第63話:異空間の出会い ~サトルの商才はウチが活かす~
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
「僕、天使に会うの初めてだけど、美人なんだね」
< この人間、ウチらが見えるんか? >
「はい。なぜか分からないけど、見えるみたいです」
飛んできた布に巻かれた瞬間、目の前が真っ暗になり、
いつの間にか、閉じ込められた世界。
淡い緑に囲まれた、この空間は心地よい風が吹いている。
果てしなく続く世界は、平原にも、大海原にも見える。
それでいて、閉鎖空間の装いも感じる……。
ヤヨイもユヅキにとって、まるで見当がつかない場所だ。
< あんた、黒田さとる、っていうたら、
オトハちゃんが蘇らせようとしとるロンドラの開祖やないか >
「確かに、ロンドラは僕が作りました。
でも、僕を蘇らせようとしている人がいるんですね?
ということは、アッポーウォッチを起動させたのかー」
< あぁ、あのへんてこな装置のことやな >
「ふーん、あれを動かせるってことは、
やっぱり転生者が現れたんですか?」
< いや、普通の人間やで >
「この世界の人が、アッポーウォッチを起動させた?」
スマホもパソコンもない、この世界で
アッポーウォッチを起動するのは不可能だ。
サトルですら、アッポーウォッチを買ってもらった時、
取説を読むのに1時間はかかったのだ。
「へー、何だか、その人に会ってみたくなったなー」
70年間、この世界で孤独だった寂しさから、
ついに解放される期待が、さとるの心を大きく揺さぶった。
「ところで、天使さん達は、何でココに来たんですか?
やっぱり、僕みたいに死んじゃったの?」
< あはは、天使が死ぬわけないやろ >
< オトハが作った、あの布のせいね。
きっと、時空にゆがみができたんだわ >
「もしかして、その布は「つつんだるねん」だったりして?」
< 名前はわからない。ただ、包まれた時から魔力が
封じ込められて、自由が利かなくなったのです >
「やっぱりそうだ。それなら元の世界に戻れますよ。
あの有効時間は、3時間なんです」
< そうかいな。一目見て、商品にならんかなと思てたんや。
粗大ごみや、魔力ゴミが、捨てられたら便利やで >
< でも、3時間したら戻って来るんでしょ? >
「それなら、僕にいい商品のアイディアがありますよ」
< なんや?聞かせて >
「この空間は、何をしても壊れないし、誰の迷惑にもならない。
だから、カラオケの練習や、サバゲ―に向いてるよ」
< アンタのいう事、よくわからんのやけど >
「ここは完全な閉鎖空間だから、
歌の練習や、軍隊の演習に向いてると思うんです。
あとは、時間が短いけど安全だから、野宿の時に使うとか」
< なるほど。それは面白いわね >
< 自分、商売の才能あるわ。蘇ったらウチと商売せーへん? >
「ええ?天使様と一緒に商売なんて、面白いですねー」
その後、ユヅキとサトルは、意気投合し、
商品開発の話題で大いに盛り上がるのであった。
◆◇◆◇◆◇
「それでオトハ、『蘇りの呪文』はどうなったの?」
奥院の間で、珍しい魔道具を手あたり次第、
触りまくっていたオトハが、キキョウの声で我に返った。
「あ、サトルくんを忘れてました。聖典、聖典は、どこかな?」
オトハが、慌てて奥院の間を探し始めた。
「まったく、何しに来たのよ」
やがて、オトハの視界に一枚の薄い皿が棚の上から落ちて来た。
鏡のようにキラキラ光る皿。
円の中心には親指が入るぐらいの穴が開いている。
「これは怪しいわね」
< オトハ、そのディスクをリリーに見せてみなさい >
「はい。リリーちゃん、出ておいで―」
『ご主人様、なんか御用にゃ?』
「この皿を調べてちょーだい」
『はい、にゃー。でも、その前にご褒美が欲しいにゃ』
リリーがオトハのそばに近づいていき、頭を摺り寄せた。
オトハはカオルの「小鳥ちょーる」を参考に作った
「子猫ちょーる」を差し出し、あごの下をなでてあげた。
『ごろごろごろ』
リリーがしっぽを振りながら、のどを鳴らした。
『満足しましたにゃ。この円盤は映像が詰まったディスクにゃ。
見てみますか?』
「『映像』の意味が分からないけど、お願い」
『りょーかいにゃ』
リリーが円盤を口にくわえると、映像が奥院の壁に投射された。
そこに映し出されたのは、見たことがない街だった。
石とガラスの巨大な建物が立ち並び、鉄の塊が空を飛び、
長細い箱で人間たちが運ばれる、謎の街の姿。
まさに東京の風景だった。
「な、なに?これは神の街なんですか?」
< いえ、これはサトルがいた前世の世界よ >
「すごい!サトルくん、
サトルくんは、こんな魔道具だらけの世界から来たんですね」
そして、次に映し出されたのは、太陽、水星、金星、地球と
太陽系が映し出され、最後には銀河系の全容が目の前に広がる。
「これ、呪文のひとつなのでしょうか?」
< シッ、いま、サトルがしゃべりはじめたわ >
『僕は現世で死んで、この世界に来て初めて気が付いた。
僕たちの太陽系は皿状に広がってるけど、実際は違った。
太陽は連星で、いくつもの太陽系が並行して上下に存在する。
つまり並行世界が存在するんだ』
< なるほど、面白い話じゃないの! >
カンナがサクラの後ろに現れて腕を組む。
< この話だと『神』が大勢いて、その数だけ世界があるってことね >
< 彼の話が本当なら、『黒神』の存在もうなづけるわ >
サトルの話は更に続く。
二人の天使は、幼さが残る少年の声に耳を傾ける。
『僕たちが「死」と呼んでいるのは、他の世界への移動を意味する。
つまり人は転生を繰り返し、永遠に平行世界を渡り歩いているんだ』
< この話が正しければ、確かに「蘇り」は可能になるわね。
でも、こんな話が広がったら世界は無秩序に崩壊するわよ >
サクラがため息をつくと、人間二人は既に話についていけず、
オトハは、部屋のトイレについていたウォシュレットを分解している。
( でも、もし、サトルの知識とオトハのスキルが融合できたら、
『黒神』の野望を止めることができるかもしれない )
「うわーー、このシャワー、小さくて入れませーん」
便器に片足を突っ込み、シャワーを浴びるオトハを見て、
サクラは、『サトルとキキョウの融合』を模索するのであった。




