第二章・二 「街道の休憩所」
休憩所へ到着した頃には、太陽は高く昇り、青空がどこまでも広がっていた。
セイルを出発してから数時間。
荷馬車の揺れにもようやく身体が慣れ始めていた。
街道脇に建てられた休憩所は思っていたよりも大きい。
木造の食堂。
馬小屋。
井戸。
荷馬車置き場。
広場には多くの旅人や商隊が集まり、小さな村のような賑わいを見せていた。
草原の中を吹き抜ける風が気持ちいい。
セイルで感じていた焦げた匂いや煙の気配はもうない。
代わりに漂ってくるのは焼いた肉の香りだった。
荷馬車から飛び降りたケイが即座に叫ぶ。
「飯だ!」
それしか言っていなかった。
「まだ着いたばかりだよ……」
ミナが苦笑する。
「何言ってんだ。旅は飯だろ」
「それは否定できないかも」
ユウマも思わず笑った。
空腹だった。
かなり空腹だった。
四人は食堂へ向かう。
中は旅人達で賑わっていた。
人族。
獣人族。
長耳族。
様々な種族が同じ空間で食事をしている。
セイルでも見ていた光景だ。
だが今は違う。
ユウマは改めて実感していた。
彼らはNPCではない。
笑い、働き、旅をし、生きている人達だ。
案内された席へ腰を下ろす。
しばらくして料理が運ばれてきた。
香草焼きの肉。
温かな野菜スープ。
黒パン。
果実水。
どれも素朴だが美味しそうだった。
「いただきます」
一口食べた瞬間、思わず息が漏れる。
「美味しい……」
「だろ!?」
ケイは既に半分近く食べ終わっていた。
「旅先の飯は世界を救う」
「大袈裟だよ」
ミナが笑う。
アイリスも小さく口元を緩めた。
穏やかな時間だった。
戦いもない。
悲鳴もない。
燃える街もない。
こういう時間があるだけで心が少し軽くなる。
食事を終えた後。
ユウマは思い出したようにギルドカードを取り出した。
「そういえば依頼を確認しておこうか」
「お、そうだった」
ケイが身を乗り出す。
ユウマの前に半透明のUIが展開された。
【受注依頼】
【街道生態調査依頼】
・魔物分布調査
・異常行動報告
報酬:銀貨12枚
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【商隊状況確認依頼】
・街道商隊情報収集
・危険情報報告
報酬:銀貨8枚
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【探人依頼】
対象
・カナタ
・ミコト
・ガイ
有力情報毎に報酬
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「思ったより地味だな」
ケイが言う。
「今の俺達にはちょうどいいと思う」
ユウマは苦笑した。
まだ強敵と戦えるほどの余裕はない。
グラヴォルフ戦。
セイルでの戦い。
思い返すだけでも背筋が冷える。
生きているのが不思議なくらいだ。
「でも探人依頼は大事だね」
ミナが言う。
「うん」
ユウマも頷いた。
カナタ。
ミコト。
ガイ。
どこかで無事に生きていてほしい。
その思いは旅に出た今も変わらない。
何となく現在の状態も確認する。
視界端に表示が浮かんだ。
【ユウマ HP:89%】
【ケイ HP:92%】
【ミナ HP:96%】
かなり回復していた。
鐘楼での治療。
宿での休息。
そして食事。
完全ではないが戦える状態には戻っている。
「よかった……」
ミナが少し安心したように言う。
「まだ無理はしないでね」
「分かってる」
ユウマは頷いた。
その時だった。
アイリスが窓の外へ視線を向ける。
「……ん?」
何かに気付いたらしい。
ユウマも視線を向ける。
休憩所の入口へ一台の荷馬車が入ってきていた。
商隊だった。
だが様子がおかしい。
護衛達の顔色が悪い。
誰も笑っていない。
周囲もざわつき始めていた。
「どうしたんだ?」
ケイが首を傾げる。
荷馬車が止まる。
そこでユウマは見た。
荷台の側面。
分厚い木材に刻まれた巨大な爪痕を。
まるで何か巨大な生き物が引き裂いたような傷。
しかも一つや二つではない。
複数。
深く。
鋭く。
嫌な予感がした。
食堂の空気が少しずつ変わっていく。
旅人達の声が小さくなっていく。
護衛の一人が疲れ切った顔で言った。
「街道の先で……化け物が出た」
その一言で。
休憩所に静かな緊張が走った。




