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後編

「ふわふわ卵、美味しくないです。」

あれから数日経ちました。あの事は、松平王国とイースガルド王国の政略的なものでサネトキ様のせいでは無いと分かっています。でもとても寂しいのです。



こんな日にお兄様に会ってしまうなんて・・

「フィリーナ!マツダイラとの事は、本当か。お前はどれだけ迷惑をかければ気が済むのだ。この売女が、少しは公爵令嬢らしく出来んのか。二度とこんな事はするな、わかったな。」

「・・・」

「返事も出来んのか、クズ」

「も、申し訳・・ございません。」

お兄様は、私の答えに満足して去っていきました。

私は中庭の隅の人気のないところにやってきました。

「う、うわぁーっ、もう嫌だー、なんで、なんで、なんで・・」

もう耐えられません、涙が止まりません。

「ガサッ」

「え、だれ」

「にゃー」

「・・・」

木陰から男の人が出てきました。

「俺は悪くないぞ、昼寝をしていただけだ。盗み聞きしていたわけじゃない。」

「・・・」

「あんたの噂のことは知っている。あまり思い詰めるな。だめな時は友達か家族にちゃんと相談しろ。」

「そんな人いないわ・・」

「あー、相談相手がいないなら俺が聞いてやるから。話すだけでも楽になるらしいからな。でも聞くだけだぞ。」

「・・・」

「俺は、エリスアルド男爵、ダーム・エリスアルドだ。その顔じゃ授業に出られないだろ。もう今日は寮に帰れ、欠席届は適当に書いて出しといてやるから。」

私の答えも聞かずエリスアルド男爵は去っていきました。


======================


「美味しくない・・」

「相席させてもらうぞ。」

目の前にだれか座ったと思ったら、エリスアルド男爵でした。

「朝から辛気臭い顔をするな。あんた卵好きじゃなかったのか。そんな顔を見ながらじゃこっちの食事もまずくなる。」

「・・・」

「ほら、さっさと食うぞ。」

いつも私が食事をしていると、どこからともなく現れて悪態をつきます。

そして、一緒にだまって食事をしてくれます。

不器用で、そしてとても優しい人です。


======================


私は中庭の隅にやってきました。

お昼はこの誰もいない場所で過ごすのがお気に入りです。

私は、この場所にある大きな木に今日あったことや愚痴を話します。

「・・・・・あんな人たちに負けません、頑張りますわ。」

一通り話し終えたら私は教室に向かいます。

「本当に聞いて下さるだけなのね・・・」

私は小さく呟きました。


======================


私は今日も大きな木に愚痴をこぼしにきました。

なぜか今日はエリスアルド男爵が木の後ろではなく前にいます。

「エリスアルド男爵、どうかなさいましたか?」

「・・領地に帰らねばならない。」

私は息を呑んでうつむいてしまいました。

「そんな顔をしないでほしい、領地での問題が解決すれば必ず戻ってくるよ。」

あ、この人も・・

「あなたも行ってしまわれるのですね。」

「まて、俺は戻ってくる。絶対だ。」

「もういいのです。そう言って男の人は、気を持たせるようなことを言って・・もう嫌です。」

どうしてでしょう、悲しいのです。辛いのです。苦しいのです。こんな世界はもう嫌だ。

えっ・・・

「俺は必ず君のもとに戻ってくる。信じなくてもいい、だが信じてほしいとは思っている。」

そう言って私をやさしく抱きしめました。

「ふへっ」

驚いて変な声が出ました。

男の人に抱きしめられたのは、初めてでどうしたら良いのか分からず身動きが取れません。

「何かあったら、俺の叔母、フィレンツェ伯爵夫人を頼れ。そして俺が戻ってきたら、君のお父上、オズワルト公爵に会わせてほしい。」

そう言って優しく微笑むと、そっと私を離してくれました。

「これは約束の証だ。」

そう言って紋章入りのメダルを渡してくれました。




夕食を終え寮のベッドで今日のことを考えていました。

・・キャー、恥ずかしいです。ゴロゴロとベッドの上を転げまわります。

不審に思った寮長が、部屋に入ってくるまでそれは続きました。


======================


「オズワルト公爵令嬢、相席よろしいかしら。」

「エリザベス様、あなたと話すことは何もありませんわ。」

「あら、あなたにとっておきの情報を持ってきて差し上げましたのに。」

そう言って勝手に私の前に座り話しだします。

「あなたが、最近逢引きしてらしたエリスアルド男爵って第二王子派に属してらっしゃるのね。また捨てられたなんておかわいそうに。」

「どういう意味ですか。」

「そのお顔・・とても愉快ですわ、それではごきげんよう。」


======================


そんなわけがない。

だけど現実に第二王子派として捕えられたエリスアルド男爵は戻ってこない。

あの方が中央の政治になんて関与しているはずがないのに。

いくら考えても私の力ではどうにもなりません。

私が何を言ってもオズワルト公爵家は力を貸してはくれないでしょう。

他には・・・

(何かあったら、俺の叔母、フィレンツェ伯爵夫人を頼れ)

そうです、エリスアルド男爵はそうおっしゃったではありませんか。

お手紙もせずに急に訪ねるのは失礼ではありますが、今は時間がありません。

歩いてフィレンツェ伯爵邸に向かいます。


玄関をノックして出てきたのは若い男性でした。

私は家名と来訪目的を告げると、とても胡散臭そうな目で私も見ました。

「公爵家のご令嬢が、お約束もなく歩いて来られるなどありえません。後日正式にお約束ののちに改めてお越しください。」

確かに公爵家の者が、馬車を使わないなど考えられないことでしょう。でもここで帰るわけにはいかないのです。

「せめて用件だけでも、お伝え願えませんでしょうか。」

「ノルド、そちらのご令嬢はどなたかしら?」

「奥様、こちらの方は・・」

ノルドと呼ばれた方が、どのように説明したものかと言葉を区切ったすきに、私はフィレンツェ伯爵夫人に家名と要件をのべ、エリスアルド男爵から渡されていたメダルを出しました。

するとフィレンツェ伯爵夫人は、私を見て微笑みました。



私は人払いされた部屋で、フィレンツェ伯爵夫人のエリスアルド男爵を助けたいことを伝えました。

「オズワルト公爵令嬢である、フィリーナ様のお名前を貸していただけないかしら。」

「名前ですの?」

「そう、私もあの子を助けてあげたいの、だけれども伯爵家では力不足ですの。でもフィリーナ様は公爵家で第三王子の側近の妹と言う強みがありますわ。」

「でもわたくしには公爵家の誰も力を貸してはくれないの。お力になれることがございませんわ。」

「大丈夫ですわよ、他家の者達はそれを知らないのですから、第三王子派のオズワルト公爵家が調べていると勝手に思ってくださいますわ。」

そう言って伯爵夫人は私の答えを待ってくれます。

「私に出来る事があるならば何でも致しますわ。」


======================


「ワーレン、第二王子派とされていた、エリスアルド男爵は本件と無関係であると認める。」

「急にどうされたのですかアードル殿下、その者はオーデンツ男爵の子、罪は免れますまい。」

「オーデンツ男爵家ではエリスアルド男爵を正式な子と認めておらぬし、離縁した夫人と一緒にエリスアルド男爵家の者として登録されている。それを含め詳細は、先日お前の妹が証拠を揃えて持ってきたぞ。なかなか優秀だな。」

「・・そうですか・・(勝手なことをしおって。)」


======================


私はフィレンツェ伯爵邸に滞在しています。

先日第三王子に証拠書類をお渡しできました。

ここでもワーレンお兄様の妹と言う立場が役に立ちました。

そして、明日エリスアルド男爵が帰ってくるそうです。

「フィリーナ様、オズワルト公爵家よりお迎えが参っております。伯爵様か奥様がお戻りになられるまで、お待ちいただけるようにお願いしましたが、火急の要件との事です。どうされますか?」

「わかりました、わたくしもお父様とお話しすることがありますし、公爵家に帰りますわ。」

外には、オズワルト公爵家の家紋が入った馬車がいます。

「公爵家の馬車に乗るなんて学園の入学式以来だわね。」

そう呟いて私は馬車に乗りました。



ガラガラガラガラ・・

「あら、公爵邸に向かうのではないのかしら?」

「郊外の森にある別荘だ。」

はいはい、いつもと違って丁寧な対応だと思ったらほかの人がいなかったらこれですか、ええ分かっていますよ。

はー・・今度は屋敷の離れではなく、郊外の別荘に幽閉ですか。

普通に侯爵邸に帰れると思った私が馬鹿だったのでしょう。


======================


別荘は第二の天国だったようです。

ここの人たちは私をいじめません。三食おやつ付き、温かいベッド、美しい湖、魔獣除けのある安全な暮らし、涙が出てきます。

だけど、お兄様に命令されているらしく私を別荘からは出してくれません。

大人しくここでエリスアルド男爵がきてくれるのを待ちましょうか。

コンコン、ノックがしてメイドのエリサが入ってきました。

「お嬢様、お茶のお時間です。」

るんるん、私は椅子に座って足をぱたぱたさせます。

「お嬢様、お行儀が悪うございます。」

私は大人しくお茶の準備を待ちました。

「ガシャン、うわー!」遠くで激しい音と使用人の叫び声が聞こえました。

「お嬢様、私が見てまいりますのでお部屋からは出ないでください。」

そう言ってエリサは足早に部屋から出ていきました。

また、大きな音がしました。

部屋から出てはいけないと言われたけれど、怖くなった私はエリサを探して、

玄関ホールでエリサを見つけました。

魔獣のそばに転がっているエリサだったものを

「ひっ」

逃げなきゃ、逃げなきゃ、足、動いて

私の気持ちに反して、足は震えるばかりで動いてくれません。

魔獣は大きなエサに夢中ですが、それも時間の問題で、早く逃げないといけなのに。

私は逃げることもせず、ただエリサがいなくなるのを見ていました。

そして、次は私の番なのです。

魔獣が近づいてきます。

怖い、いくら考えても足は全く動いてくれません、私の体の中で何かが渦巻いています。

魔獣が大きく口を開けた瞬間、私の体から何かが抜けていき、そして意識を失いました。


======================


ここはオズワルト公爵の執務室だ。俺は心のなかで気合を入れた。

「オズワルト公爵、このたびの件お口添えありがとうございました。」

俺が第二王子派でない証明は、一応オズワルト公爵家が行ったことになっていたので、お礼を述べたいという理由で面会の申し込みをしたのだ。

本命は、フィリーナとの婚約に関してだが。

「そうか、その件については気にしなくともよい。」

「ありがとうございます。」

「それで、そろそろ目的を話せ、私は忙しいのだ。」

気付かれていたのか。だが、都合がよい。俺は深呼吸したのちに直球をぶつけた。

「オズワルト公爵、フィリーナ様のことでお話がございます。」

「む、・・・」

公爵は深く考え込むような顔をしたのちこういった。

「それは誰だ」

「・・・」

その後の話は意外にも呆気なかった。

俺が説明すると、公爵はやっと思い出したようで、そうだったなと呟き婚約の話についてはどうでもよいのか、承認の書類をすぐに用意し、そばに居た執事に俺をフィリーナのもとへ案内するように命じた。

俺は公爵に腹が立ったが、同時に安堵した。

男爵と公爵では釣り合いが取れていない婚約であり、こんなに簡単に認められるとは思わなかったからだ。

彼女は、今は郊外の別荘にいるらしい。

馬車で早速別荘に向かう。

同行している公爵家の執事は、いかにも面倒だという顔を隠そうともしない。

こんな者を使っていては、公爵の評判にも関わるだろうと思ったが、気にしないことにした。

別荘に到着すると執事と一緒に玄関の扉を開いた。そして

玄関ホールには、赤い血のじゅうたんがひかれ、人だったものと高位魔獣の死体があった。

「ひっ」

横で執事が腰を抜かしている。こいつは使えんな。

「エドリス来い。」

俺は御者兼護衛のエドリスを呼んだ。

「フィリーナを探す。着いて来い。」

彼女はすぐに見つかったが、意識が戻らない。

俺は彼女と共に急ぎフィレンツェ伯爵邸に向かった。

「フィリーナに癒しの神イシュトリルトンの加護を」

俺は馬車の中で彼女を抱きしめたまま神に祈り続けた。


======================


私はオズワルト公爵である。

私はオズワルト公爵家の婿であり妻の方が力を持っている。

妻は息子より出来の悪い娘を嫌っている。非凡な息子と比べるのが間違っているのだが、私が庇えば妻の機嫌が悪くなるのが分かっているので、小さいころから居ない者として扱ってしまった。

そして私もそれに慣れてしまっていたのだろう。

エリスアルド男爵が来てフィリーナを嫁にほしいと言ってきた。

フィリーナと言われて私はすぐに誰かわからなかった。

下級貴族とはいえ、この家から出られるのなら娘も幸せだろうと思いすぐに書類を作って男爵に渡し、執事に案内を任せた。

私は少しほっとした。

だが、執事が血相を変えて戻ってきて、別荘が魔獣に襲われ娘は意識が戻っていないと報告してきた。

娘がどの部屋にいるのかと問うと、執事は少し口ごもりフィレンツェ伯爵邸にいると答えた。

私は娘が魔獣に襲われて何もしないでは公爵家の体面にかかわるからと、医師と必要なものをすべて整えるように執事に命じた。

私に出来る事はこれくらいしかない。

「娘に癒しの神イシュトリルトンの加護があらんことを。」


======================


フィリーナが俺を見て微笑んだ。

「だー」

「口開けて、あーん。」

俺がスープを口元にもっていくとゆっくりそれを飲んだ。

「あー」

もっと欲しいのか俺を見つめてくる。

あの日の翌日には彼女は目を覚ました。

だが、手足が自由に動かず言葉もほとんど話すことができなかった。

医師の診断で、使ったことがない魔力を一気に使用したため神経などに障害が出ていると言われ、治療するには定期的に高価な魔術薬と血縁者の魔力が必要だと言われた。

その時は絶望した、だが翌日必要な物をすべてオズワルト公爵家が持ってきた。

今は彼女と最後の食事をしている。

治療が始まると、治るまでは目覚めることはない。

食事を終えた俺は、彼女を抱えて魔術薬を準備した部屋に向かった。

部屋には大きめな浴槽があり、その中に魔術薬が注がれている。

ゆっくりと浴槽に彼女をおろす。

途中で不安そうにこちらを見つめてきた。

俺は心配ないと笑い、彼女が安心するまで頭をなでてあげた。

安心したのか眠ってしまった彼女の額に口づけをして浴槽に横たえる。

「おやすみフィリーナ」

彼女は魔術薬の中で明るい笑顔で眠っている。






to be continued

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