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第一章・三十三 「加速」



 グランゼルが突進した。


 轟音。


 港通りが揺れる。


 石畳が砕け、

 白煙が舞う。


 巨大な前脚。


 赤い目。


 圧倒的な質量。


 さっきまでなら、

 避けるだけで精一杯だった。


 だが。


 今は違う。


 ユウマは地面を蹴った。


【《瞬脚アクセル》】


 身体が前へ滑る。


「っ――」


 速い。


 今までの補助発動とは違う。


 景色が流れる。


 重心移動が自然だった。


 足が迷わない。


 身体が、

 加速を理解している。


 直後。


 グランゼルの前脚が、

 さっきまでユウマが居た場所を粉砕した。


 轟音。


 石片が吹き飛ぶ。


 だが。


 ユウマは既に側面へ回り込んでいた。


「なっ……!?」


 ケイが目を見開く。


「速っ!?」


 ユウマ自身も驚いていた。


 軽い。


 身体が。


 空気を切る感覚が変わっている。


 その瞬間。


 グランゼルの尾が横薙ぎに迫る。


 だが。


 見えた。


 動き出し。


 筋肉の流れ。


 重心。


 ユウマは反射的に踏み込む。


【《瞬脚アクセル》】


 加速。


 尾の軌道を紙一重で抜ける。


 風圧が頬を叩いた。


「っ……!」


 怖い。


 ほんの少しでも遅れれば、

 身体ごと潰される。


 でも。


 今なら。


 動ける。


 その瞬間。


 ユウマの感覚が、

 グランゼルの左脚側で止まる。


 継ぎ目。


 さっき傷付けた場所。


 そこだけ動きが鈍い。


 狙える。


 ユウマは一気に踏み込んだ。


【《空閃フェイズ》】


 視界が静まる。


 最短軌道。


 最適角度。


 短剣が閃く。


 ガギィィィィッ!!


【海甲獣グランゼル HP:49%】


 硬い。


 だが。


 深く入った。


 グランゼルが絶叫する。


 巨体が揺れた。


「効いてる!!

 そこだ!!」


 リュードが叫ぶ。


 兵士達が一斉に攻撃を集中する。


 槍。


 矢。


 魔法。


【海甲獣グランゼル HP:44%】


【海甲獣グランゼル HP:41%】


 グランゼルが暴れる。


 尾が兵士を吹き飛ばした。


「ぐぁっ!!」


【巡回兵 HP:12%】


 赤。


 もうほぼ限界。


 港通りは完全に地獄だった。


 酸液。


 血。


 悲鳴。


 逃げ遅れた人々。


 ミナは震えながらも、

 回復結晶を負傷兵へ使っていた。


「これ……

 こうすれば……!」


 緑光。


 兵士の傷が僅かに塞がる。


【巡回兵 HP:12% → 27%】


「た、助かった……」


 兵士が呻く。


 ミナの手は震えていた。


 怖いのだ。


 当然だ。


 目の前で人が死にかけている。


 なのに。


 それでも逃げていない。


 ケイも歯を食い縛りながら立ち上がる。


【ケイ HP:24%】


「っ……

 クソ痛ぇ……」


 だが。


 その手には、

 Cランク報酬で手に入れた《爆裂石》が握られていた。


 赤黒い鉱石。


 中心部が不気味に発光している。


「これ……

 多分投げるやつだよな……?」


「ケイ!!

 右脚側へ投げろ!!」


 ユウマが叫ぶ。


 ケイが一瞬驚く。


「分かった!!」


 グランゼルが再びユウマへ向き直る。


 殺気。


 重圧。


 怖い。


 でも。


 逃げれば終わる。


 ユウマは呼吸を整える。


 アクセル。


 今なら使える。


 補助じゃない。


 自分で動かせる。


 その瞬間。


 グランゼルが突進した。


 ユウマは石畳を蹴る。


【《瞬脚アクセル》】


 加速。


 正面ではなく、

 斜め前へ。


 誘導。


 グランゼルの視線を引き付ける。


 重い前脚が迫る。


 怖い。


 近過ぎる。


 だが。


 今のユウマには、

 見えていた。


 踏み込み。


 死角。


 尾の流れ。


 全部。


 その瞬間。


「今だァッ!!」


 ケイが《爆裂石》を投げた。


 赤黒い石が、

 グランゼルの傷口付近へ直撃する。


 一瞬の静寂。


 次の瞬間。


 ドゴォォォォンッ!!


 爆炎。


 衝撃。


 港通りが揺れる。


 グランゼルが絶叫した。


【海甲獣グランゼル HP:28%】


「うおぉっ!?」


 ケイ本人が一番驚いていた。


「めちゃくちゃ効いた!!」


 グランゼルが大きく体勢を崩す。


 煙。


 焼けた外殻。


 傷口が剥き出しになっていた。


 ユウマの感覚が警鐘を鳴らす。


 今。


 今なら入る。


 倒せる。


 その瞬間。


 グランゼルの複数の赤い目が、

 ゆっくりユウマを捉えた。


 殺意。


 憎悪。


 その巨体が、

 最後の突進姿勢を取る。


 港通りの空気が、

 一気に張り詰めた。

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