第9-1話 エルとヴァンのとある暇な午後
「ねぇねぇヴァン~、あのふたり、どこまで”進んだ”か知ってる?」
「うふふ~、このあいだのデートの後、決意したグラスくんがポゥちゃんを”休憩所”に連れこんでたけど~」
「うおお、マジかっ! んでんで、その後は!?」
「いざ! と服を脱ごうとしたふたりだけど、ドキドキ回復パワーが限界突破して、ポーションに埋まってたわ~」
「がくっ……なんであのふたりはこう、ラブイベントが締まらないかなぁ」
現在時刻は午後3時……ここはヴァンのカフェレストラン”プレジール”2階のオープンスペース。
想定外の来客で、昼営業で食材の切れたプレジールの営業を終了すると、エルとヴァンのふたりは優雅にティータイムを楽しんでいた。
最初はまっとうに王都の最新ファッションについて女子トークを繰り広げていた彼女たちだが、すぐに話題は同居人で仲間のラブラブカップル、グラスとポゥのことになり……。
ふたりがどこまで”ラブラブイベントを進めたか”で盛り上がっていたのだ……。
「……ふぅ、あのふたり……ドキドキをすぐ表に出すからポーションが大量生成されるんだって」
「にしし……アタシの足テクみたいに、溜めて、もっと溜めてから出せば良いハイエーテルになるのに……」
履いていたローファーを脱いであらわにした素足をワキワキと動かすエル。
最近、彼女のハイエーテル作成術は、熟練の域に達していた。
「そうね~……万能薬は1つ当たりの所要回復エネルギーが多いから、もともと溜めないと作れないけど……ふたりがもっと溜めることを覚えるのは大事だわ~特にグラスくんの方が」
「だよねっ!」
「にしし、という事でちょっと捕まえてくる!」
ひゅんっ!
風のように席を立つエル。
……1分後
「はいっ! グラスおまちぃ!!」
……グラスです。
いきなり飛び込んできたエルに”切り札”を使われ、ピヨらされた僕は、ロープで縛られると一瞬で拉致され、ここに連れてこられました。
えーと、エルとヴァンさんの目が据わってるんですが……。
「うふふ……グラスくん、ポゥちゃんとのラブラブイベントがあまり進まなくてお悩みね……大丈夫、私たちの作戦があれば、恋のABCを上ることも簡単……」
「ぷっ、ヴァン……表現が古……ふぎゅっ!」
不用意な一言を言ったエルがヴァンさんの裏拳に沈む……こ、怖い……。
「ふふふ……すぐポーションが出ちゃうのは、”溜める”事を知らないからで……任せて」
「い、いやのその……別に僕困っては……ポゥとは徐々に進んでいけばいいってふたりで言ってますし……」
「ふがふが……アタシたちが早く見たいんだよぅぅ!」
「きゃああああっ!?」
グラス18歳男、美少女と美人お姉さんに押し倒されました……大ピンチ!
……めっちゃドキドキしてるのは秘密です。
「にしし……グラス~、溜めるんだ、溜めるんだぜぇ~」
「出すな、出すなよぅ(※エーテルの話です)」
さわさわ……
エルの柔らかな足先が、僕のお尻を撫でる。
くっ……ここで情けない声を出しては、僕の尊厳が……ぞわぞわと背筋を上ってくる感覚に、歯を食いしばってあらがう。
「へへっ……”前”の方も……一度ポゥと試したんだろぉ? 知ってるんだよね~」
なっ……! なぜそれをっ!!
この店にはプライベートという概念は無いのかっ!?(※アイテムの精霊さんは回復エネルギーの流れが分ったりしますのでバレバレです)
ぷにっ
「ひひっ……まだだよ、まだ出しちゃダメだよぉ」
ううっ、柔らかなエルの足裏が僕のお腹を優しく踏んで……くっ、ぎこちなかったポゥとは違って、じゅ、熟練の足技が……。
(……この子たち一体何をやってるのかしら~……)
アイテム精霊たちの性癖の乱れ……思わずアイテム精霊界の未来を素で心配するヴァン。
「うりうり~……だんだん下に行くよぉ~それっ!」
むにゅん!
「あああっ!?」
きゅぽん……ころんっ!
僕のムラムラもわもわな感情が限界に達した瞬間、やけに軽快な音とともに、1本の筒状の物体が転がりでる。
「!! うそっ! これ”グランエーテル”じゃんっ! アタシ、初めてみたっ」
エルが驚きの声を上げる。
グランエーテルとは、グランポーションと同じく、指定範囲内の味方のMPを全快する超絶回復アイテムであるが、グランポーションよりさらに貴重……。
凄いんだけど、貴重過ぎて売り物にはできないな……身体を起こしながら、ため息をつく僕。
”魔族”との戦いには、有用なアイテムだろうから、折を見て作っておく必要はあるだろうけど……それにしても先ほどまで身体に満ちていたムラムラな感情がさっぱり抜け落ちてしまった……。
男子諸君にはおなじみの、”賢者モード”というヤツであるっ!
……これ、溜めようが溜めるまいが……僕はポゥとちゃんと”出来る”んだろうか……思わず頭を抱える僕なのでした。




