表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/21

第2話:魔法なんていりません。~黄金のクロワッサンと魔女の囁き~

【 1. 聖女様と、歩く人間ラジエーター 】


 シルバーランド王立魔法学園の入学式。

新入生総代として登壇したキキョウが、凛とした声で宣誓を終える。


「――ボクたちは、叡智の灯を絶やさず、真理の道を往かんことを」


 背後に浮かぶ聖なる光輪は、彼女が「最高位の聖女」であることを証明していた。


 一方、その輝かしい場所から遠く離れた会場の末席。


「……すごいです、キキョウさん。まるで超高輝度LEDライトのような輝きですね」


 分厚いメガネを指で押し上げ、オトハ・ブルーノが感心したように呟く。

その声は、周囲の誰にも聞こえないような小さな、独り言のような声で。


<本当ならアンタが主役なんだけどねぇ。まぁ、その性格じゃ、目立ちたくないだろうからさ>


 漆黒の堕天使・サクラは実体のない盃を煽り、退屈そうに笑う。

その姿も声も、契約者であるオトハにしか届かない。

そのため、こうして衆人環視の中でも「二人だけの作戦会議」ができるのだ。



【 2. 聖女の裏家業ボディーガード


 式典が終了した瞬間、キキョウの「笑顔の仮面」がわずかに歪んだ。

「聖女様!」と群がる信者志望の生徒たち。


 彼女は有象無象の輩たちを神速のフットワークでかわしていく。

 神速で向かう先にいるは、一人の魔道具オタク少女。


(……ボクは聖女である前に、オトハの両親(領主)に雇われたボディーガードなんだからね!)


 雇い主からの厳命は一つ。

「変人に絡まれやすい娘を、学園生活の間、全力で守護せよ」。


 オトハが一人で第八寮(ボロ寮)へ向かった今、警護対象を放置するわけにはいかない。


 キキョウは裏道を猛ダッシュし、ようやく目的のボロ寮へと辿り着いた。


「……はぁ、はぁ……! ちょっとオトハ! 無事!? ボクはここに辿り着くまでに、無駄に多い男たちに道を塞がれたわ!」


 キキョウは寮の扉を乱暴に開け、生存確認という名の文句をぶちまけた。

だが、肝心の警護対象は、危機感のかけらもない様子だった。


「あ、キキョウさん。お疲れ様です。……それより見てください。この子、瀕死です」


 オトハが熱っぽい瞳で愛おしそうに撫でまわしていたのは、煤まみれの旧式「魔導オーブン」だった。


「排熱効率は絶望的、魔力の伝導経路は詰まり放題……。ああ、可哀想に。お腹が空いているのに、食べ物を上手く焼けないなんて……!」


「ちょっとオトハ、オーブンに話しかけて口説くのやめなさい。その『知恵熱の暴走』、本当に病気なんだから……」


 ドン引きするキキョウを余所に、オトハは自作の魔法レンチを取り出した。

漆黒の堕天使サクラから教わった「前世の理論」を、異世界の魔道具に組み込もうというのだ。



【 3. その瞬間(10分間の強制労働) 】


「キキョウさん、すみません! あと一押しなんです。10分だけ、手を貸してください!」


 オトハがキキョウの両手をガシッと握りしめる。


「えっ、あ、また……きゃっ!?」


 キキョウが抗議しようとした瞬間、オトハが分厚いレンズの奥から、今にも泣き出しそうな瞳で訴えた。


「……だって、**わたしでは魔力が使えないから。**キキョウさんしか、この子を救えないんです……っ!」


「う、うぐ……っ。……もう、わかったわよ! 10分だけだからね!」


 キキョウが観念して力を込めた、その瞬間――。


 世界が、一瞬だけ止まった。

重なり合った二人の手のひらから、パチリと青白い火花が弾ける。


 オトハの背後に、巨大な**「漆黒 of 堕天使」**の幻影が重なった。

サクラがその細い指をキキョウのうなじに添え、禁忌の熱を流し込む。


 聖女の清廉な光と、堕天使の苛烈な闇。相反する二つの力がオトハというフィルターを通じ、機械的な「数式」へと変換されていく。


<<封印解除アンロック――強制共鳴開始>>


 キキョウの視界が白く染まり、オトハの黄金の瞳が激しく発光した。

二人の間に渦巻く膨大なエネルギーが、ボロいオーブンの回路に「命」を吹き込んでいく。


「内燃魔導、最終調整――点火スパーク!」


 ドォォォォン! と腹に響くような駆動音が鳴り響き、オーブンの通気口から虹色の魔力残滓が吹き出した。


 10分後。

リミッターが戻り、光が収束すると、そこには汗だくでヘナヘナと座り込むキキョウの姿があった。


「……はぁ、はぁ……。今、一瞬……。何か、ものすごく不吉で、でも懐かしいものに、後ろから抱きしめられたような……」


「……できました。これで、最高に美味しいトーストが焼けます」


「……あんたねぇ! 今の、絶対ただの魔力供給じゃないでしょ!? 生きた心地がしなかったわよ!」


 キキョウの怒鳴り声も、今のオトハには届かない。

彼女は黄金色に予熱され始めたオーブンを、慈しむように見つめていたのである。



【 4. 序列の影と、戦乱の足音 】


 翌朝。炭のように真っ黒なパンしか焼けなかったオーブンが、黄金色の極上クロワッサンを量産し始めた。


 そんな喧騒を、生徒会室の窓から見下ろす影があった。

白銀の金髪をなびかせる生徒会長。その背後から、美しい神の声が響く。


『あら……あの魔導具。術式が……実に、美しい』


 深紅の袴を纏う絶世の美女――「堕天使」ヤヨイ。

彼女は生徒会長の髪をなぞり、陶酔したように笑う。


<ふーん、ヤヨイちゃん、そんな趣味があるん? もしかして金の魔道具フェチ?>


 ソファで寝転がる、少女の形をしたエーテル体――「堕天使」ユヅキが笑う。


<ひっひっひ。気にしない気にしない。ウチなんか金そのものが大好きやからなー>


 ユヅキはお調子者で笑いを愛し、しかしその実は誰よりも腹黒い。


<……あーあ、サクラちゃんは相変わらず情に流されてあんな小娘を加護するなんて。ウチらの中で最強なんだから、もっとバーンといきゃええねんな>


『でも、あの子が本気を出したら、ユヅキの計画は破滅するのではなくて?』


<そこやねん。だからな、今、計画を立てとんのや。……ひっひっひ、悪い顔しとるやろ?>


 堕天使たちの覇道、いろいろな思惑が交差し合う。

再びこの異世界で、一人の少女を中心に新たな戦いが始まろうとしていた。

読んでいただき感謝です!


「魔法力ゼロの少女が、歪んだ愛で世界を解体する」

その軌跡を、ぜひ最後まで見届けてください。ご一読ありがとうございます。


**「面白そう」**と少しでも思っていただけたら、

下の【☆☆☆☆☆】と【ブックマーク】で応援いただけると、執筆の魔力が爆上がりします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ