北海道連合頭目
「失礼致します」
戸を潜ると、豪奢な書斎が目に飛び込んでくる。
「伊達 奇十郎、報告に参りました」
伊達は部屋の中央でうやうやしく礼をする。
キィ…。
窓際の椅子を軋ませ、一人の男が振り返る。
「奇十郎か。ご苦労」
そこには年の頃二十代後半程の青年が居た。
「はっ。…此度の件、申し訳御座いません」
「まぁイイさ。モノは取り返したんだろ?」
その言葉に、奇十郎が懐から一枚のディスクを取り出す。
「おう。それでいい」
青年は奇十郎に歩み寄る。
「所で…」
「はい」
「お前、何かあっただろ。それも楽しそうなヤツ」
奇十郎がふと顔を上げる。青年の顔を見ると破顔した。
「フゥ。貴方には敵いませんな」
「んで?」
「はい…。面白い男に会いました。名を、須藤 叢雲」
青年が腕を組む。
「ソイツ、強いのか?」
「…はい。私の部下数十人でも歯が立たなかった者です」
「ヘェ…。イイね、ソイツ」
青年がニヤリと、不気味な笑みを浮かべた。
「蒼琉様。呉々も…」
「わーってるって!ホドホドにしろってんだろ?」
伊達 蒼流はバンバンッ!と奇十郎の肩を叩く。
「お頼み申しますぞ…?」
奇十郎は覗き込む様に蒼流の目を見る。
「あぁ。心配すんなって。ちょっと遊ぶだけだからよ」
「蒼流様…」
奇十郎が呆れた様な声を上げる。
「良いですか?何度も貴方には申し上げておりますが、もっと頭目としての自覚を持ちなさい。悪戯に戦を長引かせ、戦いを長引かせるなどと…」
ヒタリ
冷たい感触が頬を撫でる。
何時の間に手にしていたのか。
蒼流の手には刀が在った。そしてその切っ先は、奇十郎の頬を撫でている。
「俺に指図するんじゃねぇ」
…彼は隻眼だった。右目を有らん限りに見開き、奇十郎を睨む。
「…う」
蛇に睨まれた蛙。正にそんな光景だった。
す、と刀が下がる。
「分かったらサッサと下がりやがれ」
シッシッ、と猫でも追い払うような仕草をし、退室を促す。
「…分かりました。只、呉々も油断召されぬよう…」
深々と一礼すると、その場から離れる。
……パタン。
………キリキリキリ。
そんな音がしそうな体で、唇の端が吊り上がる。
「須藤 叢雲…。久々に楽しめそうだぜ」
ククク、と喉を鳴らすと、不意に刀を床へと突き刺す。
「こんななまくらじゃなくて、とっておきを出さなきゃな…」
奇怪な笑い声は、しばらく止むことが無かった。




