第二話 冒険者登録
こんな私の作品に読んでブックマークをしてくれた人が、もう一人居てくれましたが。一話投稿度に一人増えると、運営じゃないよなと思ってしまう。今日この頃。
「…ここが、ギルド本部の中か」
スイングドアを開けて建物の中に入ると、想像していたより静かで人がほとんど居なかった。
そして中はとても広く、どうやら一階は吹き抜けのようで、三箇所の施設で一つの建物のようだ。
俺がギルド内を見回している間に、お爺さんは他の事に見向きもせずに、受付のような場所に向かっていたので、俺も急いで付いて行った。
「今、いいかな?」
「…ああ、大丈夫だよ。何だい?」
「じゃあ、彼の冒険者登録をしたいんじゃが」
と言ってお爺さんは、俺を受付にいたギルド職員らしいおばさんの前に押し出した。
「この子の冒険者登録だね。ID登録も、まだのようだね。成人はしてるんだよね?」
「…はい」
「…じゃあ、成人した者の義務のID登録は、お金はかからないから。冒険者に必要なID機能のギルド・マネー機能でいいかね?機能一つの付与料金が5,000マドカで、合計10,000マドカだよ」
「え!?…お金、必要なんですか?」
「当たり前だよ。お金が無いなら、冒険者登録は出来ないよ」
転生したばかりで、この世界のお金について知らないし、当たり前だが1マドカも持っていない。ルリは何も言っていなかったが、服も変わっているから一縷の望みで、ズボンのポケットに手を突っ込んで探してみるが、何も入っていなかった。
「出世払いとかでも、ダメですか?」
「ダメだね。冒険者は、命がけの仕事だからね」
「ワシが、代わりに払おう」
俺と受付のおばさんが話していると、脇からお爺さんが話に割って入ってきてこう言った。
「え!?お爺さん、払ってくれるんですか?」
「キミが、こうなるんじゃないかと思っていたんじゃ。ほら10,000マドカじゃ」
お爺さんは、門でも見せたIDと呼ばれる無色透明な石を指で持って、受付のおばさんの方に突き出した。門で見せたように石は光っていたが、一瞬だけ強く発光した。
すると受付の奥にある大きな石(お爺さんの石を、一メートル程度の大きさにした無色透明な双角錐)も一瞬淡く発光した。
そして受付のおばさんは、一瞬だけ何も無い目の前の空間を見つめた。
「はい、確認したよ。じゃあまずは、この《メモリーストーン(記憶石)》に血を一滴垂らしてね。その石をIDに加工して、機能を付与するのに約一時間程度かかるから、その間にIDと冒険者ギルドについて簡単に説明するからね」
俺が受付のおばさんから、お爺さんが持っているIDと全く同じ物のような、メモリーストーンと言う石と小さな針を受け取った瞬間。
「あとは、大丈夫じゃろ。『それでは、ハーピアでの新しい人生を楽しんで下さいね♪』」
「…え!?」
(今一瞬、お爺さんの声に変な声が重なって聞こえたような!?)
最後にお爺さんが発した声に重なって聞こえた声が、つい最近何処かで聞いた事がある声だった。
俺が驚いて固まっているうちに、お爺さんはギルドのスイングドアを開いて外に出て行った。
(あの声って、…まさか!?)
俺は、お爺さんを追いかけて勢いよく走って行き、スイングドアを勢いよく開けた。
そして、外の光景を見て確信した。なぜなら、そこにはお爺さんどころか馬車も荷台も無かったのだ。数秒の差で見えない距離に移動する事は、魔法でも使わなければ無理だろう。そんな事をする理由は、この街に用があるだけの普通の人にはないだろうし、それにあの声はあの変な小部屋で会ったルリと名乗った女性の声だった。
(ルリィィーー!!俺の前にもう一度出て来て、色々説明しろぉぉーー!!)
と、俺は心の中で叫んだ。
だが、どうせ出て来ないんだろうと探す事をすぐに諦めて、冒険者登録の続きをするためにさっきの受付に戻る事にした。
建物の中に入り、受付のおばさんを見ると怒っているのか心配しているのか、ちょっと複雑な顔をしていた。
「急に外に出て行ったけど、どうしたんだい?」
「いえ、あの~。…お爺さん(ルリ)に、まだお礼を言ってなかったので言っておこうとしたんです。…心配をおかけして、すみませんでした。…話の続きを聞かせてもらってもいいですか?」
(ちょっと冷静になって考えると、ルリが俺をこの街まで連れて来てくれたし、冒険者に必要な初期費用も払ってくれた。…ルリって結構いいやつなのかも)
[注:読んでくれている方は、分かっていると思いますが。誰かの子供として転生しなかった事により、お金を渡さなければいけないのを忘れていたルリが、お爺さんとして現れただけです]
俺は、ルリについて間違った認識を自分自身で作り上げてしまった。
そして、受付のおばさんに声をかけられて現実に引き戻される。
「そうかい。じゃあまず、メモリーストーンを加工したいから、血を一滴垂らしてくれるかい」
「…ああ!?すみません」
受付のおばさんに言われて思い出し、すぐに針で指を刺して血を一滴メモリーストーンに垂らしてから、受付のおばさんにメモリーストーンを渡した。
「これでいいですか?」
「ああ、大丈夫だよ。……ああバーン、悪いんだけど今からこのメモリーストーンの加工を頼むよ」
受付のおばさんは、周りを見回して奥に居たギルド職員らしいエルフの人に頼んでいた。
「じゃあ、まずはIDとID機能のステータス・マネー・ギルド機能について、簡単に説明するよ」
「はい、お願いします!」
❖ ❖ ❖ ❖ ❖
・ID――メモリーストーンを加工して、血からその人物の情報を読み取り記憶させた石で、成人した者が義務で登録しなければならない身分証。縦の長さが約三センチの双角錐で基本的には無色透明で、街の住民登録をすると住民IDと呼ばれ、ギルド機能を付与する事でギルドに登録するとギルドIDと呼ばれて登録者のランクによって色が変わる。街の軽犯罪を犯すと縦の白と黒のボーダー柄になり、ギルドの軽犯罪を犯すと横の白と黒のボーダー柄になり、犯した規則に対して罰金を払えば元に戻る。そして、街・ギルドに重なる規則を犯した場合か、重犯罪と定められた規則を犯した者は白と黒のチェッカー柄になり、重犯罪者のみ犯罪奴隷になる。他にも、色々な機能を付与する事も可能だ。最後に登録者の確認機能として、登録者が直接触れると光を放つ。
・ステータス――ID登録をした者の、ステータスを表示する機能。ステータスには、登録者の身体能力や魔法・スキルなど色々な事が表示されて、登録者本人と80%以上の信頼度を得た契約者にしか見る事が出来ない。
・マネー――ID機能の一つで、今現在ハーピアで使えるお金を授受する機能。ID登録した本人にしか使う事が出来ないので安全面が増したので、昔に使われていた硬貨がなくなった。この機能を作った者によって、《通称・サイフ》と呼ばれている。
・ギルド――ID機能の一つで、ギルドに在るギルドストーンに登録する機能。ギルドの施設を利用する事が出来て、魔族の討伐履歴を自動的に記録してくれたり、レベルによってIDの色をギルドランクの色に変化させる。ギルドランクはレベルにより色分けされていて、ギルドIDの色でランクが分かるようになっている。
❖ ❖ ❖ ❖ ❖
「何か分からない事はあるかい?」
「はい、ステータスやギルドの施設。そして、魔族についてもう少し聞きたいです」
「ステータスについては、IDが出来てからのが分かりやすいから。残りの二つの事は、冒険者についての説明の後でも分からなかったらでいいかい?」
「はい」
「まず冒険者(ギルド登録者)とは、ギルド本部に街の住民が来て色々な依頼をしてくるから、その依頼の中から自分に合った依頼を受けて、それを達成する事でお金を稼ぐ人達の事だよ。ランクは―――」
❖ ❖ ❖ ❖ ❖
―――G~SSSまでの十段階に別けられている。そしてレベルによって、それぞれレッド(G・Lv.1~10)・オレンジ(F・Lv.11~20)・イエロー(E・Lv.21~30)・グリーン(D・Lv.31~40)・ブルー(C・Lv.41~50)・パープル(B・Lv.51~60)・シルバー(A・Lv.61~70)・ゴールド(S・Lv.71~80)・ブラック(SS・Lv.81~90)・レインボー(SSS・Lv.91~100)と、Lv.10毎にギルドIDの色が変化する。
そして冒険者ギルドはギルドストーンの特別な機能により、冒険者が犯罪行為を行った場合にギルドIDから情報が入って、その冒険者が何処で何をしていても、軽犯罪ならIDが横の白と黒のボーダー柄になって、重犯罪ならIDが白と黒のチェッカー柄になり指名手配されて懸賞金がかけられる。
次に冒険者として気を付ける事は、拠点の街を一週間以上離れる時や違う街に拠点を移す時は、その街のギルドに報告しに行ってギルドストーンによる街登録を解除する事だ。あと期限付きの依頼は期限内に達成する事が出来なかった場合は、依頼主に違約金を払う事になるので、依頼を受けるかは慎重に決める事。最後にCランク以上の冒険者は、緊急依頼が出たら受ける義務が発生する。
❖ ❖ ❖ ❖ ❖
「緊急依頼は、なんでCランクからなんですか?」
「それは緊急依頼が、強い魔族の率いる魔族軍との戦闘だからだよ。だからレベルの低い冒険者には、義務が発生しないんだよ」
「そうなんですか」
「まぁ義務はないけど、受けるのは自由だよ。でもアンタはまだ若いんだから、命は大事にしなよ」
「はい、気を付けます」
「あとは、魔族についてだね。魔族は―――」
❖ ❖ ❖ ❖ ❖
―――体内に魔石を持ち、魔物・魔獣・魔人・魔将・魔王・魔神の六段階に分けられている。魔神以外は、個体のレベルによって名称が変わると言われている。まず魔物とは、魔石の周りに流動体の体を持つスライムやスライムが他の生物の口から体内に入って、体を魔族に急成長させる事によって、体が2~3倍程度に大きくなった生物の事を言う。もしくは、魔人以上の魔族によって生み出された生物が魔物に該当する。―――
❖ ❖ ❖ ❖ ❖
「―――次に、魔zy」
ゴーン、ゴーン、ゴーン。
と、鐘の音が響いた。
「もう、お昼かい。…バーン、加工は終わったのかい?」
バーンさんがこちらに近づいて来たので、受付のおばさんがメモリーストーンの加工が終わったのかを聞いた。
「…終わった」
「お疲れさん。ほら、アンタのギルドIDだよ。あとID登録者に配布される、《ロッククリスタル(固定鉱)》と《プレアーストリング(祈りの紐)》だよ」
受付のおばさんから、ルリ(お爺さん)が持っていたのと同じ約三センチの双角錐だが、色が赤い石を受け取り。初めて聞く物の名前で、無色透明で上が輪っか状に成っていて下が双角錐の尖った方がスッポリ入るような凹みがあるロッククリスタルと、真っ白な約五十センチの長さの紐であるプレアーストリングと言う物も渡された。
(何だ、これ?…でも、どっかで見た気がするんだよな。どこでだっけ?)
受け取って悩んでいると、受付のおばさんが説明を始めてくれた。
「じゃあ、それぞれの使い方を説明するよ。まずロッククリスタルを、IDに帽子のように被しながら〔ロック〕って言いな」
「分かりました。…この状態で〔ロック〕っと、これでいいですか?」
受付のおばさんに、言われた通りに言ってみた。そして受付のおばさんは、続けてこう言った。
「あぁ、それでいいんだよ。じゃあ手を放して、受付に落としてみな」
「……?」
意味がよく分からないが、また言われた通りにしてみた。
すると、受付にIDとロッククリスタルが一つの物の様にくっ付いた状態で落ちて、IDとロッククリスタルが分離する事は無かった。
「ロッククリスタルは、溶かしたガラスにメモリーストーンの粉末を混ぜてあるから。触れながら〔ロック〕と言えば、対象が固形物なら触れている場所を時が止まったように固定して、取れなくもなるしロッククリスタル自体を壊す事も出来なくなる。解除する時は〔ロック〕した者が、〔アンロック〕っと触れながら言えば出来るよ」
「そうなんですか、便利ですね」
「ロッククリスタルは、いろんな物に使われてるよ。次にプレアーストリングをロッククリスタルの輪に通してから、紐の両端を自分の髪で結んでみな」
「はい!」
何が起こるか楽しみながら、またまた言われた通りにしてみた。
さっきと違って、こちらはすぐに目に見える変化が起こった。紐の色が髪と同じ青くなって、両端が繋がって一つの輪になった。
「凄いな!紐が繋がったし、色が変わった!」
「それはプレアーストリングも、メモリーストーンの粉末と色々な素材を溶かした液体に浸けて作るから。IDが、血からその人物の情報を読み取って記憶するのに対して、この紐は髪の色を読み取って紐の色として記憶するのさ。それにプレアーストリングって言うだけあって、一度繋ぐと生半可な事では切れないんだよ」
「なるほどメモリーストーンって、色々な物に使われていて凄い便利なんですね!」
「それがそうでもないんだよ。例えばさっきのロッククリスタルは、ロックした状態では時が止まった様になってるからか、衝撃なんかを伝えないみたいで武器にも使えないし。だからと言って防具なら大丈夫かと言うと、あまり大きくすると自重で壊れてしまうから防具も作れないんだよ。利点もあれば欠点もあるって事だね」
「そうなんですか」
俺は頭の中で、今得た情報を少しずつ整理していた。
「じゃあ最後に、〔ステータス〕って言ってみな!」
「はい。…〔ステータス〕!」
異世界だと分かっていても、自分のステータスを見るのが少し嬉し恥ずかし不安だが、この世界では普通の事なのだと思って気合を入れて言ってみた。
するとギルドIDが赤く光って、目の前にステータスが表示された。
❖ ❖ ❖ ❖ ❖
ステータス
《雪谷 禎康》※転生者なので一度だけ変更・可
Lv.1 【ランクG】【¥0】
ジョブ:狩人
HP:50/50
MP:25/25
スキル: 早成
魔法: 自然魔法:Lv.1 【基礎】
❖ ❖ ❖ ❖ ❖
ギルドIDから出ている赤い光の中に、俺のステータスが浮かび上がった。
(スゲェ~!本当に、ステータスが存在する異世界なんだな!)
俺が少しだけ、ステータスが表示されるというファンタジーに感動していると、不意に受付のおばさんが話しかけてきた。
「どうだったんだい?」
「えっと、どうと言うのは?」
「ああ、すまないねぇ。レベルとかジョブは、どうだったのかなと思ってね?」
「えっと、レベル1の狩人ですね。でも、こんな事聞いて意味があるんですか?」
受付のおばさんは、俺の疑問に一拍置いてから説明してくれた。
「レベル1の狩人かい。…そうだね、知ってると思うけど。男性は世界的に人数が少ないからね、規則で戦闘職以外の男性には奴隷の購入を勧めているんだよ」
「…そうなんですか。それに、奴隷とは?」
「そうだねぇ。両親や親戚がもういなくて身寄りがなく、成人もしていない子供が孤児奴隷になり、重犯罪を犯して捕まった者が犯罪奴隷になるんだよ。そしてギルドに所属してる者なら奴隷にかかった費用を払えば、誰でも奴隷を所有出来て、色々な理由で引き取られる奴隷は、主人の思いに応えるために生きていくんだよ」
「この街にも、奴隷は居るんですか?」
「あぁ、居るよ。この本部の隣に、ギルドの施設の一つで奴隷を扱ってる場所があって、この前四人の孤児奴隷が連れて来られたからね」
「なるほど。…でも、なんで隣なんですか?」
「さっき言ったようにジョブ次第では、新人冒険者に勧めるからだよ。それにギルドの施設は、ギルドIDを持つ人が利用しやすいように、街の一箇所に集めてあるんだよ。それに戦闘職だけどレベル1なら、奴隷の所有を勧めたいんだけど、話の続きを聞くかい?」
「聞きたい事は色々ありますが、ギルドIDも受け取ったし、お昼も過ぎてしまったので、まずは依頼を達成してお金を稼がないといけないので、話の続きはまた今度お願いします」
「あぁ、そうだったね。料金も、お爺さんが払ってくれたんだったね。奴隷よりもまずは、自分が生活するためのお金を稼がなくちゃいけないんだね」
一先ずは冒険者には成れたので、この世界の情報収集よりも先に掲示板の依頼を見てから、俺にも出来そうな依頼を見つけて、依頼を達成してお金を稼がない事には、この世界で生きてはいけない。
「じゃあ俺は依頼を見てから、街の外に行って来ます」
「そうかい、気をつけてね。それから、ギルドIDは絶対に無くすんじゃないよ!」
「はい、気を付けます!その~」
俺が、受付のおばさんを何て呼べばいいか悩んでいると。
「うん?…そういえば、お互いに名乗ってなかったね。アタシは、フレアって言うんだよ。あんたの名前は?」
「あ!?そういえばそうですね。俺は、ゆk……ユニサスです!」
俺は、フレアさんにそう名乗った。
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この事によって、俺は日本人の雪谷禎康から、異世界ハーピア人のユニサスになった。
誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。
2017/7/13 改稿しました。