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終編。餅から始まる新しい年。

「夜も更け、間もなく年が開けると言うこの時間に、わたしたちの告知に再び、この広場にお集まりいただき、真にありがとうございます」

 

 見上げるほどの高さから降って来た声。それはなんの器具も使ってないのに、ふわっと空間に響いています。

 

 現場で花火の音を聴いてるような、体中にドンと打ち付けたその声に、軽くたたらを踏むわたし。

 

「町長は、いつも声がでかいんだよ まったく。体がでっかいからしかたねえんだけどさ」

 迷惑そうに頭を抱えて翔也さん。

 

「しょうがないって。だって、巨大こだい町長、だいだらぼっちの血統なんだから」

 ふわっと耳を抑えた辰美ちゃんが、困ったような苦笑いです。

 

 鶴瓶つるべさんたちのおかげで広場は明るくて、足を運んでくれた人間さんたちがよく見えます。お昼とあまりかわらないほどの大盛況です。

 

 ですが、ザッと見てあの外国人さんの親子さんたちの姿は見えません。ジュニアさんが寝てしまって、ほっておくわけにはいかない そんなところでしょうか?

 ちょっぴり残念ですね。

 

 

「ええ。これから始める除夜の餅の後半について、簡単にご説明いたします」

 町長の声に人間さんたちはまだ慣れてないみたいで、少しざわざわしてます。

 

「昼間に突いてその後饅頭のような形に仕上げたこの餅を、厄餅やくもちと称し我々と皆さんで食べることになります」

 

 わたしたちの前には、長机とパイプ椅子が並ぶ簡単な食卓みたいな物がありまして。その上に三つほど重なったお餅が、横にいくつか並んでます。

 

 そこでまた、今までとは違う雰囲気のざわざわです。

 

「この厄餅。元々は我々妖怪が己が格を高めるため、過ぎ行く年の厄を餅に込め、それを喰らうと言う儀式めいた風習が起こりでございます。そもそもなぜ、人の子をまねて餅を突いたのかと申しますと……」

 

「なあ、俺 これこうやって聞くの初めてなんだけどさ」

 気は使ってるみたいで、小声で翔也さんが聞いて来たので、

「なんですか?」

 同じように返します。

 

「毎回、こんな話してんのか?」

 聞くからにうんざりと言う声で、翔也さんは聞いて来ました。なので、わたしははいと頷きましたら、辰美ちゃんもうんって頷きました。

 

「ええ。そんなわけでございまして。この厄餅を厄鏡割りやくきょうわりと称して、新たな世代である若い妖怪たちが自らの拳 手刀で叩き割り、過ぎた年の厄を残さず身に取り込む運びになるわけでございます」

 

 手刀を外国人さんたちに説明するため、町長はブオンっと軽く それでも少し風圧を伴った右の手刀を振りました。おお、とお客さんたちがどよめきました。

 

 ですけど……いったい、これはどういう意味でどよめいたんでしょうか?

 

「ですが現在この餅に厄を込めてはおりませんので、人の子であるあなた方がこれを口にしても害はございません。安心して召し上がってください」

 

「そうですよね。特に今年のお餅には、思い出がいっぱい詰まってますもんね」

 

 思わず表情がほころんじゃったですよ。辰美ちゃん、わたしを見てかな? フフフってほんわか笑ってます。

 

 でも、翔也さんは苦笑いです。どうしてだろう、って思ってる間に町長を指さして その後に頷いてます。

 

「あの、今の どういう意味ですか?」

「町長を信じてくれ、って意味でジェスチャーした。昼間の人間たちもいるみたいだな、最後の餅ついた時の俺の言葉を不吉がったみたいでさ。……伝わったかなぁ?」

 

 珍しく歯切れが悪い翔也さんに、わたしは

「伝わってますよ」

 って頷きながら言いました。

 

 

 と、突然町長の顔の方、つまりかなり上の方から、陽気な声が小さく聞こえてきました。

 

『もう間もなく新年。今年の命も後30秒です』

 

「いやな言い方するね。あの司会狐は」

 

「って言うと辰美ちゃん。今の、赤緑あかみど?」

「うん」

「マジかよ。誰だ? テレビ持ってきた奴?」

 

 翔也さんが音を見上げて困り顔です。

「さ、今宵この場に集ったのもなにかのえにしみなで新年の訪れを数えましょう」

 町長の言葉に盛り上がるお客さんたち。

 

「ああ、なるほど。カウントダウンのために釣瓶つるべさん家が持ってきてたのか」

「そうみたいですね」

 

 上空のテレビが後二十秒を告げました。

 

 始まるカウントダウン。でも、ここで奇妙なことが。

 

「KARATE-Chop! KARATE-Chop! KARATE-Chop! KARATE-Chop!」

 

 日本人さんたちとわたしたちとで同時に日本語でカウントしてるのと同時に、外国人さんたちがすごいテンションでこんな声を上げ始めたんですよっ。

 

「なっなんですかっいったいっ?!」

「空手チョップ。たしか手刀のことだったわよね?」

 

 目で翔也さんに聞いてる、わたしの右隣の辰美ちゃんです。机を掴んでるってことは、もしかして この外国人さんたちの言ってる勢いに圧倒されてる?

 

 そうだな、って翔也さんあっさり頷きます。よく知ってるなぁ、二人とも。

 

「手刀一つで、こんなに盛り上がるものなんですね。不思議です」

「だな」「だねぇ」

 

 

 カウントがいよいよ十秒を切りました。なんか、緊張しますよね。この、年が開ける直前って。

 

「よしおきぬちゃん。来年になる直前にジャンプしてよう」

「え? どうしてですか?」

 

 

「その時あたしたちは地球にいなかった~、ってするためだよ」

「フフフ、なんですかそれ?」

 

 

『五! 四!』

 ここで、いきなり翔也さんが。

「さらば今年!」

 

「えっ?」

 びっくりしてる間に、

『二!』

「いくよっ」

 わたしは辰美ちゃんにギュっと抱きしめられて、

 

「えっ?」

『一!』

「昇竜の舞~、なんてね。とうっ!」

 大きく垂直に飛びました。

 

「あ~れ~!」

 ーーそして!

 

 

『ゼロ!!』

 

 

 人間さんたちが、あけましておめでとうと法被に言ういやーって盛り上がる中、また翔也さんが、

 

「よろしく今年!」

 と気合を込めて叫びました。

 

「っと」「おっとっと」

「よし、年明け地球にいなかった作戦、大成功~」

 

「成功はしましたけど、辰美ちゃん。危うく新年初転びするところだったんです。縁起悪くなるところでしたよっ」

 

 妖怪たちも人間さんたちと同じように沸いてます。新年を迎えた瞬間って、種族に関係なく嬉しいものですよね、やっぱり。

 

「まあまあ、結果オーライ気にしない」

「もぅ」

 

「さあ、この盛り上がりのまま。厄鏡割といきましょう!」

 町長の一声で、妖怪たちが「応!」と更に盛り上がります。そしてまた始まる空手チョップの声。わわ、日本人さんたちまでのっちゃいましたよっ。

 

「過ぎ去りし厄を留めし鏡」

 力強い町長の声。それに少しずつ静かになって行く広場。

 

「新たなる子らの澄みたるけんにて、我らが糧たる不穏を斬つ益。その後残りし欠片たる物、我らが内にて格の上たれ。入党っ!」

 

 ブンッと上に振り上げられた、町長の右腕から巻き上がる風。わたしたちは、そのうたと風に動かされたような雰囲気で、お餅に対して手刀を構えます。

 

「斬!!」

 もう一度した町長の声と、今度はブンッと振り下ろされた腕と吹き降ろす風。

 

さいっ!」

 わたしたちは全員一斉に、気合の声といっしょに 利き手の手刀を、お餅を縦に両断するコースで振り下ろしました。

 

 わたしの右手はビシリと言う鈍い手応えを伴って突き進みます。そしてコツンと長机に辿り着きました。

 

「破っ!」

 続けてお餅を、食べやすいように四分の一にするため、今度は手刀を横にして同じようにお餅を切りました。見事四分の一お餅のできあがりです。

 

 切り終えたのを理解したみたいで、人間さんたちが

『空手チョップ ヒュー!』『KARATE-Chop! ヒュー!』

 と大盛り上がりです。

 

 日本人さんたちも、すっかり空手チョップ呼びになっちゃいましたね、ウフフ。

 

 でも、これだけのお餅で足りるんでしょうか?

 

「どうぞ。ご自由に食べてください」

 町長のひとことで、にわかに楽しそうなざわめきが広場に満ちます。

 

「おしるこどうぞ~」

 お母さんの声です。お母さんたちがお椀におしるこの汁を入れてます。

 

「え、まだお餅そんなにあったんですか?!」

 わたしたちが切ったの以外にも、いっぱいお餅がありました。びっくりです。

 

「おきぬちゃんがぬくぬくしてる間に、新たにお餅を作ったんだよ。あれだけだと足りないからね」

 辰美ちゃんの説明に、そうだったんだとびっくり感心するわたしです。

 

「ほら。二人の分も持って来たぞ」

 言って、翔也さんが、箸を上に 架け橋のように乗せたお椀を持ってきてくれました。コトリ、コトリと置かれます。

 

「ありがとうございます」

「サンキュー」

「うし。じゃ、食うか」

「はい」「うん」

 

 一番上のお餅を徐に掴んで、翔也さんが自分のお椀に入れます。なので、わたしたちもそれに続きました。

 

「じゃ。去年の厄を」

「「「いただきます」」」

 翔也さんの言葉に続いて、そしてパクリ。

 

 

「ん。意外と硬いですね」

「そだね。大丈夫翔也、歯 砕けてない?」

「そこまで硬くねえだろ?」

 

「でも。硬いですけど」

「うん。おしるこあったかいのも手伝って」

「普通に食うより、うまいかもな」

 そうして三人とも、自然と笑顔になってました。

 

 

「翔也さん」

「ん?」

「これからも、思い出作り。いっしょにしましょうね」

 

 わたしの言葉に、一瞬ポカンとして。それから、なんでかポワーっと真っ赤になってから、

「ん、あ、ああ。そ、そそそ、そうだなっ」

 すんごく動揺してます。なんででしょう?

 

 

「まったく。天然で告白まがいのこと言うんだからなぁ、おきぬちゃんは」

「え? こ、ここっ。こくh ぶふっ!」

 

「ふぃー、よかったぁ。今の勢いだと喉に詰まる転回じゃない、普通あるのは。吹き出してくれてよかったよ おきぬちゃん」

「ケフッケフッ。い いいいいきなりなにゆうんですかっ」

 

「そ、そそ そうだぞっ」

「あんたはおきぬちゃんが言ったことで動揺しただけでしょ」

 

「そうだよ。わるいか?」

 焼けてくお餅みたいなふくれっつらになった翔也さん。それがおかしくって、わたしは堪えられずに吹き出しちゃいました。

 

「現況が笑うなっ」

「ウフフフ、ごめんなさい。でも、フフフ、おかしくって。フフフフフ」

「ほんとだよねー。アハハハッ」

「お前らなぁ……」

 

 そうしてわたしたちはしばらく笑い合ってました。

 

 

「二人とも」

 笑いが収まって。翔也さんが、不意に改まった声で、ちょっとまじめな顔になって言いました。

 

「なんですか?」

 お餅を飲み込んでから聞いてみます。辰美ちゃんは、顔を向けただけで声は出してません、モグモグ中ですね。

 

 

「今年も。よろしく、な」

 

 

 てれくさそうに薄く顔を赤くしながら、目を反らして。

 

「うん」

 お餅を飲み込んだ辰美ちゃんに先を越されてしまいましたけど、

「はい」

 わたしも返事して。

 

 

 ーーそれで。

 

 

「「今年もよろしくおねがいします」」

 

 今年初めての、満面の笑みで答えるわたしたちでした。

 

 

 

 

 

                     おしまい。

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