敬語おじさんとお見舞い3
梨花の自宅1階リビングは沈黙が支配していた。少し調子の悪い空調の風の音が場を持たせる大役を任せられる程、長い静寂に包まれている。当事者の梨花は1人この難所を切り抜ける方法を考えていた。
(地獄のような空気ね。いつも元気な凛ちゃんがママを怖がってるのも原因だけど…怖がって小さくなってる凛ちゃんも可愛い!!じゃなくて、問題はやっぱりおじさんよね。手ぶらなのはもういいとして凛ちゃんが頼んだとしてもお見舞いに来たのは予想外。心配してくれた事は嬉しいけど、こうなると凛ちゃんの手前親の前でおじさんと友達だと認めざる負えない!!一線は引いていたのに!親公認のおじさんってなに!?熱が上がるわ!!)
この空気の中、話を最初に切り出したのは梨花の母、綾だった。
「えっと凛ちゃんは…」
「…うぅごめんなさい」
「いや泣かないで!!私もう怒ってないのよ!!」
「…うぅ…」
「どどうしたらいいの!?私、死ねばいいの?死んだら許してくれる??」
「…ママって当たり強いのに打たれ弱いよね」
「ああ、お父さんもそう思う。」
混沌とするリビングでおじさんが凛ちゃんの頭に手を置いた。彼から凛ちゃんに触れたのはこれが初めてだった。凛ちゃんも初めての事に少し驚きながら泣き止んだ。おじさんは優しく問いかける。
「凛ちゃんはどんな時に怒りますか?」
「えっと…いじわるされた時とかダメなことした時…?」
「凛ちゃんはお母さんにいじわるしたんですか?」
「してないぞ。でもグラス割っちゃたんだ。いじわるだと思われた。」
「梨花さんのお母様はいじわるだと思いましたか?」
綾は話を振られ驚きつつもそれを否定した。
「ほら、凛ちゃんはいじわるだと思われてませんよ。怒られたのはダメなことをしたからです。」
「そっか。でも――」
「凛ちゃん、おじさんになると怒られる事はありません。それはそれで悲しい事です。怒られるって事は期待されている証拠ですから。」
「期待?」
「凛ちゃんにもっといい子でいて欲しい、仲良くしたいから怒ってしまうんです。凛ちゃんもダメなことを怒る時そうじゃありませんか?」
凛ちゃんの顔にいつもの雰囲気が戻る。凛ちゃんが綾の顔を見ると顔を縦にちぎれるほど振る姿があった。
「…じゃあ梨花ママはうちの事嫌ってないのか?」
「ええ、勿論です。そうですよね?」
「そうよ!私、凛ちゃんには感謝してるの!梨花といつも遊んでくれてありがとうって!」
「…おっちゃん!梨花のママ怖くなかった!!」
「そうですね。梨花さんに似てとても優しい方ですね。」
凛ちゃんが綾に微笑むとメンタル脆弱な綾は泣き出した。それを賢也と梨花が宥めている。だが空気は先程より軽くなっていた。
――――
「鈴木さんありがとうございます。そのインターホン越しでは大変な失礼なことをいいました。申し訳ございません。」
「いえ、私も来たはいいものの上手く説明が出来なかったので」
「梨花。梨花は鈴木さんと…えっと本当に友達ってことなのね?」
落ち着きを取り戻した綾が話を進めると梨花が恐れていた「親公認おじさん」が誕生する流れが生まれていた。これを止める為、梨花が口を開く。
「いや――」
「当たり前だろ!梨花はおじさんといつも話してるぞ!!」
「あら、そうなの?」
「いや――」
「梨花ちゃんは重要な突っ込み担当ですから、いつも助け頂いております。」
「まあ!梨花は昔から突っ込み好きだもんね!」
「確かにな!梨花は我が家でも突っ込みメインだしな!!」
「突っ込むのは全部パパとママの所為でしょ!!もういや……おじさんは友達だから早く終わらせて」
梨花の抵抗虚しく、親公認おじさんがここに誕生した。
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次で1章ラストです。最後までおじさんにお付き合い下さい!