にさっきはカリンの助けがなければ、クオンにはまず勝てなかっただろう。
制限時間は5分と長めにとった。作戦を考えるのは勝負が始まってからでも遅くはない。レイジは勝負の開始を促した。
「じゃあ始めようか。その缶をここに置け。俺は100メートルくらい遠くに行く。」
レイジはワタルが持っているコンビニの紙袋を指差し、袋の中にある空のアルミ缶を砂浜に置くように言った。
「それじゃあ準備はいいかしら? 勝負、開始!」
クオンは開始の合図をし、ストップウォッチを押した。
まずはワタルが腕を前に出した。
ワタルの能力は腕を磁石のN極に変えること。磁石になった彼の腕は、鉄を含むあらゆるものを吸い寄せる。レイジが服の中に隠し持っていた鉄製ナイフも奪われてしまった。
「まさかこんなものを持っているとはな。これが俺の能力だ。まずは1つ、貴様の策は潰れたな。」
彼の愛用している銀のナイフは学校のグラウンドに置いてきたままだ。想定していたとはいえ、予備の鉄のナイフまで奪われたのはかなりまずい状況かもしれない。
その後、レイジの元に、3人は猛スピードで迫る。3人は容赦なくレイジに殴りかかった。
レイジは一般人相手なら何人が相手になろうと1人で太刀打ちできる。相手のばらばらの考えも動きも丸わかりなので何人かは自力で倒せる。残りは悪夢の瞳の力で摩訶不思議な現象を引き起こすことで一斉に蹴散らせる。
彼への敵意が強ければ強いほど、多ければ多いほど恐ろしい出来事が起こる。しかし今回は大して敵意を抱いてない少人数が相手なので、瞳の力を使っても勝ちは見えてこないだろう。
いかに相手の動きを読むかにかかっているが、この3人、お互いがお互いの動きを読んでくる。能力などではなく、産まれたときから一緒に過ごしてきた仲間だからこそ活きる直感なのだろう。これではかなり分が悪い。
彼らが殴りにかかったのは、傷つけるためではなく牽制するためだ。
レイジの逃げ道を潰し、そこからどう切り抜けるかを見るのが彼らの目的だ。
レイジが拳を避けられたのは最初の2、3発のみ。原因は三郷楽阿だった。
ヘキサフリートの一員で、能力は過剰に相手を疲労させる、オーバーワーク。レイジは拳を避けるために足や上半身を動かしたが、少し動いただけでスタミナが切れてしまった。
とはいえ彼らにとっては予想外だったのか、一方的にやられているレイジに拍子抜けしていた。
「こんなものだったのか。貴様の力は。俺らを失望させるな。」
スタミナが切れ、追い討ちをかけるように次々と殴られて倒れたレイジにワタルは一言言い放つ。
カリンはどこか悲しげな表情を浮かべる。
しかしレイジはゆっくりと起き上がろうとし、3人を視界に捉えようとする。
まだ、終わらせない。
レイジは立ち上がり、缶を目指して走り出した。
再び3人は止めを差しにいくが、レイジはさっきよりやや粘っている。拳の速さに慣れたのか、拳が当たってもさほど音の大きい衝撃は受けなくなったようだ。
レイジは回避を続けつつ、ジリジリと海に近づいて3人を誘導していった。
すると突如大きな波がやってきた。レイジは瞬時に全速力で海に背を向け走り出す。残された3人の足元が海水に浸かる。その瞬間、3人の足元が泥濘んだ。
待ってたと言わんばかりに、レイジはその隙を突いて缶をめがけて走り出した。遅れをとってしまった3人は、足場が不安定でうまく追いかけられないようだ。
この勝負、もらった!
缶を蹴るまで後1歩。しかしそこでレイジは負けてしまった。
蹴飛ばす直前、彼の頭に野球のボールがぶつかり、そのまま彼は勢いよく砂浜に倒れこんだ。
「やったわ! 私の勝ちよ! まったくあんたたちまでこいつに苦戦してどうするのよ。私の助けがなかったら負けてたやっぱりヘキサフリート最強はこの私ね! これからは私をそう呼びなさい!」
レイジの頭にボールをぶつけた張本人は、今日の放課後、余裕ぶって登場してすぐグラウンドから逃げ出したトモエだった。




