第6章 8
8.
隆一は操縦の才能があったのかは判らないが、宇宙船は皆が思っていたよりもずっとスムーズに地上都市 Xの大きな空地に着陸した。
最初、地上都市 Xの管制にヘリポートに誘導されたが、そんな狭いとこに入るわけねえだろう!と隆一が一喝し、広い土地を急遽用意させたのだ。
ああ…ガラの悪い宇宙船だと思われたろうなあ…
遠夜はため息をついた。
宇宙人と交信とかもしあったら。こんな調子でどうすんだ。
ハッチが開き、残る人々と別れを惜しみつつも、待ちかねたように人々がタラップを降り始める。
最後に真琴と遠夜たち7人も降りた。
下で待っていた、地下大都市ブラジリアのアルトゥールと握手する。
アルトゥールは背の高い、精悍な顔つきのがっちりした男で、笑うと優しい印象になった。
「よくここまで来てくれました」イヤーカフの同時通訳を通して、アルトゥールが温かく言った。
「こちらこそ。2000人以上の人を集めて束ねるのは大変だったでしょう」遠夜も答える。
「そちらのケイジがいてくれて、本当に助かりました。
ケイジには是非こちらに残っていただきたい」アルトゥールはまんざら世辞でもないような調子で言う。
「いやそれは…」ダメに決まってるだろう。
遠夜の顔を見て、アルトゥールは笑いだす。
「冗談ですよ。判りやすい方だ」
「じゃあ、真琴さん。後は頼んだよ。
元気で。保さんと末永く仲良くね」遠夜は、真琴と保に握手した。
「遠夜も。皆も。元気で。ワープが上手くいくことを祈ってるわ。
遠夜、隆一と喧嘩すんじゃないわよ」
真琴は目に涙を浮かべて、それでも微笑みながら皆と握手を交わした。
「善処します!」遠夜は笑って敬礼した。
「喧嘩しない、とは言えないわけね」啓司がため息をつく。
やれやれ…恭香が地下大都市で呟いた言葉の意味が判った。
俺はまだまだ、こいつの面倒を見なきゃいけないってことか。
『宇宙船に乗る方、搭乗を開始してください』恭香が拡声器で誘導を開始する。
150人強の人が次々にタラップを登っていく。
「宇航が芽衣さんと話すって」真人が走っていく宇航を指さす。
「まあ、乗ってきた人たちの部屋割りとかいろいろあるし、出航は話が終わってからでいいだろ」と遠夜は言って、タラップを登っていった。
「上手くいくと良いなあ」真人と恭香は言い合って、最後にタラップを登る。
宇航は国際色豊かな人々の中に芽衣を探し、見つけて腕をつかんだ。
「芽衣!」久しぶりに会う恋人の名前を大きな声で呼ぶ。
「宇航…」振り向いた芽衣の瞳には涙が溜まっていた。
「芽衣、俺が悪かった。一緒に来て欲しい。宇宙へ。
君がいないと、俺は…」そこでたまらず抱きしめる。
「地上で一緒に暮らすことはできないの?宇宙へなんて…」泣きながら芽衣は言う。
「遠夜たちに会ってくれるか?実に素晴らしい人たちなんだ。
俺の、本当の気持ちをちゃんと話して、連れて来いって言ってくれた。
最初に話してたことと変わってしまったのは謝る。
でもあの人たちと、俺は最後まで旅をしたいと思ってる。もちろん君も一緒に」
そこで腕を離し、芽衣の両肩に手を置いて宇航は言った。
「芽衣。俺は君を愛している。
俺の妻になってください。
そして、宇宙で、どこかの星で、最期を迎えるまで。ずっと一緒にいてください」
頭を下げた。
「宇航…顔を上げて」泣き声で言う。
宇航が頭を上げると、芽衣は抱きついてきた。
「ありがとう。…嬉しい」
そして二人で急いで荷物を取り、宇宙船へ向かった。
「宇航!」乗り込むと、皆が笑顔で駆け寄ってきた。
「良かった!一緒に来てくれたんだね!」真人が芽衣の手を取り、ぶんぶん振る。
「こら真人!芽衣さん驚いてるじゃないか」慌てて貴彦が制した。
「芽衣さん、初めまして。一応、この船の船長の遠夜です。
宇航と一緒に来てくれて、本当に嬉しい。歓迎します」
遠夜は芽衣と握手しながら言った。
精神の芽衣の中に、温かい感情が流れ込んでくる。
強靭な人だ。でもとても優しい。
「芽衣です。日本語は大丈夫です。
皆さんに会えて嬉しい」
流暢な日本語で言って、芽衣は皆と笑顔で握手する。
「じゃあ、ハッチを閉じて。出航する」遠夜が言って、サイボーグ隆一はハッチを閉めた。
コクピット・ウィンドウからは見送りの人々が見える。
ぐおんぐおんとプロペラが回り始め、ものすごい旋風が巻き起こって、見送りの人々の着衣や髪を乱す。
宇宙船の船窓にも人々が張り付き、手を振って別れを惜しんでいる。
やがて船は宙に浮いて、大空へ飛び立った。
船内では大騒ぎのうちになんとか部屋割りも終わり、公用語は何故か日本語と決まった。
遠夜と恭香、貴彦と悠美は同じ船室を割り当てられ、焦って辞退した。
ちょっとそれはまだ…早いよ…ねえ?
「さて…いよいよ、飛行計画を発表しなきゃなんだけど…」
コクピットに、芽衣も加えた8人が集まり、サイボーグ隆一も参加して会議が始まった。
「まだ宇宙に出られるか、ワープできるか判ってないし…」遠夜が首に手をやりながら言う。
「とりあえず、地球の重力振り切ってからでいいんじゃない?」真人が気楽そうな感じで言う。
「そうだなぁ。隆一、宇宙空間に出るためのマニュアルは大丈夫か?」
宇航が宇宙船に呼びかけ『こちらはいつでもOKだ。宇航と恭香の方は?』すぐに返答が来る。
芽衣は先ほどサイボーグ隆一と挨拶を交わしていたが、やはりまだ慣れないようでなんとなく居心地悪そうにしている。
「私は大丈夫」恭香が言い、宇航も「じゃあ、1時間後に」と言った。
「えっ?もう宇宙に行けちゃうの?」遠夜と真人が驚いたように訊く。
啓司や貴彦も目を丸くして、宇航と恭香を見ている。
「そのための宇宙船でしょ」恭香が笑いだす。
「私たちは、隆一がこの船に搭載されてからずっと一緒に検討を重ねてきている。
まあ、やってみないと判らないけれど、恐らく行けると思うよ」宇航も微笑んで言う。
「あ…じゃあ、1時間後に決行だ」遠夜は呆然としたまま言い、皆は頷いた。
いつの間にそこまで…遠夜は驚きを禁じ得ない。
この船が無事に飛び立つかも判らない状況で、その先の宇宙空間、恐らくはワープ航法のことも検討していたんだろう。
俺が、宇宙に行きたいと言ったから。
有り難い。遠夜は思わず拳を握りしめた。
得難い仲間だ。大切な人たちだ。
俺は、この人たちの恩に報いなければ…
『搭乗の皆さんにお知らせします。
当船は、1時間後、17時ちょうどに宇宙空間へ向けて出発します。
17時には各自船室にて待機をお願いします』
恭香が船内アナウンスを入れ、にわかに船内は騒然とした。
「俺たち、何か手伝うことある?」真人が訊いた。
「あ、じゃあ、遠夜と真人はここで操縦の手助けをして。
貴彦・啓司・悠美・芽衣は船内を見回って、異変がないかチェックして」
宇航が言い、皆それぞれ動き出した。




