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再生の日


頭の中が真っ白だった。

それは降り積もる雪のように、視界は真っ白に染まって何も聞こえなかった。


寒くもなく、暑くもない。

ただ、自分の手が燃えるように熱かった。


自分の手からした垂れ落ちる朱紅い雫を見た時、伊澄は我に返った。


「……っあ………………あぁ!!!!」


するり、と両手で握りしめていた包丁が床に突き刺さる。

眼下に広がるのは赤い海。そこに沈んでいるのは……。


「待って……違う、そうじゃない……! 私は、私は、こんなこと………………!」


本当だ。喜んで貰いたかった。頭を撫でで、すごいねって言ってもらいたかった。

だから、必死に頑張って、ダメだったらもっとって頑張って。


全てを、自分さえも投げ打って、捨ててさえもしてきたのに。


それなのに、ダメだなんて言われた私はどうすればよかったの?

そう、問いかけたかっだけだったのに。


伊澄の中で全てが弾けて、粉々になって消えた。両親を思う気持ちごと、伊澄の心でさえも。


「私が、全部壊したんだ……」


人として、誰かを傷つけてはいけない。

優しく思いやりを持って、品行方正に。いつだって正しくいなさい。


人が羨むような、真っ直ぐな人でありなさい。

それが伊澄は両親から押し付けられてきた。

それが間違っているなんて思っていない。今もだ。


それなのに、伊澄は人としてあるべき道を踏み外した。

激情のまま、感情さえも超えて何も覚えていないくらいに。


「そうか、私はもう人じゃなかったんだ……」


真っ赤に染ったまま、伊澄は天を仰ぐ。

再び世界が遠くなり、激しい耳鳴りが世界を塞いだ。

自分が叫びながら泣いていることを、遠く遠く感じながら。


その後のことは、伊澄自身あまり記憶していなかった。

断片的に語られるのは、親殺しや何故そんなことをしたのか? などの詰問。

それから段々事実が明るみに出るにつれて、広がっていく同情の輪だった。


けれど、どれもこれも伊澄にとってどうでも良かった。

自分は激情に任せ、感情的に人を刺した。殺してしまったという事実だけ。

その先に待っているものがどんなものであろうとも、破滅しかないのだと思っていたから。


そんな折、拘置所で伊澄は両親が重傷ながらも生きている、一命は取り留めたと言う一報を聞いた。


しかし、そんな時でも伊澄の心は動かなかった。

凍りついた氷河のように、ただ静かに凪いでいるだけだった。


────────────


上場の酌量の余地あり、それが伊澄に判断されたのは両親を刺した事件から半年以上も経った後のことだった。


刑罰はそこまで重くなかったと伊澄は弁護士に言われていた。

そうですか、と冷たく言ったのは記憶に新しい。


自分でもこんなに冷たい声が出るのか、と驚くくらいに。


それでも、罰は下されて伊澄はその罰を受けるために少年院入った。

周りには色んな人が居たが、伊澄は淡々と日々を過ごした。


周りに興味がなかったのもそうだったが、何よりも伊澄は自分自身にも興味がなかったのだ。

だから今更、人間関係を築くつもりも無かった。


その状態のまま、伊澄は少年院を出る日を迎えた。






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