表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/93

第一章・三十六 「戦いの後」



 グランゼルの巨体が、

 港通りへ沈んでいた。


 青黒い外殻。


 砕けた前脚。


 割れた胸部。


 そこから、

 黒ずんだ液体が石畳へ流れている。


 もう動かない。


 本当に。


 終わったのだ。


 潮風が吹き抜ける。


 だが。


 さっきまでの穏やかな朝とは全く違う。


 砕けた屋台。


 崩れた荷車。


 酸液で溶けた石畳。


 煙。


 血。


 呻き声。


 港通りは酷い有様だった。


 ユウマはその場へ膝を付いたまま、

 荒い息を吐く。


【ユウマ HP:18%】


 低い。


 まだ危険域。


 レベルが上がっても、

 傷そのものが消えたわけじゃない。


 肩は熱い。


 全身痛い。


 指先も震えている。


「っ……

 はぁ……」


 呼吸が上手く整わない。


 怖かった。


 本当に。


 あと少しズレていたら死んでいた。


 その実感だけが、

 妙にリアルだった。


 近くでケイも座り込む。


「マジで……

 死ぬかと思った……」


【ケイ HP:22%】


 かなり削られている。


 背中の服も破れ、

 血が滲んでいた。


 それでも。


 ケイは笑おうとしていた。


「ユウマ……

 お前最後ヤバかったぞ……」


「ケイもだろ……」


 ユウマが息を切らしながら返す。


 ケイは苦笑した。


「いや……

 あんな化け物相手に、

 前出るとか普通無理だって……」


 その声には、

 本気の震えが混ざっていた。


 強がっているだけだ。


 本当は、

 かなり怖かったのだろう。


 ミナも近くへ駆け寄って来る。


【ミナ HP:47%】


 三人の中では一番残っている。


 だが。


 顔色は真っ青だった。


「だ、大丈夫……!?」


 ミナはそう言いながらも、

 自分の手が震えている事に気付いていた。


 さっきまで。


 本当に人が死にかけていた。


 目の前で。


 血が流れていた。


 それが頭から離れない。


 その時。


 兵士達の怒鳴り声が響く。


「負傷者を運べ!!」


「回復術師呼べ!!」


「酸液に触れるな!!」


 港通りはまだ混乱していた。


 倒れている兵士。


 泣いている子供。


 崩れた建物。


 完全に戦争の跡みたいだった。


 リュードが剣を地面へ突き立て、

 重く息を吐く。


【リュード HP:28%】


 鎧は砕け、

 肩から血が流れている。


 それでも立っていた。


 隊長として。


 最後まで。


 リュードはユウマ達を見る。


「……助かった」


 短い言葉。


 だが。


 重みがあった。


 ユウマは少し驚く。


 リュードみたいな人が、

 自分達へ礼を言うとは思わなかった。


 ケイも目を丸くする。


「いや……

 俺らも必死だっただけっていうか……」


「それでもだ」


 リュードが静かに言う。


「普通のロストなら、

 逃げていた」


 その言葉で、

 三人の空気が少し止まる。


 ロスト。


 その単語。


 まだ慣れない。


 なのに。


 もう完全に、

 自分達へ向けられていた。


 その時だった。


 グランゼルの死体付近で、

 兵士の一人が叫ぶ。


「隊長!!

 魔晶核です!!」


 ユウマ達がそちらを見る。


 グランゼルの胸部。


 割れた外殻の奥で、

 青黒い光が脈動していた。


 拳大ほどの結晶。


 深海みたいな色。


 どこか不気味な光だった。


 リュードの表情が僅かに変わる。


「……大型種の核か」


 セレナも静かに近付く。


【セレナ HP:31%】


 かなり疲弊している。


 だが。


 その青い瞳は、

 核を警戒していた。


「普通の海甲獣より、

 魔力濃度が高いですね……」


「やっぱり異常個体か?」


 リュードが眉を寄せる。


 セレナはすぐには答えなかった。


 ただ。


 核を見つめる目が、

 少し険しい。


 ユウマはその様子を見ながら、

 小さく息を吐く。


 結界停止。


 街への侵入。


 異常な強さ。


 全部が偶然とは思えなかった。


 だが。


 今は考える余裕が無い。


 身体が限界だった。


 その瞬間。


 再び視界端へUIが浮かぶ。


【称号取得】


《沿岸生還者》


【効果:

 沿岸区域での恐怖耐性微上昇】


「っ……」


 ユウマが息を呑む。


 ケイも自分のUIを見ていた。


「また出た……」


 ミナも困惑している。


 だが。


 セレナだけは静かだった。


「……称号です」


 慣れた声。


「一定条件を満たした者へ、

 世界側が与える補助」


 世界側。


 その言い方が、

 妙に引っ掛かった。


 まるで。


 運営でも、

 システムでもなく。


 この世界そのものが、

 判断しているみたいだったからだ。


 その時だった。


 港通り奥側から、

 鐘の音が鳴り響く。


 ゴォォォン……!!


 重い鐘。


 警戒解除。


 さっきまで響いていた悲鳴が、

 少しずつ静まり始める。


 人々が、

 恐る恐る顔を上げ始めていた。


 生き残った。


 港町セイルは、

 壊れながらも守られたのだ。


 だが。


 ユウマはグランゼルの核を見つめる。


 あの魔物は、

 本当に偶然ここへ来たのか。


 その疑問だけが、

 胸の奥へ静かに残り続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ