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第12-5話 エナジーオーブ、本領発揮!

 

「ふう……レア回復アイテムも揃ってきたな……」


 ”夜のお勤め”(意味深だけど意味深じゃない)を終えて、色々かいた汗をお風呂で流した僕は、倉庫に並ぶ回復アイテムの在庫を確認していた。


 ポゥやエル、ヴァンさんやリーゼは”アイテム生成”の後は眠くなるらしく、もう自室で夢の中。


「グランポーションが52個に、グランエーテルが40個、エリクサーもこれで20個になったし、万能薬は100個以上ある。 なにより……」


 僕は、ひときわ大きく、ひときわ神々しい輝きを放つオーブに目をやる。


「エナジーオーブが、これで10個目!」


 ここにあるだけで、時価総額で言ったら数億センドはするかもしれない……徐々に迫ってくる魔族レイラと”魔王”との決戦に備え、作り溜めたレア回復アイテム群……。

 僕たちの努力?の成果がここに並んでいた。


「……努力といいつつ、貴方たちはキャッキャウフフしてるだけじゃないですか……」


 やや疲れた声とともに現れたのは、エナジーオーブの精霊であるエナ。


 僕とポゥたちの策略で、やけに”力技”なお悩み相談室を営業することになった彼女は、店の後片付けを終え、僕たちの家に戻ってきたところだ。


「うぐっ……健康男子として、あのドキドキの数々を耐えるのはなかなかツラいんだよ……最近夢に見るし」


「それに、キミ達の回復エネルギーのために、大量のご飯を作るのも、なかなか大変なんだってば」


 エナの手厳しいツッコミに、思わず苦しい反論を試みる僕。


 ただ、ご飯を作るのが大変というのは本当だ。


 色々試した結果、なぜかデリバリーの食事より僕の手料理の方が彼女たちの回復エネルギーに対して効果が高いことが判明し、最近の僕は自分の店に出るより料理をしている時間の方がはるかに長いくらいだ。


「むぐっ……グラス、貴方の食事は美味しいですし、私たちにとって素晴らしいエネルギー源になることは認めましょう。 しかし……」


 新作チョコレートケーキの甘さを思い出したのか、思わずスイーツの顔になりかけるエナだが……その横顔が曇る。


「今のペースでは……間に合いません。

 ”魔王”が復活するまで、現時点での闇の回復エネルギーの集まり具合から推測するとあと1か月弱……地下迷宮の探索と掘削ですが、レイラがいる場所まではどんなに急いでもあと3か月はかかるでしょう……」


 その端正な顔は苦悩にゆがみ、ぎゅっと服の袖を握るエナ。

 いら立ちを隠すように、ぐっと唇をかみしめる。


「皆さんがんばってくれていますが……思い切った手段を使う必要があるでしょう」


 なにかを決意した表情で顔を上げるエナ。


 ごくり……至高のアイテム精霊である、エナの”思い切った手段”とは……いったいどんな凄いことができるのだろうか。


 思わず喉を鳴らす僕。


「や、やっぱりエナジーオーブの力で、勇者アロイスさんのパーティや他の高位冒険者たちを、一気に魔族レイラのもとに転移させちゃうとか?」


「エナってオーブ形態でも転移できるんだよね?」


 ここは反則気味の手段、エナの究極転移魔法だろうか?


 シャロンさんの話では、レイラは魔法的な防壁を張っているらしく、シャロンさんが使えるSSランクの転移魔法でも直接の転移は無理という事だったが……。


「……なにをいってるのです、グラス? 私が転移魔法など使えるわけがないでしょう?」


「私はエナジーオーブの精霊、エナジーイズパワー、パワーイズエナジーです!」


 期待を込めた僕の問いを、びしりと右足を前に出して頭は左斜め30度……無駄にかっこいいポーズにカッコいい声で一刀両断するエナ。


「え? それじゃどうして僕の家の屋根裏に……」


「あんなの女神バレスタインにケツを蹴り飛ばされたからに決まっていますでしょう?」


 女神っていったい……わずかな希望も絶たれ、がっくりと肩を落とす僕。


「なにを落胆しているのです! グラス!

 決戦用のエナジーオーブを1つ使いますよ!

 明日、迷宮探索チームの最前線へ向かいましょう!」


「……へっ?」


 意気揚々とガッツポーズを決めるエナに、僕は思わず間抜けな声をあげたのだった。



 ***  ***


「あれ、どうしたんだいグラス君たち? こんな所まで来て」


 僕たちの姿を見て、勇者アロイスさんが不思議そうな表情をする。


 翌日、僕たち一行はシャロンさんの転移魔法を使い、迷宮探索の最奥、レイラのいる地下3500メートルに向けて、トンネルを掘っている場所に来ていた。


 既に探索済みの場所へなら、シャロンさんが魔法マーカーを設置してくれているので、転移魔法で移動できるのだ。


「ふふ、グラスくんとアイテム精霊ちゃん達、なにか秘策があるらしいわよ?」


 勇者パーティの魔法使いであるシャロンさんが悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「……初めまして。 貴方が勇者アロイスですね?

 私はエナジーオーブの精霊、エナと申します。

 早速ですが、私はグラスの力を使い、エナジーオーブを作れますので……これを使って……」


 僕の背後からすっと姿を現したエナは、持ち前の話の早さを生かし、道具袋から1つのエナジーオーブを取り出す。


「あ、ああ。 グラス君から話は聞いているけど……エナジーオーブ、確かパーティ全員のステータスを大幅に向上させるアイテムだよね?」


「敵と戦うわけじゃないここで、どう使うんだい?」


 さくさくと話を進めるエナに困惑気味のアロイスさん。


「エナジーオーブは、確かに全ステータスを向上させるアイテムですが……私がコントロールすることで、特定のステータスに絞りカンスト値まで持っていくことができるのです!」


 カンスト値とか……やけに即物的な表現をするエナ。


 と、いうことは?


「ここにいる全員の”力”と”素早さ”をカンスト値まで持っていけば、トンネルを今までの数倍のスピードで掘ることができるでしょう!!」


「「「「おおおっ~!?」」」」


 思わず驚きの声を上げる一同。


 ……って、やっぱり力技かよ!


「さっそく始めましょう! レイラと魔王との決戦を考えると、エナジーオーブは残しておかなくてはなりませんが……大丈夫! グラスと”合体”しまくって補充しますから!」


「えええええっ!? ”合体”!? ポゥちゃんとじゃなくてエナちゃんとっ!?

 ウワキはいけないよ、グラスくん!!」


「違います! 誤解ですっ!」


 話は早いが説明不足なエナの話に、豪快に勘違いするシャロンさんと言い訳をする僕。


 ともかく、エナジーオーブを使う事でトンネルの掘削は一気に捗るのだった。


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