第10-3話 エリクサーの精霊リーゼ、アロマショップ始めます!
「いいですわね! 素晴らしいですわグラス!」
リーゼのアロマショップの開店を明日に控え、僕たちは内装工事の終わった彼女の店を訪れていた。
「ふわぁ、いい匂い……これがアロマオイルかぁ」
「ねっ、リーゼ……こっ、恋人同士のムードを作るにはどのオイルがおすすめなの?」
「あらポゥ……そうね、この”グレープフルーツオイル”とかどうですの?」
「適度な刺激で、色々”元気”にしてくれるらしいですわ」
「ごくっ……いろいろ、げんきに……10個もらえる?」
「まいどありですわ……アナタも大変ですわね」
? ポゥとリーゼが何かひそひそ話をしている……なにかあやしいクスリの取引現場のようになっているが大丈夫だろうか?
「にしし……この”オイル”をアタシの足裏に塗ってグラスをマッサージすればもっと……ぐふふ」
「うふふ……万能薬にさりげなくオイルを混ぜてグラスくんを……」
な、何やら僕のお尻と後頭部に視線を感じる……は、早く用事を済ませて帰ろう。
謎の悪寒にブルりと身体を震わせた僕は、リーゼへの説明を再開する。
「えっと……ここが店舗部分。 おつりは僕の”快復ストア”の方にまとめておいてるから、足りなくなったら取りに来てね」
「オイルの調合場は店のすぐ裏にあるから、材料含め、足りなくなったら僕に言ってね」
「内装はいったん完成だけど……もしこんな飾りつけをしたいとかあったら何でも言って」
「予算内で考慮します」
「ありがとうグラス。 いまのところ大丈夫ですわ……できれば豪華なシャンデリアをピンクに光らせたいところですけれど……」
そういうとリーゼは嬉しそうに自分のお店の店内を見渡す。
壁はすべて白で統一され、床はシックな黒のフローリング。
ともる照明はすべて魔法ロウソクを使用した間接照明。
”わくわく商店街”の内装屋、ジョアンナさん渾身のハイセンスな一作だ。
いくらリーゼの希望とはいえ、ピンクのシャンデリアはちょっと……バックヤードすぐにある大きなお風呂と合わせて、まるで変なお店に見えてしまう……。
「え~っ!? せっかくこんなにおしゃれなのに、そんなの飾ったら台無しだよぅ! ダメ、ピンクのシャンデリアは禁止です!」
「にしっ、ポゥにさんせ~。 究極のアイテム精霊と言うくせに、センスは壊滅してんのな」
「き~っ!? この貴族社会最先端のハイセンスっぷりがお分かりになりませんの? そもそも……」
よかった、ポゥとエルのセンスは正常だ……どこの世界線の貴族社会の最先端かは分からないが、腕をぶんぶんを振りながら力説するリーゼ。
いつも通りの騒がしい店内となってしまった。
でも、楽しいな……王都に迫る魔族の陰謀の事は一時忘れ、グラスは穏やかな時間を過ごしていた。
*** ***
「ふふ、お嬢様、当ショップをお選びいただきありがとうございます……」
「お嬢様は自分に自信がないご様子……それならこちらの”アンジェリカ・シード”はいかがですか?」
「こちら、風の魔力も織り込んでありますので、力強く繊細に……お嬢様の社交界デビューを後押しさせていただきますわ」
「……ふあ、素晴らしい……ジョゼフ、リーゼ様と定期購入の契約を、私……自信がわいてまいりました」
「かしこまりました、お嬢様。 それではリーゼ様、よろしくお願いいたします」
「ありがとうございます。 当ショップは、精一杯お嬢様のサポートをさせていただきますわ」
「……はえ~」
「……ほえ~」
晴天に恵まれた”リーゼのアロマショップ”開店当日、どうなる事かと心配した僕とポゥが見たのは、
訪れた貴族のお嬢様に完ぺきな接客を披露するリーゼの姿だった。
「接客中に”おもらし”して騒動にならないか心配してたけど……大丈夫そうだね」
「少しヒドイよグラス……いくらリーゼがチョロインでもさすがにそんな粗相は……」
ばしゃーん!
ポゥがそう言った瞬間、お店の奥から水音が響く……うまく店内から見えないようにお風呂場で”余剰薬液”を処理したようだが……。
「……えへへ、やっぱり大変そうだから、わたし手伝って来るねっ!」
アイテムパワーが満ちすぎて”こぼしてしまった”リーゼを見かねて店の手伝いに走るポゥ。
ああ、やっぱポゥはいい子だなぁ……。
リーゼのアロマショップは大成功!
上流階級の淑女たちをはじめ、王都の女性陣の間で大評判になるのだった。
*** ***
「これは……温泉が変色している?」
「……いや、アロイス……温泉の中に闇の魔法力が混じっているぞ……これが原因に違いない」
「あ~ん、私オキニの露天風呂が~!」
ここは王都郊外の温泉街……先日グラスたちも訪れたここで発生した観光客の急性中毒事件……その調査に来たアロイスたちが見たのは、変わり果てた温泉の姿だった。
「ここの温泉は王都の大深度地下からくみ上げているはず……地下で一体何が起こっている?」
ヒューバートの問いに答えられる者はいない……王都に新たな異変が迫ろうとしていた。




