第4話:チケット完売? 聖女、見世物になる
【 1. 教師たちの「合理的」な解釈 】
更地になった演習場を、学園の重鎮たちが真っ青な顔で見下ろしていた。
学園長は眼鏡を拭いながら、どこか安心したように首を振る。
「さ、さすがは……特待クラスのキキョウ君による『聖女の奇跡』だ。彼女の膨大な魔力が、あのガラクタを一時的に神格化させた……そう考えるのが妥当だろう」
「なるほど。あのメガネの娘はあくまで媒介。真の主導権は聖女にある、と」
教師たちは深く頷き合った。
無能な生徒の新発明を認めるより、聖女が凄まじいだけだとする方が、学園の秩序は保たれるのだ。
『――新入生の皆さん! 驚くべき魔法を見せてくれたキキョウ・シラユキさん。その力を祝し、午後の生徒会長による「模範魔法演武」のパートナーに彼女を指名します!』
アナウンスを聞いたキキョウは、「……は?」と魂の抜けた声を上げた。
同じくアナウンスが流れるや否や、行動をとったものがいた。
その者は素早くオトハの手を取ると、スタスタと第八寮へ連れ去ったのだ。
【 2. 稀代の興行師 】
ランチタイム、演習場には長蛇の列ができるチケットブースが出現していた。
「はーい、並んで並んで! 当日券は残りわずかやで!」
メガホンを手に列を捌いているのは、副会長のシバだ。
「あ、そこのお兄さん! 第八寮特製のパンがセットのVIP席はどう? これ食べたら、一時的に魔力がグンと上がるんよ」
「はぁ? 魔力が上がるパンだと!? そんな馬鹿な」
疑う男子生徒に、シバは一切れのパンを差し出す。
それを食べた男子生徒は――。
「…………っ!!? おおおおおおおおっ!!? な、なんやこれ……! 魔力が溢れて止まらんぞおお!」
「……ね? 嘘やないでしょ」
シバは金のブレスレットをジャラつかせ、眩い笑顔で注文をさばいていく。
その姿は完全に、稀代の興行師のそれだった。
その時、実体化したサクラが、シバの肩に座るユヅキをキッと睨みつけた。
<おい。やっぱりこの騒ぎ、ユヅキ、アンタの仕業だったのね。なんでオトハのクロワッサンの秘密を、アンタが知ってるのよ>
『ひっひっひ。サクラちゃん、蛇の道は蛇やで。昨日の夜、オトハちゃんが試作しとるのを一口「味見」させてもうたんや。一口食べた瞬間、カネの匂いがプンプンしたわ』
<……相変わらずだな、カネの亡者め>
【 3. 納得のチャーム(物理) 】
「……ちょっと、なによあれ」
校舎の影からキキョウが睨んでいたが、そこへシバが音もなく近づく。
「おや、主役のお出ましやね。キキョウさん、そう怒らんといて」
シバの瞳が黄金色に明滅する。
シバ本人の意思とは関係なく、彼が強い気持を示すと得意魔法『チャーム(黄金の魅了)』が発動するのだ。
「……第八寮の修繕費と、オトハさんの新作開発資金。ギャラで全部、賄えるようにしといたるから。……ね、悪い話やないでしょ?」
「……っ。……まぁ、オトハのためなら、今回だけは乗ってあげてもいいわね」
<キキョウ! アンタ、『聖女』のくせにチャーム耐性ゼロなの!?>
<まぁまぁ、サクラちゃん、シバちゃんのチャームがそれだけエグいんやで。だから、しゃーないしゃーない>
サクラの傍らで、タコ焼きを頬張りながらユヅキが笑う。
【 4. 職人のスイッチ 】
一方、第八寮の厨房。
そこには、鼻歌まじりに生地を捏ねるオトハの姿があった。
「ふふふ……生徒会さんに頼まれちゃった。オーブンちゃん、よかったね。君の性能が、やっとみんなに認めてもらえるんだよ……!」
オトハは愛おしそうに魔導オーブンの天板を撫でる。
試作段階ではキキョウが直接魔力を流さないと動かなかったが、改良を重ねた今の「オーブンちゃん」は、事前にキキョウから分けてもらった魔力を**「魔導バッテリー」に充電**しておくことで、オトハ一人でも稼働できるようになっていた。
「……300個。客席の熱狂を計算に入れ、糖分を15%増量。さらに、魔力回路を強制励起させるための魔導加熱……」
オトハのメガネが、キィィィィンと鋭く光った。
「名付けて『バトル・デニッシュ』。サクラさん、オーブンの魔力流速、あと5%上げてください! 私たちの最高傑作、みんなにたっぷり味わってもらいましょう!」
<……ええい、分かったわよ! アンタの作るパンは相変わらず食い物っていうより『燃料』ね。でも……アンタがそこまで言うなら、あいつらの度肝を抜く最高の一品を焼きなさい!>
魔導オーブンが戦艦のエンジンのような咆哮を上げる。
商売、策略、そして純粋な職人の喜び。演武という名のお祭り騒ぎまで、あと一時間。
読んでいただき感謝です!
「魔法力ゼロの少女が、歪んだ愛で世界を解体する」
その軌跡を、ぜひ最後まで見届けてください。ご一読ありがとうございます。
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