第二章・六 「風の支援」
赤い瞳がユウマを見ていた。
群れの中央。
一回り大きなグレイファング。
筋肉量も違う。
毛並みも荒い。
そして何より。
周囲の個体がその動きに合わせている。
「群れの頭か……!」
ユウマは短剣を構える。
だが。
その瞬間だった。
左右から二匹のグレイファングが飛び出した。
速い。
挟み込むような動き。
片方を避けてももう片方が来る。
「ユウマ!」
ミナの声が飛ぶ。
同時に風が巻いた。
淡い緑光。
ユウマの身体へ風が絡み付く。
【魔法:《追風》】
「えっ!?」
身体が軽い。
まるで重力が少し弱くなったような感覚。
踏み込みが速い。
足が前へ出る。
ユウマは反射的に身体を捻った。
牙が空を切る。
さらに半歩。
いつもなら間に合わない距離だった。
「ミナ!?」
「セレナさんに教わったの!」
ミナ自身も驚いているようだった。
だが魔法は確かに発動していた。
「後で説明するから今は戦って!」
「わ、分かった!」
ユウマは地面を蹴る。
加速。
回避。
そこへさらに風が流れ込む。
明らかに動きやすい。
テイルウインド。
仲間の機動力を補助する魔法らしい。
その時。
別方向で戦っていたケイが叫んだ。
「おおっ!?」
「なんだこれ!」
「身体が軽ぇ!」
「だから私がやったの!」
「ミナすげぇ!!」
喜んでいる余裕はない。
だが少しだけ空気が明るくなった。
そんな中。
群れの頭が動いた。
低い唸り声。
それだけで周囲のグレイファング達が一斉に方向を変える。
休憩所中央。
避難している旅人達へ向かった。
「まずい!」
ユウマが走る。
だが遠い。
間に合わない。
そう思った瞬間だった。
「任せて!」
ミナが杖を突き出す。
風が広がる。
今度は別の魔法陣。
円形ではない。
糸のような細い風。
透明な線が空中へ伸びる。
【魔法:《風糸》】
風が繋がる。
ユウマ。
ケイ。
ミナ。
三人を結ぶように。
次の瞬間。
頭の中へ感覚が流れ込んだ。
「右!」
ミナが叫ぶ。
ユウマは反射的に動く。
右側から接近していたグレイファングが見えた。
いや。
見えたのではない。
感じた。
風が教えてくれたような感覚。
「何だこれ……!」
「位置が分かる!」
ケイも驚いている。
ミナ自身も驚いていた。
「使えるか分からなかったけど!」
使えていた。
しかもかなり有効だ。
グレイファングの動きが読みやすい。
仲間の位置も分かる。
戦いやすさが段違いだった。
その時だった。
一匹のグレイファングがケイへ飛び掛かる。
大きい。
しかも正面。
回避は難しい。
「来い!」
ケイは逃げなかった。
両手で《グレイガルド》を握る。
踏み込む。
振りかぶる。
だが。
今までと感覚が違った。
重い戦斧。
その重さを利用する感覚。
敵を叩き潰すのではない。
砕く。
壊す。
崩す。
自然と身体が動いた。
【スキル適性変動中――】
視界端に文字が浮かぶ。
ケイは気付かない。
だがユウマは見た。
そして次の瞬間。
戦斧が振り下ろされる。
轟音。
グレイファングの前脚へ直撃。
骨が砕ける音。
狼が悲鳴を上げた。
地面へ叩き伏せられる。
【スキル補助:《崩打》発現】
一瞬だけ表示が浮かんだ。
「ケイ!」
「今の!」
「知らん!!」
本人が一番分かっていなかった。
「でも何か出来た!!」
それだけは確からしい。
その時。
群れの頭が咆哮した。
赤い瞳。
鋭い牙。
明らかな威圧感。
そして。
一直線にユウマへ向かって駆け出した。
速い。
普通の個体とは比べ物にならない。
「っ!」
ユウマは短剣を構える。
真正面からぶつかれば危険だ。
だが。
避ければ後ろの旅人達が襲われる。
逃がせない。
なら。
止めるしかない。
群れの頭とユウマの距離が一気に縮まる。
激突まで。
あと数秒だった。




