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第5話 存在証明

スポットライトが舞台中央を照らした。

静まり返った会場に、星牙の声が落ちる。

 

「……誰かを信じることは、この世界を変えることになる」

 

皇子のような衣装に身を包み、舞台の中心に立つ青年――宮田星牙。

 

観客一人ひとりと視線を結ぶように、ゆっくりと目を巡らせている。

その笑顔は柔らかく安心を与えるはずなのに、なぜか胸の奥がざわつく。

 

「人は平等を善だと言う。でも、本当にそうかな?」

 

両手を軽く広げ語りかける声は穏やかだった。

 

「生まれた場所、与えられた名前、持っている力。それだけで救われる人と捨てられる人が決まる」

「平等は誰も救わない、僕は救われなかった」

 

会場が息を潜めていて、星牙の声だけが異様なほど澄んで響いた。

 

「だから僕が作るんだ。選ばれた者だけが、生き残る世界を」

 

観客席が息を呑む音さえ聞こえてきそうだ。

星牙は首を傾げ、子どもをあやすように微笑んだ。

 

「怖い?なら、君は僕に這いつくばればいい」

 

彼の瞳がひどく冷たく見えた。

 

「信じる者には、何も与えてやる。疑う者には、すべてを失くしてあげる」

 

「痛みも、苦しみも……その代わりに、救済の手を差し出そう」

 

張り詰めた空気の中、啜り泣く音。

星牙は、それすら慈しむように受け止める。

 

「君は、どっちへ行きたい?」

 

選択肢を奪う、逃げ道はないと独断される。

彼は両腕を大きく広げ、歓喜のように叫ぶ。

 

「――僕は、この存在を証明する!!」

 

割れるような拍手と熱狂、喝采のスタンディングオベーション。その渦の中で俺は確信していた。

 

――この舞台はただの演技じゃない

これは、フェンドからの予告みたいだ。

(そうだよね、乙くん。ここからが本番だ)


警察署・特務課F。

会議室の中央で、淡く光るホログラムが空間に浮かんでいた。映し出されているのは、《フェンド》と呼称される存在の解析データ。

 

細身の体躯、異様に白目の面積が広い三白眼。皮膚の一部に焼き付くように刻まれた、Σ(シグマ)の刻印。

黒瀬斗真は一歩前へ出た。

 

「現場、報告を」

 

会議室の空気が引き締まり、操作卓に立つ幹部が即座に応じる。

 

「現在確認されているフェンドの総数は、年々増加傾向にあります。推定三百万人」

 

(多すぎる。人間社会の裏側でここまで膨れ上がっているとは)

 

「……っち、増えすぎだな」

 

「はい。さらに深刻なのは、リコルの数です。フェンドのおよそ二倍。現在六百万人規模に達しています」

 

(六百万人――もはや異常発生の域を超えている)

 

「このままでは、自然死滅を待つ前に」

「警察の数が足りなくなるか」

 

言葉を紡ぐと黒瀬総務官は重く頷いた。

 

「フェンドによる人間のリコル化が加速しています。最近では、一般流通、スーパーでの商品化も確認されています」

 

ホログラムから視線を外し、遠藤補佐官へ向き直った。

 

「現場管理、遠藤。どう見る」

 

遠藤恵梨香は、一歩前に出て背筋を伸ばす。

 

「はっ。先日駆逐した個体――《ノーマルリコル》の右鎖骨から、Σ(シグマ)の痕跡が検出されました」

 

彼女の言葉と同時にホログラムに骨格映像が投影される。右鎖骨に痕。

 

「この痕跡は、フェンドの刻印と似ていますが、歯形がないため、注射器による《R4》使用の可能性が高いと判断しています」

 

「鑑識、入手経路は」

「現在、詮索中です。ただし――」

 

遠藤が言葉を切り、ホログラムを切り替える。

 

「フェンドの行動パターンを分析した結果、顕著な活動履歴が確認されました。対象は芸能関係者の人物と見られています」

 

室内にざわめきが走る、芸能人、表の世界で光を浴びる存在が裏で狩りをしている。

 

「現在、芸能関係者全域と追跡を開始しています」

 

黒瀬総務官は全警部へ命じる。

 

「目的は一つだ。全フェンド、抹消」

「どこまでも追い詰めろ、躊躇はいらん。AK909、ただちに起動」

「はっ、了解!」

 

***

星牙はばたりとソファへ倒れ込んだ。

「はあ、疲れた〜。乙くん僕どうだった?」

 

天井を仰ぎ子どもみたいに無邪気に笑う、その無防備さに一瞬だけ気が緩む。星牙のお腹が見えた。そこには、フェンドの刻印Σが一瞬見えた。

 

「舞台かっこよかったよ。正直、ぞくっとした」

そう言うと、星牙は勢いよく起き上がった。

 

「最後の台詞『僕はこの存在を、証明する』あれ星牙そのものだったよ」

 

「そう?嬉しいよ、ねえねえ乙くん、僕頑張ったからご褒美ほしいな〜」

 

「……何だよ、ご褒美って」

 

嫌な予感しかしない。星牙は答えず、俺に鼻先を寄せてきた。

 

「はあ……いい匂い。甘くて、肉が豊満でくらくらする」

「やめろ、近ずくなって」

 

ソファに下敷きにされ、星牙の顔が、目の前まで迫る。

「おでこにチューしてくれる?」

「は?意味わからん」

「乙くんは僕のだからね」

 

視線を逸らさず余裕たっぷりに笑うが、その笑顔が逆に怖い。

「その代わり、リコルの秘密教えてあげるよ」

 

俺は秘密を知りたい為に仕方なく、おでこにキスではなく、星牙の左手を握りしめる。

 

「……これでいいだろ」

顔を上げられないでいると、抱き寄せられた。

「おい、やめろって」

「はあ乙くん、ほんと可愛い。顔真っ赤」

 

強く押し返し、距離を取る。

ふざけた空気を断ち切るように、声を落とした。

 

「……なあ、星牙。人間をリコルに変えると快感はある。だが最近、怖くなってきた」

 

空気がわずかに冷えたが星牙は笑みを崩さない。

 

「乙くん、それは正常だよ」

 

ソファに腰を下ろし、膝を組む。

 

「もう警察は動いてる。僕たちも追われてるよ。今ね、芸能人がフェンドの可能性を警察が必死に嗅ぎ回ってる」

星牙は楽しそうに目を細めた。

 

「隠れるの、面白いじゃん?乙くんも、憎い人間を殺せて快感でしょ?」

 

その笑顔を見た瞬間、背中に冷たいものが走った。

 

「じゃあ、一緒に逃げよう」

 

星牙は、優しく残酷に言う。

 

「僕たちが存在を、証明するんだよ」

 

やっぱり星牙は、舞台の上と同じ顔で、世界を壊す気だ。

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