第11-2話 敵の居場所判明! トンネルを掘る?
「闇の回復エネルギーの発生源は……王都の地下3500メートル、そこに大きな空間がありますわ。
皆様がおっしゃる魔族レイラとやらも、そこにいると推測されます」
”人体消失事件”の現場にリーゼの作った”エリクサーの余剰薬液”を仕込んで調査を続けること数週間、僕たちはようやく事件の黒幕である魔族レイラが潜伏していると思われる場所の特定に成功していた。
「リーゼ、確かなの?」
「もちろんですわ、ポゥ! わたくしの調査に間違いはありません!」
自信満々に胸を張るリーゼ。
エリクサーの精霊である彼女かここまで言うんだ、間違いないのだろう、たぶん。
「ありがとう、エリクサーのお嬢さん。
しかし、王都の地下3500メートルか……」
「場所が分かったんだから、さっそく仕掛けませんか? ……って、何か気になることがあるんですか、ヒューバートさん?」
リーゼの調査結果を受けて、積極策を提案しようとした僕だったが、浮かない表情をしているヒューバートさんが気になる。
「……ああ、確かに王都の地下には巨大な太古の地下迷宮が存在し、一部はワイン倉庫に使われたりしているんだが……。
大した宝物やアイテムが見つからなかったこともあり、探索はほとんどされておらず……王国やギルドでも把握しているのは地下数階層までなんだ」
「それが、地下3500メートルともなると……そもそも通路が繋がっているのかどうかも分からないな……」
「当面探索を続け、場合によっては穴を掘っていくしかないかもしれないが……何か月かかる事か」
なるほど、魔族レイラの陰謀が成就するまでどれくらいの猶予があるのかは分からないが、間に合わない可能性もあるのか……。
「どちらにしろ、王国政府にも掛け合って、冒険者ギルドの総力を挙げて探索を続けるしかないでしょうね」
そう言うのは勇者アロイスさんだ。
「そうだな、ある程度の方向はリーゼ君の調査で分かったことだし……」
「という事でグラス君、迷宮内で追加調査が必要になった時や、あらたな”人体消失現象”、”カオスヒールの夜”が起きた時には協力を依頼すると思うが……当面、地下迷宮の探索は私たちに任せ、君達には通常の生活を送ってもらいたい」
「アイテムもたくさん必要になるだろうからね」
僕の肩を優しくたたき、ウインクしてくれるヒューバートさん。
確かに、迷宮探索に関して僕たちは素人だ……ここはヒューバートさんたちに任せるしかない。
こうして、王国と冒険者ギルドの総力を挙げた地下迷宮の探索が開始された。
*** ***
「しっかし、数百人の冒険者が探索に加わっているとはいえ、地下3500メートルだろ?
通常の迷宮で計算すると400階層以上……そこまでたどり着けるかぁ?」
”快復ストア”の営業を終え、リビングでティータイムを楽しむ僕たち。
エルも不安に思っているのか、いつものように足先をワキワキさせていない。
「う~っ、そこは勇者さんたちを信じるしかないよぉ。
たまにわたしたちも手伝ってるし……」
「でもよぉ、いよいよ通路が繋がってなくて穴を掘り始めたんだろぉ?
まだ地下50階層くらいらしいし、厳しいんじゃね?」
「ううっ……」
ポゥも食欲がないのか、まだ10個しかケーキが進んでいない。
日常生活を送りつつも、みんな漠然として不安を抱えているようだ。
「そういえばポゥ、回復アイテムの精霊って、他にいないの? なんかすごいアイテムの子とかさ」
エリクサーの精霊までいたんだ、その上も……わずかな期待と共に僕はポゥに確認する。
「う~ん、わたしもエリクサーの精霊までしか知らないなぁ……大昔は”エナジーオーブ”の精霊がいたって言う伝説があるけど……」
「おいおい、ポゥ……それこそ眉唾だろ? 大体、”エナジーオーブ”って実際に現物は一つもこの世界で見つかったことが無いらしいし」
”エナジーオーブ”……パーティメンバーの全能力を数倍にしてくれるという伝説の回復……というか強化アイテムだ。
神話レベルの伝承の中に、たまに出て来るものの、エルの言うとおり、実際に見つかったことは一度もないらしく……神々のアイテムと呼ばれている。
「とりあえず、探索者向けのアイテムを作りまくっとくしかないかぁ」
陽気な昼下がり、晴れ渡る青空とは対照的に、僕たちの心の中はどんよりと晴れないままだった。




