第一章・三十二 「開封」
グランゼルが突進した。
轟音。
巨体が港通りを揺らす。
石畳が砕け、
酸液の白煙が舞う。
「散れぇぇぇっ!!」
リュードが怒鳴る。
兵士達が左右へ飛ぶ。
ユウマも咄嗟に横へ跳んだ。
直後。
グランゼルの前脚が、
さっきまで居た場所を叩き潰した。
衝撃。
風圧。
砕けた石片が頬を掠める。
「ぐっ……!」
【ユウマ HP:15%】
かなり低い。
呼吸するだけで肺が痛む。
視界も少し滲んでいた。
なのに。
石畳の上では、
黒いBOXが静かに発光している。
【ランダムBOX(B)】
まるで。
戦場なんて関係無いみたいに。
その光景が、
妙に不気味だった。
「おいユウマ!!
開けるなら今しかねぇ!!」
ケイが叫ぶ。
そのケイもかなり危ない。
【ケイ HP:41%】
背中から血が流れている。
それでも前へ出ていた。
ミナは震えながら、
自分のDランクBOXを抱えている。
【ミナ HP:52%】
比較的残っている。
だが。
精神的には限界に近そうだった。
「ど、どうやって開けるの……!?」
「触れれば開きます!!」
セレナが叫ぶ。
同時に魔法陣展開。
「《氷壁》!!」
轟音。
巨大な氷壁がグランゼルの前へ出現する。
直後。
グランゼルが激突した。
バギィィィン!!
氷壁へ亀裂。
完全には止め切れない。
「長くは持ちません!!」
セレナの声。
額へ汗が浮かんでいる。
【セレナ HP:34%】
かなり削られていた。
昨日の負傷。
連続魔法。
明らかに無理をしている。
ユウマは歯を食い縛った。
迷ってる暇は無い。
ユウマはBOXへ手を伸ばす。
触れた瞬間。
黒い箱が光を放った。
【ランダムBOX(B)
開封を確認】
次の瞬間。
箱が粒子へ変わる。
そして。
中から、
二つの光が出現した。
【取得】
《中級回復結晶》
【D】
《スキル取得結晶》
《瞬脚》
【B】
「っ……!?」
ユウマの目が見開かれる。
結晶だった。
一つは緑色。
淡く脈動している。
もう一つは、
紫がかった青白い光を放っていた。
Bランク特有の光。
その結晶を見た瞬間。
セレナの目が僅かに変わる。
「……Bランクの
スキル取得結晶」
静かな声。
「かなり当たりです」
ケイも息を呑んでいた。
「マジかよ……
スキル結晶かよ……!」
その横で。
ケイ自身も、
慌ててCランクBOXを開封していた。
箱が光へ変わる。
【取得】
《強化包帯》
【D】
《爆裂石》
【C】
「おぉ!?」
ケイが目を見開く。
「なんか爆弾みたいなの出た!!」
さらに。
ミナも恐る恐るDランクBOXへ触れる。
【取得】
《初級回復結晶》
【E】
《魔力香草》
【D】
「か、回復アイテム……!」
ミナが安堵した顔をする。
その時だった。
グランゼルが氷壁を砕いた。
バギィィィン!!
氷片が吹き飛ぶ。
巨体が再び姿を現す。
赤い目。
怒り。
完全にこちらを殺しに来ている。
「来るぞ!!」
リュードが前へ出る。
だが。
足取りが重い。
【リュード HP:39%】
隊長格でも削られている。
このままじゃ押し負ける。
ユウマは手の中の緑色結晶を見る。
【中級回復結晶】
【D】
使うか。
迷う。
でも。
その瞬間。
横でケイが吹き飛ばされた。
「がぁっ!!」
「ケイ!!」
ミナが叫ぶ。
グランゼルの尾。
まともには直撃していない。
それでも、
ケイの身体が石畳を転がった。
【ケイ HP:24%】
赤。
危険域へ近い。
ケイが苦痛に顔を歪める。
「っ……
クソ重ぇ……」
ユウマの迷いが消えた。
ここで温存しても意味が無い。
死んだら終わりだ。
ユウマは回復結晶を握り締める。
すると。
結晶が光粒子へ変わった。
淡い緑光が、
ユウマの身体を包む。
熱。
いや。
温かい。
傷口へ何かが流れ込む感覚。
【ユウマ HP:15% → 43%】
「っ……!」
痛みが少し引く。
呼吸が楽になる。
肩の出血も止まり始めていた。
「回復した!?」
ミナが驚く。
ユウマは息を吐く。
動ける。
まだ戦える。
その時だった。
手の中の《瞬脚》結晶が、
強く発光した。
直後。
頭の奥へ、
大量の情報が流れ込む。
「ぐっ……!?」
ユウマが顔を歪める。
視界が揺れた。
踏み込み。
加速。
重心移動。
筋肉制御。
今まで、
戦闘中に断片的に補助されていた感覚が、
一気に鮮明になる。
借り物だった動きが、
身体へ刻み込まれていく。
【スキル取得を確認】
【《瞬脚》】
その瞬間。
ユウマは理解した。
今までと違う。
補助じゃない。
自分の意思で動かせる。
加速の感覚が、
身体へ馴染んでいた。
グランゼルが咆哮する。
巨体が低く沈む。
突進。
来る。
ユウマの感覚が即座に理解する。
でも。
今は見える。
踏み込みの瞬間。
重心。
突進角度。
全部。
ユウマは短剣を握り締めた。
そして。
石畳を強く蹴った。




