第13-1話 決戦前夜
「ちっ……エナジーオーブの奴……女神バレスタインの差し金ねぇ?」
大魔王様復活にむけて、闇の回復エネルギーが満ちるまであと10日余り。
元マジックオーブの精霊であった魔族レイラは、いら立ちを隠しきれずにいた。
地上の事には我関せず……気まぐれに寵愛を与えるだけの女神バレスタインが、切り札であるエナジーオーブの精霊をこれほど素早く派遣してくるとは予想外だった。
大魔王様も私も、もとは女神の一部であったもの……身内の不始末だけはちゃんとつけるという事か。
一か月ほど前にエナジーオーブの精霊が現れたことを感知したレイラは、使い魔を放ち、地上の事を探らせた。
奴は忌々しいグラスの家に転がり込むと、最初は何もしていないと思ったら……”お悩み相談室”なる、訳の分からない商売を始めた。
すると、地上の王都に蔓延していた焦り、諦めをはじめとする負のエネルギーが弱まり……闇の回復エネルギーの充填スピードが落ちた。
それどころか奴はグラスと作り出した”エナジーオーブ”の力を使い、ここへ向かうトンネルの掘削速度を一気に上げるという小癪な策に出た。
当初は余裕を持って逃げ切れるはずだったが……忌々しいのは、闇の回復エネルギーのコントロールのために自分がここを離れられないことだ。
”復活”を早める必要があるだろうか……レイラは決断を迫られていた。
*** ***
「ふふふ……エナジーオーブの力により、なんとか間に合いそうです!!」
鼻息も荒く、ぐっとこぶしを握るエナ。
「これほど潤沢にエナジーオーブを生成できるとは……さすがですね、グラス!!」
エナは褒めてくれるが、毎日毎日”肩車合体”させられる僕の身にもなってほしい。
彼女のムチムチ太ももの感触が肩と両頬に残り……最近は関節技を極められる夢を見ることも……ううっ、僕はドMじゃなかったはずなのに……。
「むぅ~、エナさんの太もも圧(?)にグラスがデレデレするのが乙女として複雑だよぉ~」
恥ずかしくて頬を染めた僕に、不埒な気配を感じ取ったのか、口をとがらせるポゥ。
「ち、違うんだポゥ! 僕が大好きなのはポゥの太ももだけでっ!」
「はううっ……恥ずかしいよグラス、今度挟んであげるねっ……♪」
「こんな雑なフォローでイケるのか……これだからバカップルは……」
僕の苦し紛れの言い訳に嬉しそうに頬を染めるポゥ……僕たちのやり取りを聞いてエルがあきれている。
「なにを恥ずかしいことを言っているのです! 挟むのはサンドウィッチだけにしておきなさい!! もうすぐ決戦なのですよ!!」
相変わらずどこかずれたツッコミを入れるエナだが、”エナジーオーブ”を使用し、力と素早さをカンスト、魔族レイラが待つ地下3500メートルへトンネルを爆速で掘り進めるという、脳筋で力技な対策はしかし、十分な成果を上げようとしていた。
”エナさん全力エナジー相談室”で彼女が相談に乗ることで、勇気づけられた人々が有志としてトンネル掘り部隊に参加、さらに掘削は加速し……。
明日には最後の一押しで貫通できる位置まで掘り進んでいた。
辺りに満ちる闇の回復エネルギーも強くなってきたので、一般人の参加者には退避してもらい、明日は勇者アロイスさんたちと高レベルの冒険者パーティだけで掘削。
支援部隊として僕たちもスタンバイし、一気に魔族レイラを制圧する手はずとなっていた。
説明が遅くなったがここは僕の家のリビング。
テーブルの上には色とりどりの料理が並び……明日の決戦に備えて、僕たちは景気づけを兼ねた決起集会を開催していた。
「……ごめんね、グラス……パイナップルが売り切れで、パインサラダを作れなかったよぅ」
グラスの好物を作るよ!
彼女はそう意気込んでくれたのだが、ここ最近の地震や回復アイテムの品不足により王国内の物流が滞っており、パイナップルが買えなかったのだ。
「きにしないで、ポゥ。 この戦いが終わったらすぐに食べれるようになるよ!」
「うん……明日の戦いは心配だけど、グラスもみんなもいるもんね!」
「ふふ、もちろんだよ」
大丈夫、と彼女の頭を撫でる僕。
「うふふ……最近は”立てれば立てるほど”回避できると言うからね~さすがはグラスくんとポゥちゃん」
「にしし、そこに反応するとはヴァンも古い……めぎゅっ」
なにか余計なことを言ったのだろうか? ヴァンの裏拳に沈むエル。
”立てる”とか、”古い”とか……何のことだろうか?
「ほ~っほっほっ!」
「心配することないですわ! わたくしのエリクサーはたっぷりありますし、皆さんの能力を強化する新作アロマオイルもあります」
「なにより、世界一のアロマショップを作る予定のわたくしが、こんな所で立ち止まるわけにはいきませんわッ!」
「わたくし、この戦いが終わったら2号店をオープンするんですの!」
「なんと、大貴族レヴァン家が出資してくださることになりましたわ!!
これで……わたくしは、名目ともに貴族っぽいオンナになれます!!」
ぐぐっ、と握りこぶしを突き上げ、夢を語るリーゼだが、片手に好物の焼きトウモロコシを3本も持ったその姿からは庶民臭しかしない。
「いたた……ヴァンの拳、効いたぜぇ……それにしても、みんなフラグの構築が凄いな……」
鼻を真っ赤にして倒れ込んでいたエルが、復活するなり良く分からないことを言う。
”フラグ”ってなに? 新しい回復アイテムかな?
「えへへ、グラスぅ……わたしから景気づけにプレゼントがあるんだけど……地下迷宮は冷えるらしいから……わたし、手編みのマフラーを用意したんだ。
ちょっと不格好だけど……受け取ってもらえる?」
「!! ありがとうポゥ! 大事にするよ!!」
おお! 彼女からのサプライズプレゼント!
彼女の髪色と同じ朱色の毛糸で編まれたマフラーは、首に巻くとほんのりと暖かく……身体じゅうにエネルギーが満ちてくるのを感じる。
「……おぉ……すげぇ……さらにもう一本構築ですか」
僕たちのラブラブシーンになぜか目を見開き驚愕のポーズをとるエル。
「フラグ管理フラグ管理フラグ管理……キーアイテムキーアイテム……」
エナが虚空を見つめて何かつぶやいている。
??
良く分からないけど……僕たちの決起集会は、楽しくにぎやかに続いたのでした。




