第37話:海賊さん、ホントは良い人? 暴走する火竜を「脆弱性(逆鱗)」から一撃沈黙! ――30分の隙間時間で船を魔改造して帰ったら、国家規模の土下座が待っていた件。
「もう終わり? もっと全力で攻めてきていいですよ?」
オトハは煤けた作業着の袖をまくり、不敵に笑った。
「……何を小癪な! もう、こんなオモチャはいらん。
俺をコケにしたことを地獄で後悔しろ」
突然現れた弱そうな少女に、煽られて、
親方と呼ばれた男が、怒りのため、顔を真っ赤にして叫ぶ。
彼は手にしていた魔導ランチャーを無造作に投げ捨て、
地面を震わせるほどの凄まじい魔力を練り始めた。
空気がパチパチと音を立てて、大気が熱を帯びて歪む。
「はあああっ!!」
男の輪郭が歪み、肉体が内側から膨れ上がった。
皮膚が硬質な鱗へと変質し、背中から巨大な翼が突き出す。
それは一瞬のことだった。
オトハの目の前には、全長10メートルを超える、
伝説の象徴――「火竜」が悠然と立っていた。
<< グオオオオオオン!! >>
ドラゴンは、鼓膜を突き破らんばかりの咆哮をあげ、
凝縮された超高温の『ファイヤーブレス』を解き放った。
紅蓮の炎が、一瞬でオトハを飲み込んでいく。
「あぁ……オトハさん!」
ミアが思わず、目を背け、
竜が、会心のドヤ顔を浮かべた。
だが、その瞬間……、
「にゃーにゃー!」
「にゃにゃっ!」
虚空から小さな黒い影が横切る……。
業火の中に現れたのは、子猫ロボの集団だ。
「な、なにーーー?」
ドラゴンが驚くと、子猫たちはダンスを踊りはじめた。
いや、猫パンチを繰り出しているようにも見える。
やがて子猫の前に、つむじ風が生まれ、
それは、見る見るうちに巨大な砂嵐に変化した。
「にゃーにゃー!」
一匹の子猫が号令をかけると、猫パンチのスピードが増し、
業火を飲み込んでいく。
「ふぅ、驚いた……」
砂嵐の中から、のっそり出てくるオトハ。
「親方さん、全力で!って言ったら、
ドラゴンに変身しちゃっうんだもん……あれは、反則よね」
「オトハはん、無事だったんやね。よかったー」
「ここからはミアちゃんが変身して戦ってよ。
ドラゴン対決を見てみたいなー!」
「無理! うちは人間寄りのドラゴノイドやで。
そもそも、こんなデカいトカゲになれるかい!
……このトカゲはオトハちゃんにあげるわ。頑張りや!」
「えーーーっ!? 私トカゲ苦手なんですけど。
サクラさん、どうしよう!?」
◇◆◇◆◇
オトハが隣に浮かぶ守護天使に泣きつくと、
サクラは退屈そうに自分の半透明な爪を眺めながら答えた。
< 竜なんて、昔から『氷』と『喉の下の鱗(逆鱗)』に触られるのが
一番嫌いっていうのが相場よ。 保冷用に魔改造した「あれ」持ってるでしょ? >
「さすがサクラさん!ありがとう!」
オトハは、ガラクタの詰まったカバンを「もぞもぞ」とまさぐり、
一つの妙な魔道具を取り出した。
それはペンギンのような愛嬌のある魔道具だった。
「じゃーん! 『れいとーくん・ジュニア』! よろしくね、ジュニア君!」
オトハがスイッチを入れると、小さな魔道具が、
場違いな電子音で気の抜けた歌を歌い出した。
『こりゃこりゃ〜♪ こおりをつくりましょ〜♪
じわじわ〜、にちゃにちゃ〜♪』
ジュニアが歌うメロディに合わせて、周囲から青白い冷気が溢れ出し、
みるみるうちに巨大な氷の塊が生成されていく。
ドラゴンの熱気が、みるみるうちに冷めていく。
「笑わせるな!灼熱で悶え死ね!」
ドラゴンがさらに強大なブレスを吐き出した。
子猫たちの障壁が、ジワジワと押され、破壊されていく。
だが、オトハは炎を避けようとせず、ドラゴンを睨み続ける。
「まだよ。ジュニアくんがんばって」
ジュニアは、オトハに敬礼すると、
今度は巨大な氷を、ぎゅーぎゅーに押しつぶし始めた。
「たいちょー、できました」
やがてペンギンのから渡された氷は、10センチの弾丸になっていた。
ニャーちゃんの一人がオトハ特製の巨大な筒を構える。
次の瞬間、超圧縮された極大の氷塊が射出された。
それはドラゴンが最も嫌う、
喉の下の柔らかい鱗を完璧な弾道で打ち抜いた。
<< ぎゃあああああああああ!! >>
断末魔。10メートルの巨躯が、激しい地響きと共に沈黙し、
もとの男の姿へと縮んでいった。
◇◆◇◆◇
「……おおおおおっ!!」
「すげえ! あの化け物を一撃で!」
捕虜になっていた者たち、
そして意外にも海賊たちからも割れんばかりの歓声が上がる。
「……なんでアンタら海賊が喜んどるんや? 仲間やろ?」
ミアが呆れたように尋ねると、海賊の一人が涙ながらに訴えた。
「実は俺たち、あの親方と幹部に脅されてたんだよ……。
特に『白夜』ってジジイ、性格悪すぎて……料理が少しでも不味いと
俺たちまで殴られるし、もう地獄だったんだ!」
「お姉ちゃん……海賊さんたち、悪くないよ」
ミアの前に、さっき殴られそうになった少女が立っていた。
少女の説明では、海賊たちは子供たちを殴ったりしないのだそうだ。
「じゃあ、さっきのおじいさんは?」
「ワシこのことかい?」
さっき、串刺しにされた老人が、ミアの前に現れた。
「あんた、串刺しにされたんじゃ?」
「あれは、海賊さんの幻影魔法じゃよ。
あぁでもしないと、幹部がワシを殺していただろう」
「そうなんや……。ウチ、知らずに何人も海にブッ飛ばしてしもたわ。
ごめんやで。生きてるかな……」
ミアが頭をかいていると、ひょっこりとシバが姿を現した。
「おー、やっと終わったか。ミアさんは賢いのう。よう頑張った」
「あ、シバさーん! ウチ、頑張ったで! ほめてや!」
◇◆◇◆◇
全身で甘えるミア。
シバは満足げに頷き、気絶した幹部たちを見下ろした。
「こいつらは、こっちの監獄で預かりまひょ。
……ただ、この巨大なドラゴンは、さすがにワシの手には余るなぁ。
また暴れられたら商売あがったりや」
< こいつ、後で使えるかもしれないわよ。オトハ、アンタが預かりなさい >
「えーーー!? 私が!? いやだなぁ、
さっきも言ったけど、トカゲが苦手なんですよ……」
独り言を呟くオトハに、海賊の生き残り(オットー)が声をかける。
「おい娘っ子、何を一人でブツブツ話してるんだ? 頭でも打ったのか?」
「オットーはん、放っといてええで。オトハはんは、たまにこうやって
独り言を話しはるんや」
シバの号令で、撤収作業が始まった。
「お姉さん、ありがとう!」
捕虜の子供たちがキキョウとミアの元に集まる。
その顔には安堵の涙が浮かんでいた。
「いいのよ。……それより、アンタたち、帰るところはあるの?」
「……分からない。お父さん、お母さん……」
安心して、突然泣き出す子供たちを見て、ミアが力強く胸を叩いた。
「帰る家がない子は、ウチで雇ったるわ!
自分らぐらいの子、ウチの商会でぎょうさん働いとるし、
飯も腹一杯食わせたる!」
「よう言うた! ミアはん、アンタは見どころあるわ!」
「当たり前や! ウチは未来のシバはんの嫁やで!」
夕陽に染まる海を、メディーナ港に向かう一行。
だが、そこで待っていたのは、勝利の凱旋とは程遠い、緊迫した空気だった。
港の岸壁には、商船ギルド長、そしてロンドラやシルバーランドの
「大臣」たちが、真っ青な顔で整列していたのだ。
彼らは船から降りてきたキキョウの姿を見つけるなり、
地面に膝をついて叫んだ。
「キキョウ殿!! お願いです、どうか……我が国を救ってください!!」
その切実な視線は、魔道具を磨くオトハではなく、
沈黙を守るキキョウへと向けられていた。
歴史の歯車は、彼女たちに休養を与えない。
時代が、また一つ大きく軋み始めた。




