森の奥深く
「しょうがないよ、ここは僕の管轄外。君たちが飽きるまで、未練がなく捨て去るまで好きにするといい。ここはそういう場所だよ」
末永くお幸せにー、と興味無さそうに呟きながら、セリオスは少し嬉しそうに笑った。
「助かる、これから離れるつもりは無いからな」
アルスが急に伊澄の体を引き寄せる。
うわ、っと声を上げた伊澄は、すっぽりと包み込まれ身動きが取れなくなってしまった。
いくら気持ちを交わしたとはいえ、これはとても小っ恥ずかしいものがある。
伊澄は慌てて離れようとするが、アルスは離すものかと言いたげに伊澄を見下ろしている。
「ちょっと、離れて…………!」
無意味だと分かっていても、伊澄はアルスの厚い胸板を両手で押した。びくともしないけれど。
「なんだ? もう離すつもりはないぞ」
余裕のない伊澄とは正反対に、余裕のあるむしろこの状態を楽しんでいるかのようなアルス。
それが無性に腹が立った。
(私だけが好きみたいじゃない……!)
なんだか反抗がしたくなって、伊澄は横を向く。
少しだけ、ほんの少しだけ伊澄と同じ気持ちになればいいと思いながら。
「こっちを向け、イスミ」
「いやっ………………!?」
呼ばれても振り返らないでいると、アルスが強引に伊澄の顎を掬いあげた。
反転する視界、目の前にはアルスの綺麗な瞳が伊澄を見つめていた。
「なんだ、余所見か?」
じり、と燃えるような熱さを持っていそうなその瞳に伊澄は息を飲んだ。
「俺がどれだけイスミを好きか分からせた方がいいか」
そうだな、とアルスは瞳を閉じて迫ってくる。
その先に何があるかなんて、動かない頭でも伊澄は感じ取る。
逃げ場なんて、逃げるすべなんてないに等しい。
ただ、伊澄はアルスを受け入れた。
唇にちゅ、とこの場に似つかわない可愛らしい音が響く。
ぼぼぼ、と火が付いたように伊澄の頬は燃える。
「見事に真っ赤だな。ただ、これからも覚悟しろよ」
「なっ…………あんたねぇ!?」
あまりにも余裕綽々の態度に、伊澄が噛み付こうとしたがそれは叶わない。
「いいな、そのままの伊澄でいろよ。俺は獣人だ、獣の恋は嫉妬深くて独占欲が強いんだ」
だって、アルスの一言一言が伊澄にとって嬉しいものだったから。
きっと、こんなに胸が高鳴るのもアルスだけだろう。
それが、悔しくて幸せだった。
──────────────────
ある森の奥深く、その家はひっそりと建っている。
蔦が巻きついた、不気味に佇むその家に魔女が住んでいる。
誰が言ったか分からないが、その魔女は毒を操る毒魔女と呼ばれていた。
しかし、その毒は万能の薬と噂されていた。
その力を求め、多くの国、人が訪れる。
しかし、毒魔女は誰の手にも落ちなかった。
そこには、強く美しい獣が毒魔女を守っていたのだ。
毒魔女は理由があれば手を貸し、救ってくれる。
が、誰にも靡くことはなかった。ただ一人、美しい獣を除いて。
いつまでも、いつまでも、その二人は森の奥深く寄り添っていたという。
《了》
無事に最終回を迎えることができました!
ここまで呼んでくださった方、ブックマーク、感想等くださった方、皆様に感謝いたします!
本当にありがとうございました!




