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第10-1話 初級術師とエリクサーちゃん

 

「ほーっほっほっほっ! それではグラス、始めましょうか!」


「究極の回復アイテムであるこのわたくしとあなたで、神聖なエリクサー生成活動を!」


「……えーと、とりあえずそのバケツはなに?」


「「「…………」」」


 ここはいつも通りな僕の家のリビング。


 究極のアイテム精霊(本人談)であるエリクサーちゃんを実体化させた僕たちは、勇者様のパーティと合流し、王都まで戻ってきた。


 エリクサーの生成には時間がかるというので、いちど僕たちのお店に戻ってきたのだが……。


 興味津々に見つめるポゥ、エル、ヴァンの視線の先には大量の”バケツ”……。


 ドキドキイベントの気配が微塵もしないのはともかく、この異様な状況に、妙な緊張感がリビングに漂っていた。


「むむっ、わたくしにバケツの事を聞くなんて……ハレンチですわよグラス!」


 えぇ……あいにくバケツがハレンチ扱いされる世界線に住んでるつもりはないんだけど……。


 ただ、困惑していても何も始まらない……僕は覚悟を決めるとリーゼ(さっき決めたエリクサーちゃんの名前だ)に話しかける。


「よし、リーゼ……僕はいったい何したらいいの?」


「ふふん! それではまず、わたくしを”くすぐって”いただけますかしら?」


「「「「…………はぁ?」」」」


 自信満々にドヤ顔を決める彼女から出た意味不明な言葉に、僕たち4人の困惑の声が上がったのでした。



 ***  ***


 彼女の説明によるとこういう事らしい。


 ”エリクサーの生成”には、限界まで我慢した後、爆発のように激しい感情の奔流が必要……そのためには”くすぐり”が最適らしいが……。



「…………」


 すっ……


 なにこのシチュエーション……別の意味でドキドキしながらも、これもアイテム生成のため……感情を殺してリーゼの背後に回る僕。


 くすぐるなら、定番のここだろうか……僕は彼女のジャケットの下から手を入れ、わき腹に触れる。


 ぷにっ……こしょこしょこしょ……


 うっ……薄いドレス越しにリーゼの柔らかなわき腹が……ううっ、変な気持ちになるよ。


「ぷっ……うっ……くっ……いいですわグラス……くくっ……できればもっと刺激をっ」


 ふわわっ……僕とリーゼの間にほのから黄金色の光が生まれる……。


 もっとと言われても……僕の手は二本しかないし……。


 ふと、目の前でぷるぷる揺れる彼女の耳を舐めてはどうかなという発想が思い浮かんだけど……明らかにセクハラであり、ポゥ達に怒られそうだったので我慢する。



 ……そうだ、彼女たちに手伝ってもらえば……!


「……ポゥ、エル、ヴァンさん! 手伝って!」


「……えっ、ちょっ、まっ……?」


 もっと激しくと言ったくせに、なぜか抗議するリーゼ。


「はうぅ……仕方ないなぁ……ふぅぅ」


「うひゃぁ!」


 妙に色っぽい仕草でリーゼの耳に息を吹きかけるポゥ。


「にしし……靴を脱がせて……足裏攻撃だぁ!」


「ひっ……ふひひひひっ!?」


 足技が得意な彼女らしく、リーゼの靴を脱がせると、足裏をくすぐるエル。


「うふふ~、リーゼちゃん、これはどぉ?」


「うあっ……そっ、そこわっ!?」


 とどめとばかりにさわさわと首筋をくすぐるヴァンさん。


「ふへっ……ひひひひひっ……よ、四人がかりは反則ですわよっ……きゃあああああっっ!?」


 限界まで高まったくすぐりパワー?に黄金色の光のスパークとリーゼの悲鳴が重なって……。



 ばしゃん! ころん……。



 光の中から転がり出る、8角形のクリスタルの瓶……黄金の回復液が封入されたそれは……エリクサーだ!


 同時に、大量の黄色い液体が発生し、バケツの中に受け止められる。



「ふぅ……できましたわ! これがエリクサーですわっ!!」


 笑いを収めると、口の端に垂れたヨダレをぬぐいながらドヤ顔ポーズを決めるリーゼ。


 ……いやまあエリクサーが出来るのは分かったんだけど、僕がツッコみたいのはバケツに生まれた()()()()()の事で……。



「うえっ!? きったね、リーゼ、これまさかションベ……」


 めっちゃ気になったけどツッコめなかった点に大上段から切り込むエル……いいぞエル!

 きっちりツッコむんだ!


「しゃら~~~~っぷ!! 何お下品なことを言いますの!?」


「これはエリクサーの回復液を精製した後の()()()……そんなお下品な物体ではありませんわ!!」


「害はありませんし、むしろ植物に掛ければ成長の促進も……」


「……よし! わたし下水に流してくるね!」


「ちょっとポゥ、わたくしの話を聞いていましたの!?」


 いくら大丈夫と聞かされても、見た目の色がアレである……笑顔でバケツを排水溝に放り込むポゥにきゃいきゃいと抗議するリーゼ。


 やれやれ……父さん母さん……僕たちの家にまた色々限界ギリギリな同居人が増えたようです。



 数週間後、地下の下水道になぜか大量に発生した苔を僕たちは掃除する羽目になるのだが、それはまた別の話……。


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