夜も開けて
チュンチュン…。
外から雀の鳴く声が聞こえる。
「……ふが?」
ムクリと体を起こす。
「ふわ~~~~あ…」
須藤は大あくびをすると、目を擦りながらベッドを降りる。
シャッ。
カーテンを開ける。目が眩む光が差し込み、咄嗟に手をかざす。
「んわ…と」
光に目が慣れてくると、手を下ろした。
外は相変わらず銀世界を晒していた。それでも太陽は顔を覗かせ、白く染まる街並みを照らしていた。
「おぉ。絶好のスキー日和だなぁ」
取り留めのない事を考えていると、ドアがノックされた。
コンコンコン。
『起きろ~!ツンツ~ン!』
敷島の声が聞こえる。
―――ツンツン?…って俺の事か?
何気なく頭に手を当てる。
本日も怒髪天を突く。である。
須藤の場合は更にムースで固めているのだが。
『お~い』
「今行くぜ~」
大声で返事を返すと、洗面所へと向かう。身支度を済ませ、三階へ上がる。昨夜南条と呑んだのも三階のリビングだった。部屋の一部は敷島の部屋も兼ねている。
「ツンツンッ!遅いで!」
テーブルに食器を並べながら敷島が吠える。暖房が効いているせいか、Tシャツ一枚にホットパンツという薄着である。
「わりわり。つーかツンツンって何だよ?」
既に予想は付いていたが、話題を振ってみる。
「んなもん、決まってるやろ?そのアタマ」
ビシッ、と須藤の頭を指す。
「…やっぱり」
ニヤニヤしながら須藤がぼそりと言う。
「何ニヤニヤしとるんや?気持ち悪いなぁ」
「いやぁ、単純だなぁと思って」
「何やと!?」
うがぁぁ、と須藤に掴み掛かる。
ドダダダダ…ガシッ。
そんな敷島を鷲掴みにして突進をブロックする。
「うぎぃぃ…!」
ブンブンッ、と両手を振り回すが、頭を押さえられていて須藤には届かない。
「…お前達、何をじゃれている」
「ん」「あ」
二人が同時に振り返ると、キッチンから南条が顔を覗かせていた。
「侑子。遊んでないで手伝え」
「は、はーい」
エプロンを翻してキッチンに戻る南条と、その後を追う敷島。
―――これで軍隊だからなぁ…。
何だかいいな、と一人呟く。
…須藤はこの光景を護っていきたいと思ったのだった。
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「ごち!」
「ごちそうさまでしたぁ~」
「…お粗末様」
三者三様に食事終了を告げる。
「いやぁ、食った食った~」
ポンポン、と須藤が腹を叩く。
「やっぱり、ねぇちゃんの料理は最高やな!」
ズズズ…と食後のお茶を啜る。
「日々是精進だ。まだまだ。と言うより侑子。お前もいい加減一人で作れるようになりなさい」
「…う」
敷島が硬直する。
「ハッハッ。ユーコにはまだ無理じゃないか?」
「ムッ!…そーいうツンツンは出来んのかいな!」
「俺?モチロン。一人でのサバイバル生活長かったからなぁ~」
敷島がニタリと嗤う。
「どーせ、蛇の丸焼きとかそんなんしか出来ひんのやろ?」
「う…そ、そんなコトは無いぞ…」
図星図星~と敷島がはやし立てる。
「さ、さぁ~て。悪いから片付けでもしようかな~」
ガチャガチャ。
慌ただしく須藤が食器を重ね始める。
「別にやらんで良いぞ須藤。お前は客人なのだからな」
椅子を引き、南条が立ち上がる。
「いいっていいって。世話になりっぱなしだからさ…っとっと」
そう言いながら、山と積まれた食器に悪戦苦闘する。
「しようのないヤツだな」
ひょいっ。
南条が食器を半分取り上げる。
「おっと。悪い」
「では、折角だから運んで貰おう」
「おう。ユーコは茶でも飲んでな」
「ご苦労ご苦労」
ひらひらと手を振る。そのまま二人はキッチンへと消えていった。
カチャカチャ…。
二人が並んで洗い物をしながら、他愛の無い話をしている。
「…でさ、それを思いっきり放り投げてやったのさ」
「フ…そこでそうするとはな。なかなかやる」
終始和やかな空気を二人が醸し出していた。
「あ。そう言えば…」
「どうした?」
オホン、と須藤が一つ咳払いをする。
「…入隊の件、受けるぜ」
カチャ…。
南条の手が止まる。
「本当か。…別に、今日の事は負い目にしなくて良いんだぞ?侑子が世話になった礼もある」
切れ長の目が須藤を見据える。
「違うって。そうじゃないさ。ただ…」
「何だ?」
「レイや、ユーコ。二人を眺めてるのも悪くないかな、ってさ」
「………」
しばし南条は考えている素振りを見せたが、やがて口を開く。
「…そうか。分かった。後で書類を渡す。歓迎するぞ須藤」
「ああ。ヨロシクな」
須藤はニカッ、と笑うと洗い終わった食器を片付け始めたのだった。




