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第一章・四十九 「対人戦」



 ガギィィィィン!!


 金属音が倉庫内へ激しく響いた。


 火花。


 怒号。


 崩れる木箱。


 狭い大型倉庫の中で、

 一気に戦闘が始まる。


「確保しろ!!」


「避難民を下げろ!!」


 巡回兵達が動く。


 だが。


 渡り鴉側も速かった。


 短剣使いの男が、

 弾かれた勢いのまま後方へ飛ぶ。


 軽い。


 レイヴンハウンドとも違う。


 人間特有の、

 読み合いの動き。


 ユウマは踏み込み過ぎた身体を、

 咄嗟に引き戻す。


 その瞬間。


 寒気が走った。


 ヒュッ!!


「っ!?」


 横薙ぎ。


 短剣。


 首狙い。


 ユウマは反射的に身体を逸らす。


 刃先が頬を掠めた。


 熱い。


 浅く切れた。


【ユウマ HP:29% → 27%】


「うわっ!?」


 ケイが息を呑む。


 短剣使いの男は、

 後退しながら笑っていた。


「良い反応だな」


 軽い口調。


 だが目は笑っていない。


 本気だ。


 本当に殺す気で来ている。


 ユウマの背筋へ冷たいものが走る。


 人だ。


 相手は。


 でも。


 今、

 この男は本気で自分を殺そうとしている。


 その現実が、

 頭の中で上手く整理出来なかった。


 ゲームみたいに、

 HPを削り合うだけじゃない。


 首を狙って来た。


 急所を。


 本当に。


 その時だった。


 別方向で、

 重い衝突音が響く。


 ガァン!!


 リュードと片手剣使いが激突していた。


 火花が散る。


 重い。


 リュードの斬撃は、

 人間相手でも容赦が無い。


「ぐっ……!」


 片手剣使いが押し負ける。


 だが。


 渡り鴉側もただ弱いわけじゃなかった。


 後退しながら木箱を蹴る。


 ドガァッ!!


 荷箱が巡回兵側へ倒れる。


「避けろ!!」


 兵士達が隊列を崩す。


 その隙を狙い、

 もう一人のロストが避難民側へ走る。


「っ!!」


 ミナが反応した。


「待って!!」


 だが。


 ミナは戦闘向きじゃない。


 踏み込めない。


 その瞬間。


 避難民の中から、

 小さな子供が転んだ。


「ぁ……」


 迫るロスト。


 刃。


 ユウマの思考が一瞬で切り替わる。


 考えるより先に、

 身体が動いていた。


【《瞬脚アクセル》】


 加速。


 肩が軋む。


 傷が痛む。


 でも。


 止まれない。


 ロスト側の男が振り向く。


「っ!?」


 ユウマは短剣を振る。


 だが。


 その瞬間、

 心の奥で僅かに躊躇した。


 人間へ刃を叩き込む。


 その恐怖。


 その一瞬の迷いを、

 相手は見逃さなかった。


 ギィン!!


 相手の片手剣が、

 ユウマの短剣を弾き返す。


「甘ぇよ」


「っ……!」


 重い蹴りが腹へ入る。


 ドォン!!


「がっ……!?」


 息が詰まる。


 身体が吹き飛び、

 木箱へ激突した。


【ユウマ HP:27% → 21%】


 肺から空気が抜ける。


 痛い。


 重い。


 視界が揺れる。


「ユウマ!!」


 ミナの悲鳴。


 だが。


 男は追撃して来ない。


 避難民側を見ていた。


「だから新入りは甘いんだよ」


 低い声。


「お前ら、

 まだ“ゲーム感覚”残ってる」


 その言葉が、

 胸へ刺さる。


 違う。


 ゲーム感覚じゃない。


 むしろ逆だ。


 これは現実だと感じているから、

 人を斬る事が怖い。


 その時。


 ケイが飛び込んだ。


「ユウマから離れろ!!」


 二本の短剣。


 荒い。


 でも速い。


 男が舌打ちする。


「チッ……!」


 ギィン!!

 ギギィィン!!


 連撃。


 ケイは必死だった。


 技術では負けている。


 でも。


 時間を稼いでいる。


 その間に、

 巡回兵達が避難民を後退させ始める。


 ユウマは荒い息を吐きながら立ち上がる。


 腹が痛い。


 HPもかなり低い。


【ユウマ HP:21%】


 危険域。


 医務区画で聞いた言葉が脳裏を過ぎる。


 HPは生命維持状態。


 低過ぎれば、

 本当に死ぬ。


 その時。


 短剣使いの男が、

 再びユウマを見る。


「立つのかよ」


 少し驚いた顔。


 ユウマは息を整える。


 怖い。


 今も。


 人を相手に戦う事が。


 でも。


 だからと言って、

 見捨てるわけにはいかない。


 泣いていた子供。


 怯える避難民。


 ここで自分が止まれば、

 誰かが死ぬ。


 ユウマは短剣を構える。


 震えはまだ消えない。


 でも。


 目だけは、

 もう相手を見据えていた。


 その時だった。


 視界端へ、

 新しいUIが浮かぶ。


【条件達成】


【対人戦闘経験を確認】


【スキル適性変動中――】


「……っ?」


 ユウマの目が僅かに見開かれる。


 その一瞬。


 短剣使いが笑った。


「余所見してんじゃねぇぞ」


 地面を蹴る。


 速い。


 一直線。


 ユウマも反射的に踏み込む。


 倉庫内で、

 二人の刃が再び激突した。

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