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序盤で死ぬなんて耐えられない  作者: ききたれ
生まれてからのいろいろ編
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2

外が明るくなってきたようなきがして、意識がはっきりしてきた。


目は開かないが、手足が動くようなのでにぎにぎと動かしてみる。ゆらゆらと動く体で感じるに、まだ水の中であるようだ。けれど息苦しいとは感じない。

最期に感じたものよりも、とても暖かく、心地よい。

眠気が襲ってきて、揺れに促されるように眠りについた。



音が聞こえてきて、目は開かないが目を覚ます。

優しい声で呼びかける、鈴を転がしたような女性の声。

微弱な振動が水伝いに伝わってきた。


「マーティちゃん」


誰かの名前を呼んでいるようだ。

しかしその声は先程からその名前を私に向かって呼んでいた。

もしかしたら。

その疑念を確かめるために、少しだけ、両手で壁を押してみる。グイグイ、と。

確信へ導くように、先程の声が喜色を伴って聞こえてきた。


「動いた! 初めて動いたわ! 」


やはり、私は生まれ変わっていたようだ。

そしてここはお腹の羊水に満たされた場所。

生まれ変わったのはいいが、意識がはっきりするのが早過ぎないかな。


「本当かい? 」


女性の声を聞いて、男性がやって来たのだろう。低く響くような声が聞こえてきた。

その声の主に答えるように、今度は足でもって押してみる。

「本当だ! ……ふふ、元気だね。昔の君のようなお転婆な子になったら大変だ」

「まあ! 昔のあなたのようなやんちゃな子でも心配ですわ」

女性と男性……おそらく、まだ見ぬ私の今世の両親は楽しそうにどんな子だろうかと話し合っている。

優しそうな人達でよかった。

私は外に出るのが楽しみになった。



今日は、なんだか外が騒がしい。

この母体も先日の言葉にもあったように元来お転婆であったらしく、少々落ち着きがない。

身重なのだから、大人しくしていて欲しい。

外に意識を傾ける。

沢山の人が行き交う音が聞こえてきた。

「今日はあなたのおじい様と出かけていたあなたのお兄様が帰ってくるのよ。そしてあの子の誕生日なの」

意識がはっきりしてきてから聞こえてきた話しかける声の中で、何度かお兄様について言っていた気がする。

なるほど。

出かけていたのだったらこの家にいないわけである。

「あなたがあの子の帰宅を待っていてくれてよかったわ」

何度か出ていこうとしたが、何分このお腹の中というのは気持ちのいいもので、あまり出る気にはなれなかった。

でも、お兄様にも会ってみたいし、そろそろいいのかもしれない。

数時間後にお兄様がおじい様と共に帰ってきた。

「ただいまかえりました! 」

舌っ足らずな男の子の声が聞こえてきた。

どうやらこの子が私のお兄様のようだ。



一週間後。



私は今世の父と兄が見守る中、産まれた。



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