第10-4話 王都に地下から迫る危機
「いや~、酔っぱらったなぁ~」
深夜、王都繁華街……宴会を終えた一人の男が千鳥足で通りを歩く。
人が増える週末、周囲には同じような連中がふらふらと歩いている。
うっ……少し飲みすぎたかもしれない……男は路地に入り座り込む。
少し休憩していこう……その時、男が座り込んだ路地の排水溝から、もわっと黒い霧が立ち上り……。
ぱしゅん
軽い破裂音がした後に、忽然と男の姿は掻き消えていた。
パサリと男の衣服のみが地面に落ちる。
*** ***
「今月に入ってこれで20人目……参ったな……いったい何が起きている?」
冒険者ギルドに寄せられた被害報告に、勇者パーティの回復術師ヒューバートは頭を抱えていた。
王国政府より正式に勇者パーティに依頼された魔族レイラの追跡と、”カオスヒールの夜”と呼ばれる回復系アイテムや防御魔法の反転現象への対処。
これに関しては、協力者であるグラスと、彼のもとに集うアイテム精霊たちと一緒に調査を進めていたが、特に成果を上げられずにいた。
そこに発生したのが王都郊外の温泉で観測された、温泉の変色と入浴客の中毒事件……それと同時に王都の各地で発生しだした、”人体の消失事件”……。
後手後手に回る事件への対処に、勇者パーティの面々も困り果てていた。
「ヒューバートさん、目撃者がいた事件では、やはり被害者が”黒い霧”に包まれた後、消失したらしいですね」
「やはりポゥ君誘拐事件の時に魔族レイラが使っていたヤツか? それにしては効果が違うようだが……」
「う~ん、ポゥちゃんの時も温泉の変色の時もそうだけど、やっぱり闇の魔法力が観測されてるんだよね……」
「”カオスヒールの夜”は、回復系アイテムや防御魔法の反転現象だけじゃないのかも」
「やはりグラス君たちにも協力をお願いするしかないか……私から話をしておこう」
煮詰まった勇者たちは、グラスに協力を依頼すべく、グラスたちの店に足を運ぶのだった。
*** ***
「これは……闇の回復エネルギーですわね」
「わかるの、リーゼ?」
先ほどヒューバートさんが僕の店に現れ、王都各地で発生している”人体消失事件”に関する調査について、協力を依頼された。
この事件ではポゥ誘拐事件の時と同じく闇の魔法力が観測されている事から、おそらく魔族レイラが関わっていると思われるが、奴の居場所がどうしてもわからない。
そこで、僕とアイテムの精霊であるポゥたちに協力をお願いしたいとのことだった。
もちろん断る理由はないので、ポゥたちを連れて一番最近事件が起きた現場にやってきた僕たち。
事件発生からもう半日、ポゥやエル、ヴァンさんが言うには魔力の残り香?というのだろうか。
彼女たちでもそれを追うのは難しいとのことだったが、そこでドヤ顔で手をあげたのが、究極のアイテム精霊と自称するリーゼだった。
「あったりまえですわ! エリクサーの化身である私に不可能はありませんわ」
「そのレイラとか言う輩の使う”カオスヒールの夜”……これは簡単に言えばマイナスの回復エネルギー……闇の回復エネルギーを使った術と推測されますわ」
「その”黒い霧”が闇の回復エネルギーが実体化したもの……おそらくそいつの強度によって対象に及ぼす影響が変わるのですわね」
「それじゃ、人体を消失させるほど強力な効果って……」
僕のつぶやきに、深刻そうな顔をしてリーゼが頷く。
「そうですわね……その魔族の力が相当高まっている証拠でしょう」
「ほえぇ~」「にし、タダのちょろ精霊じゃなかったか」「うふふ、さすがね~」
「ちょっ! ずっと究極のアイテム精霊だと言っているでしょう! このくらい昼飯前ですわ!!」
ポゥ達にからかわれ、きゃいきゃい騒いでいる彼女たちを横目に、僕はヒューバートさんに話しかける。
「リーゼはああいってますが、確かですかね?」
「彼女はエリクサーの精霊か……確かに彼女からはけた外れの力を感じる……彼女が言うなら間違いないだろう」
おお、ヒューバートさんがこうまでいうとは……お菓子をあげたら付いてくるくらいちょろいのに……オモラシストなのに……。
ひと?は見た目によらないなぁ……と感心する僕なのでした。
「はぁはぁ……さ、最後に仕上げですわ……この排水溝ににわたくしエリクサーの余剰薬液を垂らせば……」
ぱぁぁぁ……
「コイツは闇の回復エネルギーと激しく反応しますので……ある程度発生源をトレースすることも可能ですわっ!」
「「「「おお~っ」」」」
あの副産物にそんな利用法があったとは……下水道に苔が生えることは目をつぶってもらうとして、これである程度レイラの居場所がわかるかもしれない。
「よっし、魔族女の追跡はこれでいいとして……グラス君、もう少しいいかな?」
「”人体消失事件”の被害者のうち、周りの人が気付いたり、助かった人がいるんだ……治療にグラス君のXXヒールが役に立つ可能性がから、手伝ってもらえないかな?」
「!! もちろんですっ!」
シャロンさんの申し出に、回復術師として頷いた僕はシャロンさんたちと一緒に被害者のもとへ向かうのだった。




