表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
75/93

第二章・十 「時間を稼ぐ者達」


 巨大な魔物が一歩踏み出す。


 ドォン、と地面が揺れた。


 近い。


 あまりにも近い。


 休憩所の入口まではもう数十メートルしかない。


 旅人達は必死に避難を続けている。


 だが全員が逃げ切るには時間が足りない。


「ユウマ!」


 ミナが杖を握る。


 手は震えていた。


 怖いのだ。


 それでも逃げない。


「うん」


 ユウマも短剣を構える。


 怖い。


 正直、今すぐ逃げ出したい。


 あんな相手と戦いたいとは思わない。


 だが。


 ここで退けば後ろの人達が危険になる。


 その現実だけは理解していた。


 巨大な魔物が再び前進する。


 視線は荷馬車。


 卵。


 幼獣。


 変わらない。


 だからこそ危険だった。


 目的のためなら何でも壊す。


 そういう迫力がある。


「ケイ!」


「おう!」


 二人が同時に走る。


 左右へ展開。


 正面には立たない。


 グラヴォルフ戦の経験が生きていた。


 真正面から受ければ終わる。


 なら動く。


 攪乱する。


 注意を引く。


 その時だった。


 巨大な魔物の耳が動く。


 次の瞬間。


 前脚が横薙ぎに振り抜かれた。


「速っ!?」


 ケイが叫ぶ。


 巨体からは想像できない速度。


 戦斧で受ける暇すらない。


 横へ飛ぶ。


 衝撃。


 風圧だけで身体が流される。


 背後の木柵が吹き飛んだ。


「おいおいおい!」


「反則だろ!」


 ケイが転がりながら立ち上がる。


 汗が額を伝う。


 笑っている余裕などない。


 今のは危なかった。


 少しでも遅ければ潰されていた。


 その時。


 ユウマが側面へ回り込む。


【スキル補助:《看破スキャン》】


 観察。


 呼吸。


 重心。


 筋肉の動き。


 少しでも情報を集める。


 だが分かる事は一つだけだった。


 強い。


 圧倒的に強い。


 今までの敵とは格が違う。


 その時だった。


 巨大な魔物の前脚が動く。


 狙いはユウマ。


「ユウマ右!」


 ミナの声。


 同時に頭の中へ感覚が流れ込む。


【魔法:《風糸エアライン》】


 風が教える。


 危険方向。


 回避経路。


 仲間の位置。


 ユウマは反射的に身体を捻る。


 直後。


 巨大な鉤爪が通過した。


 空気が裂ける。


 あと一歩遅れていたら終わっていた。


「助かった!」


「うん!」


 ミナの額には汗が浮かんでいた。


 支援魔法を維持し続けている。


 決して楽ではない。


 だが効果は大きかった。


 その時。


 巨大な魔物が低く唸る。


 赤い瞳がユウマへ向く。


 次の瞬間。


 地面を蹴った。


「えっ」


 巨体が跳ぶ。


 信じられない跳躍力。


 ユウマの頭上へ影が落ちる。


 まずい。


 避け切れない。


 そう思った瞬間。


「伏せろぉぉぉ!」


 ケイの叫び声。


 戦斧が飛んだ。


 回転しながら空中を飛ぶ。


 《グレイガルド》だ。


 巨大な魔物の顔面へ直撃する。


 鈍い音。


 流石に大したダメージにはならない。


 だが。


 一瞬だけ視線が逸れた。


 それで十分だった。


 ユウマは転がる。


 直後。


 巨大な魔物が着地した。


 轟音。


 地面が陥没する。


 土砂が舞い上がる。


「うわっ……!」


 ユウマは息を呑む。


 本当に危なかった。


 助けられた。


 その時。


「俺のグレイガルドぉぉぉ!」


 ケイが叫ぶ。


 戦斧は十メートル以上先へ転がっていた。


「投げたのお前だろ!」


 思わずユウマも叫ぶ。


「咄嗟だったんだよ!」


「あとでちゃんと謝る!」


「武器に!?」


「当たり前だろ!」


 緊張感の中で思わず笑いそうになる。


 だが。


 その瞬間だった。


 休憩所の奥から怒鳴り声が響く。


「ふざけるな!」


 商人だった。


「どれだけの価値があると思ってる!」


「返せる訳ないだろう!」


 アイリスと商人達が激しく言い争っている。


 交渉は難航していた。


 そして。


 巨大な魔物もそれを感じ取ったのか。


 再び荷馬車へ向かって歩き出す。


 ゆっくり。


 だが確実に。


 時間がなくなり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ