第一章・三十 「連携」
ユウマは石畳を蹴った。
肺が痛む。
全身が軋む。
【ユウマ HP:22%】
低い。
かなり危険域。
普通なら、
もう前へ出る状態じゃない。
それでも。
身体が止まらなかった。
グランゼルが暴れる。
青白い氷鎖が軋む。
ギギギギギッ!!
セレナの《氷鎖》が、
巨体を無理やり拘束していた。
だが長くは持たない。
氷が砕け始めている。
「早くしろ!!」
リュードが叫ぶ。
ユウマは加速した。
【スキル補助起動】
【《瞬脚》】
身体が軽くなる。
石畳を滑るように走る。
グランゼルの巨体。
重心。
脚。
外殻。
全部を見る。
昨日から、
ユウマの感覚は確実に変わっていた。
敵の動きが見える。
空気の流れ。
踏み込み。
僅かな癖。
無意識に読み取ってしまう。
その瞬間。
グランゼルの左脚側。
外殻の隙間。
そこだけ。
少し開いていた。
「……っ」
行ける。
ユウマは地面を強く蹴った。
滑り込む。
巨体の真横。
グランゼルの赤い目が、
ユウマを捉える。
その瞬間。
氷鎖が砕けた。
バキィィン!!
「まずっ――」
ケイの声。
直後。
グランゼルの前脚が振り下ろされる。
轟音。
石畳が砕け散った。
だが。
ユウマはその一瞬前に、
身体を捻っていた。
爪が肩を掠める。
「ぐぁっ!!」
【ユウマ HP:17%】
熱い。
肩から血が飛ぶ。
視界が揺れる。
それでも。
ユウマは止まらない。
【スキル補助起動】
【《空閃》】
世界が静かになる。
踏み込み。
角度。
最短軌道。
全部が感覚で分かった。
短剣が閃く。
狙うのは、
外殻の継ぎ目。
ガギィィィッ!!
【海甲獣グランゼル HP:79%】
グランゼルが絶叫した。
巨体が大きく揺れる。
「通った!!」
ケイが叫ぶ。
だが。
次の瞬間。
グランゼルの尾が、
真横から迫っていた。
「ユウマ危ない!!」
ミナの悲鳴。
避け切れない。
そう思った瞬間。
銀閃。
ガァン!!
リュードの長剣が尾を受け止めた。
「下がれ!!」
「っ……!」
ユウマは咄嗟に後退する。
だが。
リュードも完全には受け切れていない。
鎧が軋む。
足が石畳へ沈む。
重過ぎる。
「ぉぉおおおっ!!」
リュードが怒声と共に押し返した。
その瞬間。
セレナの魔法陣が再展開される。
青白い光。
空気が冷える。
「《氷杭》」
次の瞬間。
巨大な氷柱が、
グランゼルの脚元から突き上がった。
ドゴォォン!!
【海甲獣グランゼル HP:68%】
グランゼルが体勢を崩す。
巨体が傾いた。
港通りが揺れる。
「今だ!!」
リュードが叫ぶ。
兵士達が一斉に突撃した。
槍。
剣。
矢。
攻撃が集中する。
【海甲獣グランゼル HP:61%】
【海甲獣グランゼル HP:58%】
だが。
グランゼルが咆哮した瞬間。
身体側面の外殻が再び開いた。
「散れぇぇぇっ!!」
リュードが怒鳴る。
直後。
泡立つ酸液が周囲へ撒き散らされた。
ジュゥゥゥゥゥッ!!
白煙。
石が溶ける。
「ぎゃあああっ!!」
兵士の一人が巻き込まれた。
腕鎧が溶け、
皮膚が焼ける。
【巡回兵 HP:16%】
赤ゲージ。
危険域。
ミナが青ざめた。
「ひっ……」
ユウマも息を呑む。
痛い。
怖い。
昨日の戦闘より遥かに現実だ。
死ぬ。
本当に。
ここでは簡単に人が死ぬ。
グランゼルが暴れる。
兵士達が吹き飛ばされる。
港通りは完全に戦場になっていた。
その時だった。
ユウマの視界端へ、
突然半透明のUIが浮かぶ。
【期間限定イベント
《深海沿岸防衛戦》】
【イベント終了を確認】
「……え?」
ユウマが固まる。
戦闘中。
なのに。
UIが続けて表示される。
【イベントクリア報酬】
・特殊称号
《沿岸生還者》
・限定装備
《潮紋の腕輪》
・イベント限定報酬
《ランダムBOX(E〜S)》
【受け取る】
【断る】
「なっ……!?」
ケイも目を見開く。
「お、おい!!
今こんなの出てるんだけど!?」
ミナも混乱していた。
「私も出てる……!!」
だが。
セレナだけは驚いていなかった。
その目が、
僅かに暗くなる。
「……来ましたか」
静かな声。
ユウマは息を呑む。
イベント報酬。
ゲーム時代なら、
いつもの光景だった。
なのに。
今は異様に不気味だった。
目の前では、
本当に人が死にかけている。
血が流れている。
悲鳴が響いている。
なのに。
システムだけが、
まるで何事も無かったみたいに報酬を配布している。
その違和感が、
ユウマの背筋を冷たく撫でた。
グランゼルが咆哮する。
石畳を砕きながら、
再びこちらへ向き直った。
ユウマは短剣を握り締める。
そして。
視界端で点滅する。
【受け取る】
その文字を見つめた。




