【22】
驚いているわたくしにその少女は「あ、…あの…大巫女様…?」と、遠慮がちに声を掛けてくる。
「あ、ごめんなさいね~。うふ、びっくりしちゃったわ。あまりにも綺麗な女の子なんだもん」
「い、いえ…そんな…」
顔を赤くして俯く。照れている姿も、なお可愛い。
わたくしは、書類に記してある“不明”という事について問う事にする。
「父の事は知らないのです。母が言うには、私が生まれてすぐに家を出て行ってしまったとか…」
「そうなの?何も聞かされてないの?」
「はい…、母は父については何も。私も何も聞かなかったので…」
しっかりした娘だと思う。
10歳?もうすぐ11歳になろうというのに。
「あの!お聞きしたい事がっ」
突然、必死な顔で尋ねてくる姿も可愛かったりするから不思議。
「大巫女様は、父を知っていますよね?父の名は――」
わたくしは、すっと手を上げて少女の言葉を遮った。
「ロイがここに来たのは10年も前の事。それから何があったかなんて、わたくしは知らないわ」
そう、大巫女なんて神殿から出る事を許されない、俗世を知らずに生きているだけの女。
「そうですか…」
落胆させてしまった。だから、思わず――。
「でも、貴女はお父様にそっくり。その白金色の髪も菫色の瞳も、綺麗な顔立ちも。ロイも貴女と同じでとても綺麗な人だったのよ」
わたくし自身、次から次へと言葉が出てくるのに驚愕しつつも、この少女の菫色の瞳がわたくしの話に反応して輝きを増し、顔は紅潮していくのが嬉しくて思い出の中の彼を語ってしまった。
間違えるはずなんて無い!
あの人の血が流れてる、この少女はあの人の子供!
わたくしが大巫女にならなければ、わたくしがこの少女をこの世に誕生させていたかもしれない。
この腕に抱き、白金の髪を撫で、慈しんだに違いない。
でも、そんな夢物語のような事。
馬鹿な事を考えていると、自分でも分かっている。
「ねぇ、グリンダリア。わたくしと仲良くしてくれると嬉しいんだけど」
「そ、そんな…。私の方こそ、これから宜しくお願いします」
親子には、なれなかったけど。
せめて、ひと時でも彼に似た少女と時間を共有したかった。




