第8-2話 初級術師、彼女の不調を癒す
いきなり、ポーションが出なくなったと訴えるポゥ。
彼女の身体に、一体何が?
不安げに僕を見上げるポゥの頭を安心させるように撫でてやると、彼女の手を引きリビングに移動する。
僕は、紅茶を入れると、食糧庫から彼女の大好きなショートケーキを出してきて、彼女にふるまう。
人間、困っているときはとりあえず美味しいものを食べなさいと母さんが言っていた。
「うう、ありがとうグラス……ぱくっ」
おお、ポゥがケーキを一口で食べないなんて……相当参ってるみたい……僕が力になれればいいんだけど……。
「ポゥ、少しは落ち着いた? 僕に詳しく聞かせてみて」
ポゥはこくりとうなずくと、ゆっくりと話し始めた。
「ふぅ……先日、温泉旅行から帰ってきて……グラスと、こっ、恋人同士になって……わたしの回復エネルギーもばっちり充実! って感じだったんだけど……」
うっ……ポゥの口から”恋人同士”って言葉が出ると、破壊力高い……思わず赤面する僕。
……いやいや! いまはポゥの困り事を聞くのが大事だぞ、うん!
「今朝起きたらね、回復エネルギーが少なく……というよりは不安定になっていて、”ポーション”を作れない感じがするの……」
「……ねえ、グラス……ちょっと試していい?」
ううっ……上目遣いのポゥ、か、かわいい……いやいや! いまはポゥの不調の原因を探るんだ……ニヤニヤすんな僕!
ぎゅっ……
僕が頷くと、抱きついてくるポゥ。
ああ……あったかい、柔らかい。
ポゥの胸も、僕の胸もドキドキしてるのを感じる。
ドキドキパワーは十分と思うんだけど……。
……しん
確かに、いつも出てくるはずのポーションが出てこない。
「じゃ、じゃあ次は……んぅ」
ちゅっ……
唇が触れ合うだけのキスをする。
うううっ……恋人同士になってからのキス……やっぱり意識しちゃうなあ……僕と、触れ合っているポゥのドキドキがもっと大きくなる。
……しん
ただ、キスをしても、”ハイポーション”はおろか、”ポーション”すら出てこない。
「んっ……むちゅぅ」
!! ポ、ポポポっ、ポゥの方からし、舌をっ……!
柔らかな彼女の舌の感触を自分の舌先に感じた時……。
ぱあぁ……ころん……。
ささやかな光と共に、1つのポーションが生成される。
「ん……ぷはっ」
確認が終わったのか、唇を離すポゥ。
ああ、名残惜しい……。
「やっぱり……力が不安定になってる…………って、ふわわわっ!?」
そこでようやく自分が大胆な事をしてしまったことに気づいたのか、両手で顔を覆い、わたわたしだすポゥ。
ぎゅっ……!
僕も恥ずかしくなったので、ごまかす代わりにポゥを思いっきり抱きしめる。
「……グラス」
「ポゥ……とりあえず現象は分かったし、僕たちだけじゃ解決できそうにないから……ほかのふたりに相談に行こうか」
「……うんっ!」
にっこりと笑ってくれたポゥと共に、僕たちはエルとヴァンさんに相談に行くことにした。
*** ***
「にしし……なるほど、そんなことが」
「そんなの、簡単だっ……恋人達にはひとかけらのスパイス……”やきもち”の感情が足らないんだよっ」
ぬぎっ……むにっ!
「わ、わわわわっ!?」
エルに相談した途端、彼女はそう言い出し、ローファーを脱いで素足になると、立ったまま足で僕のお尻をむにむにしだす。
ああっ、立っているからか足の指の感触がいつもより強くっ……!
ころころ、ころんっ。
たちまち、大量のエーテルが生成される。
「あうあうっ……」
エーテルの生産活動と分かっていても、ソワソワするポゥ……やきもち焼いてくれてるんだろうか。
「にししっ……まだ足んねえかぁ?」
「それなら……いよいよ”前”だぁ!」
くるんっ
!?!?
エルは足先で器用に僕の身体を回転させると、僕の”前”に向かって足を延ばす……。
そ、それはダメだよエル! そ、そんなことされると……僕、僕っ!
彼女に見られながら○○○なんてっ!
マニアックすぎます、不潔ですっ!
……ただ、そこに漂う危険な魅力は、僕の身体から抵抗する力を奪って……。
「~~!! エル!! そっちはまだダメぇ!」
「わ、わたしが初めてシテからにしてっ!!」
僕とエルの間に割り込み、全力で止めてくるポゥ。
(……”まだ”? ……”わたしがシテから”……!?)
勢いでとんでもないことを口走るポゥに、僕のドキドキは限界突破を迎えようとしていた。
ころころんっ
「へへ、ごちそうさまっ」
数個のハイエーテルを置き土産に、エルへの相談は特に実りも無く終了したのでした。
*** ***
「ふむふむ……ああ~、これね……」
最初からヴァンさんの所に来ればよかった……。
僕たちがヴァンさんに現象を説明すると、彼女は心得たという感じで、探査魔法を使って調査を始めた。
「……うん、わかったわ~。 ポゥちゃん、ちょっと口を開けてみて~」
「えっ? もうですか? はいっ……んぁ」
あっさり原因が分かったらしく、ポゥに口を開けるように促すヴァンさん。
おっきく開いたポゥの口内が見える……うう、意識すんな僕! 彼女の舌に触れたいとか……。
僕の葛藤はどこ吹く風と、ヴァンさんは無造作に指を彼女の口の中に入れると……。
きゅぽん!
「もがっ!?」
やけに軽快な音とともに、白いかけらをポゥの口内から引き抜く。
「……これは、虫歯?」
「そうなの~、ポゥちゃん、甘いのも大好きでしょ~?」
「そのせいで、この歯に虫歯が出来ていて……グラスくんと恋人同士になることで一気に湧き上がった回復エネルギーがここに負荷をかけて……逆に”栓”の役目をしてたみたいね」
「あ、心配しないで~、ポゥちゃんはポーションの精霊……欠けた歯くらい、すぐ生えてくるから~」
「……つまり、これで解決なんですか?」
「そうね、あとはきっかけがあれば一気に……そうだ……えいっ♪」
ヴァンさんは、そういって悪戯っぽくウィンクすると、僕の頭を自然に膝枕体勢に持っていく。
ぽふっ……
あああっ! ヴァンさんの太ももの柔らかさと、ただよう万能薬の香りが僕をっ!
「ふええええっ!? ヴァンさん! わたしもしますぅ!」
ぽふっ……
ずるい! と慌てたポゥが僕に覆いかぶさってくる!
わわっ! ポゥの柔らかい身体と、むっ胸の感触が……!
前と後ろから感じる甘美な感触に僕が昇天しそうになっていると……。
じゃらららららっ!
かつっ、かつんっ!
「きゃ、きゃああっ」
「うふふ、あらあら」
大量のポーション、ハイポーション、万能薬が部屋中にあふれ……。
僕たちは数週間分の在庫を手に入れたのでした。




