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この世界において女神ハイヌウェレは深い信仰を集めている。
豊穣と多産を司りつつも、女神ゆえに気性が荒く、戦の伝説も多いために戦の女神とも言われる。
女子供に非常に慈悲深いとされながら、浮気には苛烈で、恋多き女神だったハイヌウェレは関係を持った相手が浮気した場合は必ず復讐した。これが大変苛烈であったために各地に存在した神々が怯え、とうとう神は女神ハイヌウェレだけになったという。
そんな女神ハイヌウェレは男女や獣種を問わず恋人を選び、相手が同性でも子供を孕めるようにしたのだという。
「満月を迎える日までの7日間、女神ハイヌウェレに祈りながら神殿で情事を行えば赤子を肚に授かるのです」
「…………」
アランと別れ、ロベルのオッチャンとドジャーを連れて村に帰ってきた。ロベルのオッチャンは難しい顔をしてからドジャーにヤタエ医師を呼ばせ、俺はなぜか彼から女神ハイヌウェレの講習と妊娠についてのプロセスを受講させられた。
あまりにトンチキな妊娠に驚かされたが、おそらく俺はこの世界においての異分子なので関係ないだろう。そもそも結婚は日本でするし。
そう思って島に帰還した。
一度に持ってくる事が出来なかったノートやインク、ペンを纏めておいた。
一度本島に渡り、市役所に行ってから中古屋で食器やスカーフなどを中心に購入した。かなりの重さになるので真冬だというのにダラダラ汗をかいてしまった。
必死になって持ち帰り、フェリーで島に戻った。
島では爺さん婆さんに声をかけられ、荷物を置いた後に電球を変えたり買い物とゴミ回収を頼まれたりと雑用を振られてしまった。ナンテコッタ。
「おっ、爺さんこれ捨てるの?」
「もう使わんしな。明後日には孫がくるから部屋を広げたいんだ」
「なるほどな。こっちのゴミはフェリーに乗せてくるから、これくれよ」
「ああ、良いぞ」
昔使っていた食器類などを入れた段ボールを覗き込み、俺はにこにこと雑用を請け負った。
食器はもちろん、段ボールの中には古い彫刻刀セットや手芸セットなど、小学校で謎に買わされるグッズも入っていた。
これは喜ばれるぞー、とウキウキと荷物を纏め、台車に乗せた。割れ物が入っているので慎重に動かして扉をくぐった。
腕をプルプルさせながら運んでいると、いつの間にが美人さんに成長していたビビが俺を見てニコリと笑った。
「坊っちゃん!」
「おはよー、ビビ。これ、売れないかなって思って持ってきたんだ。彫刻刀とか紙とかもあるよ」
「いつもありがとうね、坊っちゃん」
「良いよ、ビビがまたお茶を淹れてくれたら」
うふふ、と笑ったビビが荷物を受け取った。俺が台車に乗せてようやく運んだ荷物をよりにって子供の時から知っているビビに軽々と持ち上げられてなんともしょっぱい気持ちになった。
良いんだ……。ビビには昔っから負け続けて来たし、今さらだもん……。
ビビが淹れてくれたローズヒップティーをちびちび飲んでいると、マイクが俺を呼びに来た。
なんとも言えない顔をしているマイクに疑問符を浮かべながら着いていくと、物見櫓まで連れてこられた。
「坊っちゃんが来ましたよ~」
「あいよ。おお、坊っちゃん。見てくれ」
「え、なに?」
ロベルのオッチャンが指差す方向を見る。高台にある上に随分遠いから眼を凝らす。
んー、と唸りながら眼に力を入れていると、確かに人影がある。夜みたいな髪色と、遠くからでもわかるガタイの良さ…………あれ?
「うっそだろおい」
「本当だ。あれから時間をかけてウチの村を探しだして来やがった」
「そ、そんなぁ……」
へなへなとその場にしゃがみこむ俺に、ロベルのオッチャンは可哀想なものを見るような眼で俺を見詰め、肩を叩いた。慰めにもならない。
困り果てたが、なにもしないわけにもいかない。
外堀までのなっっがい距離をテクテク歩き、門を開けて上げ橋を下ろして貰うと、アランははち切れんばかりに尻尾を振りながら駆け寄ってきた。
ちょっと可愛いのやめてくれ。
「コウ!」
「あのぉ、結婚出来ないって俺言いましたよね?」
「お互いを知る時間も必要だと思う。なにも知らないのに断らないで欲しい」
「そんな馬鹿な……」
溜め息が止まらない。
額を抑え、とりあえず近場の木の足元に腰をおろした。
「あのね、俺はちょっと事情があって、俺の子どもを作らないといけないんだ」
「子どもなら私と作れば良い」
「そういうことじゃないんだ」
金貨が流通し、日本で換金出来た以上、扉の扱いは非常にシビアなものになった。こちらへの影響を強く与えるため、扉を管理する者は信用できる人間でなければならず、かつ島に常駐できることが望ましい。
信用できる人間というのは難しい上に、島に住むことに合意出来るかどうかというのは大きな課題だった。母のように決められた土地で決められた相手と結婚される運命を恨み、半ば家出同然で島を出る気持ちも俺にはわかる。
だからといって、扉を放置するのも恐ろしかった。
「大事な役割があるから、アランとは結婚出来ないんだよ」
言い聞かせるようにゆっくり話したが、アランの眼の強さは変わらない。
緑色が赤く変わってしまうのではないかというほど燃え上がる熱に、臆してしまいそうになる。皮膚がチリチリとするほどの強さに息を飲む。
「なら、私もここに住む」
「……ん?」
「私もここに住む。結婚しなくても良い。一緒に暮らそう」
「そういうことじゃない!!!」
俺は心から叫んだ。




