第一章・六十三 「冒険者ギルド」
午後のセイル。
港市場は、
昨日の騒動が嘘みたいに賑わっていた。
潮風。
商人達の声。
鍛冶屋の金属音。
修復作業の槌音。
焦げ跡すら、
この街では“日常の延長”みたいに飲み込まれていく。
ユウマ達は市場通りを歩いていた。
旅用荷物もかなり揃った。
保存食。
水筒。
携帯鍋。
簡易寝具。
予備服。
武器整備道具。
ミナは両手で新しい旅袋を抱えている。
「何か……
本当に旅するんだね」
「今更だけどな」
ケイが笑う。
そして。
また無駄に戦斧を肩へ担いだ。
ギラッ。
わざわざ日光へ反射させる。
「見ろこの輝き」
「だから何なんだよそれ」
「冒険者感あるだろ?」
「お前、
朝からずっとそれ言ってるな」
「大事だからな」
ケイは本当に楽しそうだった。
その時。
セレナが前方を見ながら口を開く。
「……ところで、
人探しをするなら」
「?」
「ギルドへ登録しておいた方がいいわ」
ユウマは少し首を傾げた。
「ギルド?」
セレナは少し意外そうな顔をする。
「知らないの?」
「いや、
ゲーム時代にはあったけど……
本当にあるんだ」
セレナは小さく頷いた。
「正式には《冒険者ギルド》。
都市間依頼、
討伐、
護衛、
素材流通、
ロスト情報共有も管理してる」
ミナが少し驚いた顔になる。
「ロスト情報も?」
「ええ。
特に最近は、
各都市で共有が強化されてる」
ユウマは少し考える。
確かに。
手掛かり無しで世界中を探すより、
情報網を使った方がいい。
セレナは続けた。
「ギルド掲示板へ、
探している相手の名前や特徴を残せる」
「……そんなのあるんですね」
「都市間共有対象へ回される場合もあるわ」
ユウマの胸が少し熱くなる。
ゼロじゃない。
探せる。
カナタ。
ミコト。
ガイ。
どこかで、
生きているかもしれない。
その時。
「よし、
じゃあ冒険者デビューだな」
ケイがニヤつく。
「俺もう完全に斧戦士だし」
「まだ半日しか持ってないだろその斧」
「武器との付き合いは時間じゃねぇ。
魂だ」
「何言ってんだお前」
ミナが吹き出す。
セレナまで少し呆れていた。
やがて。
一行は中央区へ入る。
市場区より石造りが増え、
街並みも少し重厚になる。
その奥。
大きな建物が見えた。
「……おぉ」
ユウマは思わず声を漏らす。
石造り三階建て。
巨大木扉。
紋章旗。
人の出入りも多い。
入口上部には、
剣と盾を組み合わせた紋章。
【冒険者ギルド・セイル支部】
「マジでゲームみたいだな……」
ケイが感心したように呟く。
「ゲームだったんだけどな」
「今はもう違うだろ」
その言葉に、
ユウマは少し黙る。
確かにそうだった。
ここには、
本当に人が生きている。
扉を開く。
瞬間。
熱気と喧騒が押し寄せた。
酒の匂い。
紙束。
依頼掲示板。
武装した冒険者達。
受付列。
笑い声。
怒鳴り声。
完全に別世界だった。
「うわぁ……」
ミナが少し圧倒される。
ケイは逆に楽しそうだった。
「いいなここ。
めっちゃ冒険者感ある」
「お前絶対こういうの好きだろ」
「好き」
即答だった。
セレナは受付へ向かう。
銀髪と術師服を見た瞬間、
受付側の空気が少し変わった。
「セレナ様」
「三名、
新規登録を」
受付女性が頷く。
そのまま手続きを進めていく。
名前。
簡易適性。
武器系統。
ロスト登録確認。
そして。
「探人掲示登録も行いますか?」
ユウマは少し顔を上げた。
「……お願いします」
紙へ、
名前を書いていく。
カナタ。
ミコト。
ガイ。
特徴。
最後に見た場所。
書いているだけで、
少し胸が苦しくなる。
でも。
止まれなかった。
受付女性は静かに受け取る。
「各都市共有対象へ登録します」
「……ありがとうございます」
登録後。
一行は依頼掲示板を見る。
討伐。
採取。
護衛。
街道警備。
かなり大量に張られていた。
「おぉ……
マジでRPGだ」
ケイが感心したように呟く。
セレナは説明する。
「長距離移動なら、
護衛依頼を兼ねた方がいいわ」
「理由は?」
「ギルド依頼なら、
各都市支部で報酬受取可能だから」
ユウマは少し納得する。
なるほど。
セイルへ戻る必要が無い。
旅しながら資金も確保出来る。
その時。
受付女性が一枚の地図を持って来た。
「周辺街道地図です。
新人登録者向け簡易版になります」
「地図……」
ユウマは少し感動した。
本当に冒険みたいだった。
広げる。
セイル。
街道。
周辺都市。
森。
湖。
山脈。
思った以上に世界は広い。
「すげぇ……」
ミナも地図を覗き込む。
「どこ行く?」
静かな問い。
ユウマ達は顔を見合わせた。
まだ知らない街。
まだ知らない景色。
そこに、
友達が居るかもしれない。
ケイがニヤッと笑う。
「旅っぽくなって来たな」
その言葉に、
ユウマも少しだけ笑った。
――そして。
セイルの長い夜が終わり、
彼らの旅が、
ようやく始まろうとしていた。




