18 - 束の間の休息
ジゼルのことを一つ知ると、疑問が二つは増える。
これがこの日の全員の共通認識となった。
その後、パーティーの時間も迫っていたため自然と解散の流れになった。
ジゼルは表向き体調不良のため欠席となったが、実際は本人が人の多い場所に行くのを嫌がったからだ。
それに今のジゼルを人前にホイホイと連れて行くのは、全員が危険と判断したためでもある。
ジゼルは一先ず城にある客室へと案内された。
そうして部屋の扉を開けると——
「レベッカ?」
「! ジゼルさんっ! も〜、遅いから何かあったのかと思って心配しましたよ〜! 大丈夫でしたか? 人が大勢いて疲れたでしょう?」
ジゼルの案内された部屋にはレベッカがおり、部屋の中をグルグルと歩き回っていた。
声をかけると駆け寄るなりジゼルの手を取り身体のあちこちを見回し、最後は垂れ下がった眉のまま微笑みかけた。
「レベッカ……」
「? どうしました? やっぱりお疲れですか? 軽食を用意して貰ってますから、あっちで休憩しましょう」
ジゼルはレベッカにもたれ掛かるように抱きついた。
自分では大丈夫だと思っていたけれど、やはり(ジゼルからしたら)多くの人と沢山会話し、少し疲れていたらしい。
最近ずっと一緒にいたレベッカを見て、安堵したのだろう。
部屋の中央にあるソファへと手を引かれるまま着いて行き、大人しく座るとテーブルにあるサンドイッチに手を伸ばした。
控えていたメイドが紅茶を淹れているのを見ると、入り口から動かなかったヴァレリーはレベッカを指で呼び、気持ち声を潜めて話した。
「俺たちはやることがあるから、後のことは頼んだぞ。……指示があるまではなるべくこの部屋から出さないで欲しい」
「分かりました」
「それと、これからはしっかり全て報告するように」
「!! はい、すみません!」
「まあ、あいつもお前のそういうところを気に入ったんだろうがな。……ジェレミーを置いて行くから、何があったかはこいつに聞いてくれ。じゃあ俺は先に行くが……はぁ」
ジゼルに頼まれたからか簡単な注意で済ませると、後はジェレミーに任せ部屋を出ようとするヴァレリー。
彼にはこれから、戦場が待っている。
しかし部屋の中をみると、ため息を一つついてソファへと近づく。
スコーンを手に持ったままソファで丸まってしまったジゼルを見て、どうしようかと困っているメイドを下がらせると、ジゼルを抱き上げて奥の寝室へと運ぶ。
邪魔になるだろうと額のサークレットを外してやり、閉じられた瞼の奥を思う。
その時視界に入った手に持っているお菓子を取ろうとしたが、どう言う訳か手から離れない。呆れて思わず苦笑いを浮かべると、仕方なくそのまま布団をかけ部屋を後にした。
ジゼルは色々な疲れとレベッカを見ての安堵、食事と紅茶でお腹が満たされたことが重なったのだろう。その日はそのまま沈み込むように眠りに落ちた。
◇◆◇
翌朝目覚めたジゼルは、一心不乱にただひたすらフォークを口に運んでいた。
昨日のパーティには全く興味が無かったが、そこに出る食事は気になったため、持って来て貰うように頼んでいたのだ。
しかし寝てしまったために食べ損ねてしまい、まるでそれを取り戻すかの様に、朝食のパンケーキを頬張っていた。
「じゃあ、レベッカはこれからも一緒に居られるってことなんだね?」
「はいっ。改めて、これからもよろしくお願いしますね」
少し落ち着いた頃にされた質問に、相変わらずジゼルの世話を焼くレベッカは、空になったコップにジュースを注ぎながら微笑んだ。
ヴァレリーの第三騎士団に所属するレベッカは、そのままジゼルの護衛兼付人として側にいることになった。
夜は彼女は団の宿舎に帰るものの、朝になれば今は城へ、その後は同じく宿舎かヴァレリーの私邸へと迎えに行くことになる。ジゼルは一人で出歩かせてはいけない。色んな意味で。
昨日、眠ってしまったジゼルを寝室へと運んだヴァレリーが疲れた様に部屋を出て行くと、レベッカはジェレミーに謁見の間からここまでに起きたことを聞いた。
ヴァレリーがジゼルのパートナーになった事に驚き、ジゼルが転移の魔法を使った事に耳を疑い、皇帝の護衛騎士の腕を斬り落とした事に顔色を無くし、それを治した話は理解出来なかった。
謁見の間でも想定外の力を大勢に見せてしまったため、ジゼルの魔法についてや瞳のこと、また治癒師としての規格外の能力について周りに知られないよう十分注意するよう聞かされるレベッカの瞳は、遠くを見つめていた。
「ジゼルさんについては、いつ、どんなありえない話が出てくるか分かりません。その場合は何を置いてもすぐに、報告するように」
「! は、はいっ!」
ヴァレリーに続いてジェレミーにまで釘をさされたレベッカは、騎士の礼をとってジェレミーを見送った。
「はぁ〜」
「……い。? レベッカ聞いてる?」
「へ? あっ、すみませんっ、少しぼーっとしてました」
昨日のことを思い出していたレベッカは、ジゼルに頬をつつかれた事で我に返った。
「大丈夫? 疲れてる?」
「いえ、全然! 大丈夫ですよ! それよりすみません、何の話でした?」
「ん、何か人が増えたなと思って。砦にいた時みたいに、レベッカと二人じゃないんだね」
「そうですね〜。ここは皇帝陛下のいらっしゃるお城ですから、しっかりとしたメイドさんたちが沢山いるんです。砦と違い行動や場所に制限もありますし、私もそこまで色々と出来る訳ではないので、彼女たちの力を借りるんです」
「……ふーん」
「あ、でも、用事がある時に呼ぶくらいで、普段から常に側にいる訳じゃないですよ。この後も食事が終われば彼女たちは下がりますし」
「……そっか」
少し不貞腐れた様子だったジゼルだが、レベッカの言葉に安堵のため息をついた。
レベッカ以外に世話をされたくない訳ではなく、よく知らない人が常に視界に入るのが嫌だった。
しかし治癒師は珍しく、能力の高さに関係なく要人として扱われる。
実際ジゼルにも専属の侍女や侍従は勿論、護衛を付けようと多くの貴族家からヴァレリーへと、昨日のパーティから今も打診が来ている。
その全てを断っているが、城にいるうちに直接ジゼルと接触しようとしてくる者もいるだろう。
そのためあまり出歩かず、人との関わりを好まないジゼルの性格は、ヴァレリーたちにとっては都合が良く有り難いものだった。
「それにしても、ジゼルさんは随分と荷物が少ないですね? 荷造りした時にも思ったんですけど、殆どが砦で用意したものでしたよ」
レベッカはふと、食後のお茶を飲みながらゆっくりしているジゼルに、気になったことを聞いた。
「大切な物と貴重品以外は使い捨てが多いから」
「その大切な物はどこに仕舞ってるんですか? 荷物にそれらしいものは見当たらなかったし、そのローブにもそんな場所ないですよね?」
今のジゼルは昨日と同じく白色のローブを纏っているが、生地には細かな刺繍も光沢も無い。
それでもやはり何処か神聖な雰囲気があり、レベッカは内心ドキドキしていた。慣れるにはまだ時間がかかりそうだ。
そしてそんな服には物を仕舞えそうな場所はない。
慣れない服に苦戦するジゼルの着替えを手伝ったレベッカは、服に何も隠されていないのも知っている。
「あぁ。それは落としたり無くしたりしたら嫌だから、ここに入れてる」
「え? え!! えーっ!?!?」
そう言って左斜め前方に手を伸ばしたジゼルに首を傾げるレベッカだったが、次の瞬間目と口がこれでもかと開き、次いで急ぎ周りを見回した。
その様子に今度はジゼルが首を傾げながら、伸ばした手が入っている空間に空いた穴から小袋を掴んだ手を引き抜いた。




