第7-1話 初級術師、デート頑張る
カフェレストラン、”プレジール”がオープンして数週間、すっかりシェフ兼オーナーの風格が身についたヴァンさん。
新たに雇ったアルバイトの子たちと、”プレジール”は今日も元気に営業中!
初日、あまりに混雑したので現在は予約制だ……3か月先まで埋まっているそうだが。
なにやら、ヴァンさんの癒しオーラに、店内に漂うポーションとエーテルのアロマミストが疲れた現代人に効くらしい……ストレス社会、恐るべし。
”グラスとポゥの快復ストア withエル”も順調だ……今回、店頭に出る数は少ないが、その商品ラインナップにレアアイテムである”万能薬”が加わったことにより、その評判に拍車がかかっていた。
……そんな対外的な栄光など、いまの僕には関係ないのです。
このグラス・オルブライト、人生最大のクエストに挑みます!
そのクエストとは、”ポゥをデートに誘う事”であるっ!
……あっ、すいません、帰らないで……。
え? また店の備品の買い出しという理由で、一緒に出掛ければいいじゃん? って?
仕事の延長で行うデートと、全身で心を通わせるプライベートデートは別物である!
明日明後日は王国の安息日なので連休……今日の閉店後から……で、できれば2日半っ!
精一杯楽しむプランを僕は考えたのだ!
……とまあ、最大の課題はポゥをちゃんと誘う事なのだが……。
狭い店内、仕事柄なかなか二人っきりになれるタイミングを掴めないでいるのだっ(偉そうに言うな)!
と、”プレジール”にいるヴァンさんから、連絡が入る……鏡に文字を映す特殊魔法だ。
ふむふむ……倉庫からジャガイモを持ってきて欲しい……か。
ポテトキッシュは”プレジール”の看板メニューだからね!
僕はさっそく家の裏手にある倉庫に向かう。
裏手の倉庫は、先日増築したものだ。
最近アイテム生成の調子が良く、毎日大量のポーションやエーテルが生成されること。
何よりポゥ、エル、ヴァンさんのはらぺこ超絶胃袋を満たすための大量の食材と、”プレジール”用の食材を保管する必要が出来たためだ。
風の魔法力を込めた宝玉を使い、室内の温度を一定に保つ倉庫……大型店でもなかなか持っていないスーパー設備である。
さて、ジャガイモの棚はどこかな……ふと、倉庫の奥に人の気配を感じる。
「ほえ? あ、グラスぅ! グラスも探し物?」
ごそごそとジャガイモの棚を探っていたポゥが、僕に気が付くとパッと笑顔になり、とてとてと近づいてくる。
今日の彼女のシフトは”プレジール”なので、カフェの制服を着ている。
あああ……かわいいなぁ……思わずうっとりと見とれてしまう僕。
白を基調にして、ポゥのイメージカラーである朱色が各所に入った清楚な制服……ニーソからのぞく絶対領域がまたいいのだ!
「うん、ヴァンさんからジャガイモの補充を頼まれて……」
「あれ? わたしもヴァンさんから言われてジャガイモを取りに来たんだけど……連絡ミスかな?」
ん……ポゥもジャガイモを取りに来たのか?
……はっ!? これはもしかして、ヴァンさんが二人きりになれるように、気を使ってくれたのだろうかっ!
な、なんていいアイテム娘さんなんだ……男グラス、このチャンスを生かさねば……。
僕はドキドキと早鐘を打つ胸を右手で押さえると、勇気を出してポゥを誘う。
「ポゥ……明日、明後日とお休みだから……ぼ、僕と…………今日の仕事終わり、一緒に遊びに行かない?」
はぅ……お、お泊りデートを提案したかったけど……仕事終わりの普通デートになってしまった。
で、でも今回僕はがんばったと思う!
こういうのは、一歩一歩だよね。
「! うん、行こう! わたし嬉しいっ!」
「えへへ、これって”デート”だよねっ!」
ぎゅっ……!
僕の腕を抱いて、花のように微笑んでくれるポゥに、僕は完全にノックアウトされたのでした。
*** ***
仕事が終わり、僕たちは手をつなぎながら王都を歩いていた。
ここは僕たちの店があるわくわく商店街から数ブロック離れた繁華街。
おしゃれなブティックなどが並ぶ、すこしハイソなエリアである。
「あっ! このニーソ可愛いなぁ……ねえグラス、見て行っていい?」
「ふおぉ、このクレープ屋さんは……”王都ウォーカー”で最近話題急上昇中の……20個くださいっ!」
くるくると表情を変えるポゥは、色々なお店に目移りしてしまうようだ……僕の手を引きながら、あっちへ、こっちへ……食欲には勝てないようですが。
ふぅ……かわいいなぁ……楽しいなぁ……僕は最高のリア充感を味わっていた。
段々腰に下げたポーション回収袋が重くなってくる……ああ、また在庫が増えるよ!
と、ポゥの視線が一軒のブティックに止まる。
ショーウィンドウの中には、深い赤に輝くルビーが埋め込まれたイヤリングを付けたマネキンがポーズを取っている。
「ふおお……これ、かわいい……」
ポゥはこのイヤリングがとても気になるようだ……耳たぶに穴を開けなくても、魔力で吸着する最新タイプ……お値段は張るけどポゥのためなら……。
「えっと、ポゥ、そのイヤリング……僕にプレゼントさせてくれないかな?」
「えっ!? でもこれ……すごく高いよ? いいの?」
「もちろんだよ! ポゥは凄く頑張ってくれてるし……プライベートで初めてデートした記念に……プレゼントしたいんだ」
「あぅ、グラスぅ(ぷしゅ~)」
思わずキザな事を口走ってしまった僕。
真っ赤になったポゥに、こちらまで恥ずかしくなった僕は、微笑ましいまなざしで僕たちを見ていた店員さんに声をかけ、イヤリングを購入するのだった。
「ありがとうグラス! ずっと……ずっと大事にするね!」
少し目尻に涙を浮かべて笑ってくれた彼女の顔を、僕は一生忘れないだろう。
「あ、これ福引券だって! 引いてみようよっ!」
先ほどのブティックで、商店街の福引券をもらい、歓声を上げるポゥ。
福引か……ウチの商店街では、野菜セットとか食事無料券とか、ささやかな景品が多かったな……ここは何がもらえるんだろう?
カランカランカラン!
「大当たり! 5名様まで使える、温泉旅行招待券です!」
ふんすと気合を入れたポゥが引いたのは、王都近郊にある温泉街……そこにある高級ホテルの宿泊券だった!
「えへへ、やったぁ~!! 明日からの連休、みんなで行こうよっ!」
女神様! ありがとうございますっ!
ふたりきりじゃないけれど、ポゥとのお泊り旅行、始まりますっ!
グラス君の恋模様、お楽しみください!
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