第7-6話 初級術師、愛しのポゥを助ける為に奮闘する(下)
ポゥをさらった犯人は、以前のパーティリーダー、ルードだった!
だが、そのルードは”魔族”によって操られているようで……。
目の前の”ルード”から、人ならざる声が発せられる。
[くふ……やるな人間よ”我”の霧の中で動けるとは……お前も興味深い素材になりそうだ]
……男か女か、若いか老いているかもわからない不気味な声……分かっているのは圧倒的な悪意を感じるという事。
[くふふ……お前が3人も”アイテムの精霊”を実体化させているとはな……そこのふたりは苗床として利用するとして……]
[我のひとつめの悲願……”カオスヒールの夜”成就のために、このポーション娘の力は最後の一滴まで吸い尽くさせてもらう……]
”カオスヒールの夜”……以前ポゥたちが言っていた……数百年前に王国を襲った、”回復アイテム”、”回復魔法”の逆転現象……。
全ての回復エネルギーが人々に牙を剥き、それに呼応して行われた魔族の侵攻により、王国は滅亡寸前になったって……。
……って、そんな事より!
コイツ今なんて言った!?
ポゥの力を吸い尽くすだって!?
そんな事をされたら、ポゥが無事に済むとは思えない……!
エル、ヴァンさんは倒れ込み、意識を失っている……いま立っているのは僕だけ……目の前には、僕よりはるか上のレベルのルード。
その背後にいるであろう”魔族”……。
Dヒールしか使えない初級回復術師の僕に何が出来るのか……いや、何をできるかじゃない!
愛しいポゥを、大好きなポゥを助けるために、僕はここにいるんだっ!!
そう心に念じた瞬間、膨大な力が僕の中でうねりをあげた!!
ドウッ!!
僕の身体を中心に、青白いオーラが弾ける……これは、僕のMP!?
Dヒールを1000回以上使っても尽きない、必要以上に無尽蔵なMP。
役に立たないと思われていたその力が、いま僕の身体の奥から湧き出てくる……そして頭の中に浮かぶ見たことのない術式……!
”XXヒール”……僕の口は自然に術式を詠唱し、ルードに向かって発動させた!
膨大なMPのパワー……魔力が、七色の渦を巻いてルードを包む……そこで初めてアイツの焦った声が聞こえた。
[……な!? これはMPの逆流現象……まさか人間がこんな術をっ……ぐうっ、傀儡術が、切れる……]
ばちんっ!
なにかが切れるような音が響くと、糸の切れた人形のようにルードがくずおれ、黒い霧も消え失せる。
「う……あっ」
回復エネルギーの吸収が止まったのか、わずかに声を上げるポゥ。
だが、びっしりを冷や汗をかき、とても苦しそうにしている。
ちらりと後ろを見ると、エルとヴァンさんも似たような状態だ。
みんなを、回復しないと……!
その時、僕の頭の中にもう一つの術式が浮かぶ。
”MPギブ”
ポピュラーな魔法……自分の余剰MPを、相手に分け与える術である……僕、これも使えなかったのに……。
よし、これで3人にMPを分け与えればっ!
僕は”MPギブ”を全力で発動させる!
どこか優しい光が、倒れた3人を包み……!
「……うっ……あれ、ここ……わたし、捕まったんじゃ?」
ぱちりとその愛らしい目を開いたポゥ……汗もすっかり引いており、元気を取り戻したようだ。
「はは、よかった……ポゥ……ポゥっ!!」
安ど感から腰が抜けそうになりながらも、必死に彼女のもとに駆け寄る僕。
「あっ! グラスぅ! もしかして、グラスが助けてくれたの?」
「えへへ、うれしいなぁ!」
ぱっ、といつもの笑顔を取り戻したポゥに、僕は思いっきり抱きつく。
ぎゅっ!
「ふわわ、グラス……グラスっ……グラスぅ!」
ポゥも感極まったのか、しっかりと抱き返してくれる。
ちゃんと助けられたら言おうと思っていた言葉……。
僕は彼女の肩を掴み、しっかりと彼女の赤い瞳を見つめる。
「……はうっ」
思わず真っ赤になるかわいいポゥに、愛しい気持ちがあふれてくる。
僕は、息を軽く吸うと、思いのたけを声に乗せる。
「ポゥ、僕は君が好きだ……だいすきだ!」
「僕とずっと一緒にいて欲しい!」
「幸せにするから、絶対幸せにするから! 僕について来て!」
もっとカッコいいことを言いたいと思っていた。
でも、出てきたのは素直な言葉で……。
「うん! わたしもグラスとがいい! グラスじゃないとやだっ…………だから、幸せにしてね?」
真っ赤になった後、全力で返された彼女の言葉に、やっと恋人同士になれたんだという実感が僕の胸を満たす。
”男なら自信を持て!”
頭の中に響いた、父さんの口癖に後押しされた僕は、ポゥの柔らかな頬に手を添えると、初めて僕から口づける……。
「ふあ……」
わずかにポゥが吐息を漏らすのを感じる。
いつもの唇を触れ合うだけの、フレンチ・キスとは違う、少し大人な深いキス。
お互いの唾液が甘く感じられ、彼女の柔らかな舌の感触を感じた時……。
ぱああああっっ!
今までとは違う朱色の光が、僕たちの間に生じた。
それにかまわず、キスを続ける僕たち……長い口づけの後、顔を離した僕たちは、お互いに微笑みあう。
「えへへ、オトナのキス、しちゃったね……これからもよろしくね、グラス!」
そういって柔らかに微笑んだ彼女の笑顔を、僕は一生守っていくだろう。
「にしし、ごちそーさま!」
「ふぅ……濃厚なラブコメ、堪能したわ~」
僕たちが二人の世界から戻った瞬間、声をかけてくれるエルとヴァンさん。
後押ししてくれたこのふたりには、感謝しないとな……。
そう思っていると、こつんと1つのポーションがふたりの身体の間から零れ落ちる。
……これは?
「……ってそれ、グランポーションじゃんっ!!」
えっ!?
思わずその”ポーション”を拾い、観察する。
ハイポーションよりさらに濃い赤の薬液……その周りをキラキラと七色の粒子が踊っている。
「……ほんとだ、グランポーション……」
思わずポゥも呆然としている。
グランポーション……ポーション類の最上位であり、半径100メートル内にいるパーティ全員のHPを全快にする。
桁違いの効果を持つが、それだけにウルトラスーパーレアであり、記録に残っている範囲では、ここ数百年で20個程度しか見つかっていない。
「い、いくらポーションを統括していると言っても、1つのグランポーションを作るのに半年はかかるから……先代はともかく、わたしは作ったことないよぉ」
ま、まさか僕とポゥが大人のキスをしたから出来たんじゃないよね?
「むむぅ……やっぱグラスのとんでもないMPが影響してんのか?」
この辺りは、また勇者パーティのヒューバートさんに聞いてもいいかもしれない。
「うん、そうだね」
「ふああ! 安心したらお腹すいちゃった! 何か食べに行こうよ!」
「えっ!? ポゥさん、いまからですかっ!?」
「にしし……おふたりさん、恋人同士になったと言っても、エーテルの生産は別問題……いままでどおりグラスの”お尻”はアタシのモノね」
「う~ん、仕方ないかぁ」
「いいのっ!?」
父さん、母さん……可愛い彼女は出来ましたが、相変わらず僕の唇とお尻は美少女たちにシェアされるようです。
「ふふっ……」
微笑ましい漫才を優しく見守るヴァン。
だが、気が付くと”ルード”の姿が消えている……真の黒幕の”魔族”が回収したのか。
大切な弟分、妹分……そして自分の店を守るためにも、”敵”の調査は続けないと……ヴァンは気を引き締めるのだった。
次から新章です。
グラス君がんばりました!
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