夜も更け
「なかなかいける口だな、須藤」
トクトクトクトク。
言いながらグラスに酒をなみなみと注ぐ。ちなみに日本酒である。
「あぁ。不思議と酔わないんだよな、俺」
「そうか」
南条はグラスを片手に塩辛をつまむ。
「そういやユーコは?」
「もう寝たさ。流石に絞られすぎて、疲れたのだろう」
すっ、と酒を口に含む。
「ハハ…」
苦笑いを浮かべながら、須藤がつられてグラスを傾ける。
「母性、とでもいうのかな」
少し頬に朱が差した南条が語り出す。
「ん?」
「どうにもな、アイツは放っておけないのだ」
再び南条がグラスを傾け、先を続ける。
「侑子はな…。テロで両親を亡くしているんだ」
「瓦礫の山の中、侑子は独り、潰れたビルの前に佇んでいた。…知っているか?五年前の大阪での事件は?大々的に報道もされた筈だ」
ふと記憶を辿り、思い出す。
「…あれかぁ。いくつもビルが爆発したヤツだろ?」
「そうだ。…当時私は今の組織の大阪支部にいた。結局事件は解決しなかったがな」
一気にグラスを空けると、忌々しげにテーブルへと叩き付けるように置く。
「フゥゥ…」
「おい、大丈夫かレイ?」
「大丈夫だ…。私はあの時、放心状態にある侑子を見捨てては置けなかった」
トクトクトク。
一升瓶から更に酒を注ぎ足すと、グラスを手に取る。
「アイツには過酷な人生を選択させてしまったのかもしれない。…もっと、もっとマシな道もあったかもしれないというのに」
ジッと、注がれた酒を覗き込みながら語る。
「須藤、私は…」
「ユーコは、別に後悔とか、そんなのしちゃいないさ」
何か言いかけた南条を遮る。
「………」
「むしろレイには感謝してるはずさ。じゃなきゃ、ずっと一緒には居ないよ」
南条は黙って聞いていたが、やおらグラスの中身を一気に呷る。
「お、おいおい」
須藤の制止も効かず、グラスが空になる。
「私は…私は…。むぅ」
べちゃっ、という擬音が聞こえてきそうな勢いで南条がテーブルに突っ伏す。
「レ、レイ?」
須藤が声を掛けるも、返事は寝息ばかりであった。
「しょーがねーなぁ…」
須藤が南条を担ごうとすると、
「…ウチが連れてく」
何時の間に来たのか、敷島が戸口に立っていた。
「…聞いてたのか」
「ん…まぁ」
よっこいしょ、と敷島が南条を背負う。
「ウチは、幸せ者や。こんな優しいねぇちゃんに拾われて…」
フ、と微笑するとドアを開ける。
「…ありがとな。ねぇちゃんの話聞いてくれて」
「あぁ」
須藤は出て行く敷島を見送ると、テーブルを片付け始めた。




