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第13-2話 到達! 迷宮最深部

 

「アロイスさん、ヒューバートさん! 準備完了です!」


「ありがとう、グラス君。 アロイス、そろそろ行くとするか」


「はい、ヒューバートさん」


 次の日、僕とポゥたちアイテム精霊は、王都の地下に広がる迷宮の最先端部にいた。


 昨日までの掘削作業で、魔族レイラがいると思われる場所まであと数十メートルあまりの位置に到達。


 本日、残りの部分を一気に掘削、その勢いを借りて魔族レイラを制圧する手はずになっている。


 僕たちの後ろには数十人の冒険者たちが控える。

 いずれもS~Aランクの冒険者たちであり、王国冒険者ギルド所属の精鋭だ。


 僕たちが持つアイテム袋には100を超えるグランポーション、グランエーテル、万能薬、エリクサーが入っている。


 万一大魔王が復活し、長期戦になったとしても、ここにいる全てのメンバーが数時間は戦い続けられるだけの体制を整えていた。


「それでは……行きますよ!」


 エナがみんなの前に歩み出る。


 掘削作業で沢山のエナジーオーブを使用したが、僕とエナの必死の生産活動により(おかげで首筋に太もも型のアザが出来ました。 マフラー巻いて隠しています)、今日使う分として7個のエナジーオーブを確保した。


 まず、最後の掘削を行うために1つ目を使用する。


 パアアアアアァァッ……!


 エナが手に持つエナジーオーブがオレンジ色に輝き……青と赤の光がここにいるメンバー全員に降り注ぐ。


「……相変わらず、凄いな……」


 思わず感嘆の声を漏らすアロイスさん……エナジーオーブの効果により、各自の”力”と”素早さ”がカンストした瞬間だった。


「よし、行くぞみんな! 構えろっ!」


「「「おおっ!」」」


 アロイスさんの掛け声に唱和し、クワやスコップ、ツルハシなどの掘削用具を構える冒険者たち。


 ……微妙に気合の入らない光景だけど、仕方がない。

 まずは残り数十メートルの掘削をする必要があるので……。


 魔族レイラのいるフロアへの貫通を確認次第、エナが2つ目のエナジーオーブを使用……全ステータスを大幅に向上させた後、戦闘に突入する。


 その際に、僕は”XXヒール”を使い、魔族レイラのスキル発動を抑え込む予定になっている。


「掘削開始! うおおおおおっっ!!」


「「「だああああああっっ!」」」


 ガキインッ!

 ズドオンッ!

 ドサドサッ!


 ……上記は戦闘の効果音ではなく、冒険者たちがスコップやツルハシを土壁や岩肌に突き立てた音である。


 地下3000メートルを超えると地中に大きな岩が混じり、土の圧力も凄いので掘るのは大変じゃないかと思うんだけど、さすが王国が誇る力自慢たちの”力”をカンストさせただけはある……オーガの群れもかくやという感じで掘り進んでいく皆さん。


 すかさず周りのサポートメンバーが土砂をどけ、木枠をハメてトンネルを補強していく。


 ……これ、この戦いが終わったら新しい観光名所になるかも……。


 僕の”力”をカンストさせたところで力仕事の役には立たないので、出番に備えて待機しながら、そんなことを考えていた。


 そこから30分間、王国の運命を賭けた土木工事?は、泥臭く進んでいくのだった。



 ***  ***


「ちっ……さすがにこのまま逃げ切らせてはくれないかぁ」


 大魔王が封印された高さ数十メートルの巨大なモノリスが鎮座する地下空間……ここに迫ってくる厄介者たちの気配を感じ、魔族レイラは鋭く舌打ちをする。


 モノリスに描かれた複雑な紋様は、すべてが紫色の光に包まれたように見える……が、正直言えばあと数日の期間が欲しい。


 現時点でも復活は出来るだろうが、不十分な復活となる可能性がある……だが、向こうには勇者パーティに加えアイテム精霊が5人、それに”XXヒール”を使うグラスがいる。


 正面から対決した場合、自分が勝てる確率は低い……覚悟を決める必要があるか。


 ふうっ……レイラは深く息を吐くと、全身に力を込める……!


 ブワアアアアアッッ!


 彼女の全身から湧きだした黒い霧が巨大なモノリスにまとわりつき、それに呼応するようにモノリスに描かれた紋様が強い光を放つ。


「くくっ……いいわぁ、この感じ……もうすぐ、お会いできますわね……」


 地下空間に荒れ狂う魔力の奔流……そのただ中でレイラは長く待ち望んだ望みがかなう……身体の奥底から溢れ出るような恍惚を感じていた。



 ***  ***


「……最後の一押し、行くぞ!」


「みんな、構えてくれ!」


「「「おおっ!!」」」


 ヒューバートさんの合図にみんなが呼応する。


 魔族レイラがいると思われる巨大な地下空間まであと岩盤一枚……最後の掘削を担当するヒューバートさんの周りで、勇者アロイスさんをはじめ冒険者たちが武器を構える。


 ごくり……。


 僕が喉を鳴らした瞬間、ヒューバートさんが持つ巨大なスコップが岩盤に振り下ろされ……。


 ズドオンッ……バラバラバラッ……


 岩盤が砕かれ、その先にある空間に繋がる。


 勇者アロイスさんを先頭に、その空間になだれ込む僕たち。


 ここは……なんて広い空間なんだ!?

 一瞬、そのスケールの大きさに我を忘れる。


 僕たちが穴を空けた壁から左右に数百メートル……天井までの高さは少なくとも50メートルはあるだろうか。


 無機質なグレーの石壁に覆われたその空間は、はるか向こうまで広がり……ここからでも見える巨大なモノリスがそびえ立っている。

 その表面には禍々しい紋様がびっしりと描かれ、怪しく紫色の光を放っている。


 ソイツの足元に奴はいた。


 闇色をした黒髪……同じく漆黒のローブで全身を包み、双眸だけが爛々と真っ赤に輝く陰気な女……この半年僕たちが追いかけてきた魔族レイラが両手を広げ、僕たちを誘うように立っている。


「くふぅ……アナタたち、まさか間に合うとは思わなかったわぁ……エナジーオーブ、まさかあのクソ女神がアナタを寄こすとはねぇ……!」


 忌々しそうに、だがわずかに懐かしそうにこちらを睨むレイラ。


「マジックオーブ……アイテム精霊の双璧と言われた貴方とこういう形で再会することになってしまい、とても残念です」


 レイラの言葉に、一歩歩み出て憐憫の視線を返すエナ。


 そう言えば、奴は元アイテム精霊だと彼女が言っていたな……レイラとエナ、ふたりの間には決して交わることが無い壁が存在する事を感じる……。


「でもぉ……アナタたちの奮闘もここまで。 すこし、遅かったわねぇ!」


 にやり……複雑な表情から一転、怪しく嗤うレイラ。



 ドドドドドドドドッ……!



「くっ、なんだっ!?」


 その瞬間、地面が激しく揺れる……これは、王都で発生している地震の比じゃないっ!


「きゃっ!?」


「ポゥ、大丈夫?」


 僕はバランスを崩したポゥを両手で支える。


「グラス……! レイラがっ!」


 パアアアアアッッ! ズドオンッ!


「ハハハハハハハッハハハッ! お待ちしておりました、大魔王様!」


 爆発的な魔力の奔流、まずいっ! まさか、もう復活するのか!?


「くそっ、まだ距離がある! 撃てる者は魔法を! グラス君、”XXヒール”をっ!」


 ヒューバートさんの声と同時にレイラに向かって走り出すアロイスさんはじめ戦士たち。


 僕は慌てて精神を集中させると最大出力で”XXヒール”を放つ!


 わずかにタイミングを遅らせて、シャロンさんたちから攻撃魔法が飛ぶ。


 僕の手のひらから放たれた七色の魔力の渦が、シャロンさんたちの爆炎呪文、雷撃呪文などの極大攻撃魔法を従え、一直線に魔族レイラに向かい……。


 ……次の瞬間、驚くべきことが起こった。


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