そんなことくらいで
「……本当に、人間は凄いよ。どんなに非力でも立ち上がろうとする力を持ってるんだから」
それが羨ましい、とでも言うようにアルスは忙しなく動く人たちを見つめていた。
そして、その真っ直ぐな瞳を伊澄に向けてくる。
伊澄は伽藍堂の、空っぽに近い目でアルスを見ていた。
内心、伊澄はこの人達とは違う、と思っていた。
何にもなれなかった、立ち止まってばかりの自分。
何かを生み出すこともなく、終わろうとしただけの──。
自分を卑下する言葉はスラスラと出てくるのに、自分を誇れる何かは何もない。
自分の手はからっぽなのだと、改めて思い知らされる。
けれど、もうどこかへ行くことも、何かをすることも手遅れだった。
伊澄はすでに、壊れてしまっていたから。
「人間たちは、凄いよね。私も、そう思うよ」
視線を逸らし、伊澄は歩き出した。
人間なら露知らず、人間でなくなってしまった伊澄はその中に含まれない。
だったら、見る必要も無い。
ただ、それだけのことだった。
「イスミ…………」
小さくアルスに呼ばれたが、伊澄はすたすたと歩き出した。
目指すは司祭がいる教会。
伊澄に出来ることは、もう、ひとつしか無かった。
────────────
壊れた町の一番奥、小高い丘の上にその教会はあった。
青空を映したような薄い水色の外壁。セリオスだろうか、祈るように手を組む人の形をしたレリーフが掘られている。
爆撃のようなあの災害から逃れたらしいその建物は、埃で茶色くなってはいたものの破壊は免れたらしい。
比較的形を保ったまま、そこにあった。
重厚感のある一枚木で出来ている扉を開ける。
祭壇へと続くシンクの絨毯の両脇に、数人が座れるベンチがずらりと並んでいる。
天井は高く、一際目を引くのはステンドグラスだ。
陽の光が差し込み、床を淡い色の陰影で彩っている。
「どなた…………って、あなたたちは…………!」
柱の影から、ぬっと力なく現れたのはあの司祭だ。
初めて見た時のような、自信満々な覇気のあった表情は抜け落ちたように頬が痩せこけている。
目の隈は酷く、ここ数日で一気に老け込んだようだった。
真っ白い顔は、生きていると言うより生きる屍にも見える。
相当、セリオスに拒絶されたことが堪えたのだろうか。
それも……。
伊澄たちを見るなり、ガタガタと震え出した。
なにか喋ろうとするが、言葉にならず奥歯がなり続けている。
「あ、あ……わわ……」
やがて、腰を抜かした司祭は一歩後ずさるが、おぼつかない足元に体制を崩して尻もちを着いた。
だが、その目は伊澄を捉えたままだ。
真っ直ぐ目を逸らさず、こっちに来るなとでも言いたげに。
大の大人が恐怖するさまを、伊澄はただ見下ろしていた。




