第9-4話 【大臣転落サイド】元大臣、悪あがきも空しく終了する
元王国大臣……そんな肩書はスラムの裏社会では何の意味も持たない……。
みじめな逃亡生活を送るバルバスは、そのことを改めて痛感していた。
軍物資の着服と横流しおよび、”アイテムの精霊拉致作戦”の指示を行ったとして保安局に告発され、とっさの判断でマジックアイテムを利用し自宅から逃亡したバルバスであったが、王都の出入り口はすべて保安局の奴らが網を張っており、仕方なく王都のスラムに逃げ込んだのが現状だ。
「くそっ……なんでこんな廃屋を借りるのに20万センドも取られねばならん……!」
忌々しげに自らのセーフハウスを見回すバルバス……床は所々で腐り落ち、壁には穴が開いている……建物の換気も悪いのか、どこからか下水の臭いが漂ってくる。
逃亡する際、50万センドほどの資金は持ってきたが、逃亡先のセーフハウスを確保しようと非合法組織に接触したところ相手にすぐ足元を見られ……上流階級で好き勝手に振舞ってきた世間知らずのバルバスはいいようにぼったくられていた。
「…………」
盾役として、また裏社会に顔が効くのではと期待して連れて来たルードは抜け殻のようになっており、バルバスの指示通りには動くものの、今のところなんの役にも立っていない。
「くそっ……なんとか私の隠し口座の資金を引き出せれば……」
今頃、表の資産は差し押さえられているだろうが、別名義で作った隠し口座……そいつを使えば金にモノを言わせて王都外へ逃亡することも可能だろう……。
どうやってこのルードを銀行に送り込むか……バルバスが思案していると、窓の外が騒がしくなる……聞き耳を立てると、保安局の追手のようだ……。
「ちっ……またか、なぜここがわかる……!」
バルバスはレイラが残した”筒”……”自由転移”の機能を持つマジックアイテムを握りしめると、廃屋から転移し……別の場所へ逃亡した。
*** ***
「くふふ……本当にバルバスっておバカさんねぇ~」
ここは王都の大深度地下にある太古の遺跡。
彼女は真の目的である魔王復活の準備を進めながら、暇つぶしにバルバスの逃亡劇を鑑賞していた。
ワザとバルバスの私室に置いてきた”転移の筒”……これには細工がしてあり、使用者の状況をモニターすることが出来るのだ。
バルバスたちはセーフハウスに迫った追手からうまく逃げたようだが……新たな潜伏先を確保する為にまた非合法組織に接触している……。
彼は気付かないのだろうか……非合法組織は彼の資金を吸い取るために、保安局に彼の逃亡先の情報を流していることを……そろそろ手持ちの資金が尽きるころだ。
「このふたりなら、”消えて”も問題なさそうねぇ~」
”魔王様”の準備が整うまでは、まだしばし時間がかかる……まだ騒ぎになりすぎないように……力を集めますか。
しばしの休息時間をレイラは楽しんでいた。
*** ***
「なんだここは……いよいよタダの豚箱ではないか……」
保安局の追手から逃げ、非合法組織に新たなセーフハウスの斡旋を頼んだのだが……15万センドも取られた上に場所はスラムの片隅の地下……。
下水とゴミが混在するゴミ捨て場の中にある金属製のコンテナ……確かにこんな所に潜伏しているとは思われないだろうが……元大臣である私がこんな所で生活するなど……!
バルバスの憤激は最高潮に達していた。
「くそっ、くそっ! なんでこうなった!」
「そもそもあの”アイテムの精霊拉致作戦”の命令書……なぜそんなものが流出したのだ……告発したのは勇者と聞く……勇者と仲が良く、パーティにも参加したと言われる店主グラス……」
「…………ふふふ、そうか……奴が裏で糸を引いているのだな……そもそもあ奴が回復アイテムを王宮に納入することを認めなければ私の不正がバレることも無かった……」
「すべて奴のせいだ……!」
「そうだ……奴が囲っている”アイテムの精霊”を手に入れられれば……もう一度……」
グラスから見ればとばっちりでしかないのだが、妄執に取りつかれたバルバスはルードに指示を出し、陰謀を実施しようとする。
もわぁ……
その時、彼らの足元に”黒い霧”が地面から湧きだすように出現し、彼らにまとわりつく……。
「ん……? なんだこれは……くあ、意識が薄れて……」
ぱしゅん……!
軽い炸裂音がした後、小汚いコンテナの中にいたはずのふたりの姿は忽然と消えていた。




