表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
61/93

第一章・六十一 「探したい人」



 ゴォン――


 夜明け前の鐘が、

 静かな鐘楼内部へ響いていた。


 青白い術式光。


 温かなスープの匂い。


 少し落ち着きを取り戻した空気。


 さっきまで死地みたいだったセイルも、

 ようやく崩壊寸前から立ち直り始めている。


 ユウマは空になったスープ皿を見ながら、

 小さく息を吐いた。


 身体はまだ重い。


 でも。


 少しだけ、

 頭が整理され始めていた。


 その時だった。


「……ユウマ」


 セレナが静かに声を掛ける。


「さっき、

 “もうゲームじゃない”って言ってたわよね」


「……はい」


「なら、

 これからどうするの?」


 静かな問いだった。


 でも。


 その言葉は、

 ユウマの胸へ重く落ちた。


 これから。


 どうする。


 セイルへ残るのか。


 ロストとして生きるのか。


 帰る方法を探すのか。


 ユウマは少し黙る。


 そして。


 ゆっくり口を開いた。


「……探したい人がいます」


 空気が少し静かになる。


「一緒にプレイしてた友達です」


 ミナが顔を上げる。


 ケイも少し真面目な顔になった。


 ユウマは続ける。


「ログインする直前まで、

 一緒に居たんです」


 カナタ。


 ミコト。


 ガイ。


 港街レグナスで、

 一緒に笑っていた仲間達。


 最後まで、

 ただのゲームだと思っていた。


「もしロストしてるなら……

 探したい」


 その声は、

 自分でも思ったより真剣だった。


 エルディアは静かに聞いていた。


「セイル側で確認されているロスト情報には、

 該当名はありません」


 その言葉に、

 ユウマは少しだけ視線を落とす。


 ロスト直接にみんな同じ状況下にいたのでロストしている可能性はかなり高いはず。


 ここに居ないって事はすでに…


 いや、そんなはずはない。きっと…


「……そうです…か」


「ですが」


 エルディアは続ける。


「ロストは、

 必ずしも同一地点へ召喚される訳ではありません」


 ユウマは顔を上げた。


「つまり、

 別都市や別地域へ転移している可能性はあります」


 その言葉に、

 胸の奥が少し熱くなる。


 ゼロじゃない。


 まだ探せる。


 その時。


「じゃあ、

 探しに行くしかねぇな」


 ケイが当然みたいに言った。


「……え?」


「いや、

 何その顔」


 ケイは苦笑する。


「お前、

 一人で行く気だったのか?」


「いや、

 でも危険だし……」


「今更だろ」


 ケイが肩を竦めた。


「俺、

 もう普通の生活戻れる気しねぇし」


 軽い口調だった。


 でも。


 その奥には、

 少しだけ本音が滲んでいた。


「元々ソロプレイヤーだったしな。

 こっちで知り合い居る訳でもねぇ」


 ケイは少し笑う。


「だったら、

 お前らと居た方がまだマシだ」


 ミナも少し迷った後、

 小さく頷いた。


「……私も行く」


「ミナ?」


「私、

 一緒にログインしてた友達居たけど……

 あの日は別行動だったから」


 少し不安そうに俯く。


「ロストしてるのか、

 まだ普通に現実居るのか、

 分からない」


 その声は少し震えていた。


「だから……

 私も確かめたい」


 静かな沈黙。


 ユウマは二人を見る。


 何となく、

 少しだけ嬉しかった。


 一人じゃない。


 その感覚が、

 妙に胸へ残る。


 その時。


 セレナが立ち上がった。


「……少し待ってて」


「え?」


 セレナはそのまま、

 補助室奥の保存棚へ歩いて行く。


 青白い術式灯りの中。


 銀髪が静かに揺れた。


 やがて。


 彼女は一冊の薄い青色魔法書を持って戻って来る。


「ミナ」


「え?」


「あなたへ」


 ミナが目を丸くする。


「わ、私!?」


 セレナは静かに頷いた。


「支援系適性があるなら、

 持っておいた方がいい」


 ミナは恐る恐る魔法書を見る。


 淡い青表紙。


 中央には、

 白い風紋章。


【《風壁の魔法書》】


「防御補助術式?」


 ユウマが呟く。


 セレナは頷いた。


「初級防御魔法。

 完全防御は出来ないけど、

 飛来物や衝撃を少し逸らせる」


 ミナが慌てる。


「え、

 でもこんなの貴重じゃ……」


「今のセイルなら、

 生き残る方が優先よ」


 静かな声だった。


 ミナは少し迷った後、

 大事そうに魔法書を抱えた。


「……ありがとう」


 その時。


「じゃあ俺にも何かくれよ」


 ケイが当然みたいに言った。


 セレナが呆れた顔をする。


「何でそうなるの」


「いや空気的に俺だけ無し悲しいだろ」


「子供なの?」


「否定はしない」


 ユウマが思わず吹き出す。


 さっきまで死にかけていたのに、

 この男は妙に空気を軽くする。


 セレナは小さく溜息を吐く。


 だが。


 少しだけ口元が緩んでいた。


「……武器庫ならあるわ」


「マジ?」


「ただし、

 残ってるのは備蓄装備程度よ」


「十分十分」


 ケイは立ち上がる。


 その姿を見て、

 エルディアが静かに口を開いた。


「あなた達は、

 本当に街を出るつもりなのですね」


 ユウマは頷く。


「はい」


「危険です。

 街道外縁は、

 最近魔物活動も不安定化しています」


「それでも」


 ユウマは少し拳を握る。


「探したいんです」


 エルディアは数秒、

 静かにユウマを見ていた。


 そして。


「……分かりました」


 そう言って、

 白銀外套の内側へ手を入れる。


 取り出したのは、

 小さな銀色結晶だった。


 透明に近い銀。


 内部で、

 淡い光が揺れている。


「これは?」


「簡易同期結晶」


 ユウマは少し首を傾げる。


 エルディアは続けた。


「鐘楼加護と連動しています。


 強い魔力異常や、

 結界反応異常へ接近した際、

 微弱反応を返します」


「警報装置みたいなものですか?」


「近いですね」


 エルディアは静かに言う。


「あなたは、

 恐らく今後、

 普通のロストより危険へ近付きやすい」


 黒髪ロスト。


 同期異常。


 鐘楼反応。


 ユウマは少しだけ表情を引き締めた。


「だから、

 最低限の備えです」


 ユウマは銀色結晶を受け取る。


 ひんやりしていた。


 でも。


 微かに脈動している。


 まるで、

 小さな心臓みたいだった。


 その時。


 遠くで鐘が鳴る。


 ゴォン――


 夜明けが近い。


 セイルの長い夜が、

 ようやく終わろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ