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見る夢

時たま見る夢がある。

それが自分が経験したことがある出来事だと、何故かいつもはっきり分かった。

幼い頃はなぜそれが分かるのか理解できなかったが、少しずつ年齢を重ねて知識を得ていくうちに、それは前世の自分の話だということ理解した。


夢はいつも断片的で、目を覚ました瞬間に消えてしまうような儚いものが多く、どこかでまだその時じゃないと声が聞こえた。


「じゃあ、なぜ見せてくるのよ……」


ララ・パーカー。12歳。パーカー男爵家の次女。この夢を見始めて早5年。最初はどうして他人の夢を見ているのに、はっきりと自分が経験したことだと分かるのか、意味の分からない感情に夜寝るのが怖かったが、少しずつ夢を重ねていくうちに受け入れていくことができた。


儚い夢の中でも少しずつ記憶が蓄積し、どうやら前の自分は、今の自分とそう変わらない年齢で亡くなったこと。髪は柔らかくウェーブした金髪。長い金のまつげに彩られた瞳は、宝石のような輝きを持った翠眼。そして高位貴族でもあるガルシア家の令嬢でもあること。


(ガルシア家って言ったら、この国の貴族の中でも指折りの資産家でしかも侯爵家じゃないの。昔の自分って滅茶苦茶お金持ちの美人さんじゃん)


そっと眉上で切りそろえられた自分の髪の毛をつまむ。

貴族令嬢としては異例の肩につくくらいの長さの、色素は薄いが金にはほぼ遠いベージュの髪に薄い黄緑の瞳。

父も兄も姉も濃淡は違えど、同じ黄緑の瞳は太陽の目と呼ばれ、父も兄も姉も濃淡は違えど同じ黄緑の瞳をしている。

日光の元ではパーカー家の瞳はまるで宝石のように輝き、太陽以外の光ではその輝きは失われる。

農業を領地産業の主としているパーカー家。時には領民と同じく外に出て一緒に畑を耕す領主。


太陽の元でしか輝けない。領民と同じく外での農作業でしか輝けない一族と揶揄も込められているのだろう。


(でもうちの領地は品種改良を重ねて災害に強い作物を育てて、結構栄えているとこなんだけどな)


災害が起きても最小限の被害で食い止められる。領民を飢えさせることも無く、非常時には他領にも作物を分けることが可能であり、そんな技術を作り出し、領地からの収入は安定しているが、パーカー家の家訓である

【我々が領主であるのは、この地に住まう領民を幸せにするためである。 領民に愛される領地領主になれ。】

この家訓により、領地からの収入はほぼ領民へ還元している。そのため豊かな領地を持ちながら、歴代の当主たちは、必要最低限の貴族としての集まり以外は領地から出ず、首都での役職も持つことはなかった。


(だけど私は誇らしい。この地に住まう人々も先祖も家族も)


だから前の自分の生には執着はない。

時たま夢に出てくる自分は、今よりもっと豪勢な暮らしをしているが、今ほど幸せな顔をしていない。


女の自分からみても美しい。まるで人形のような精巧な顔。柔らかく春の日差しのような金の髪に、宝石のような翠の瞳。美しく笑う姿は、たくさんの人を虜にしただろう。

だけど、その瞳の奥には諦めにも似た哀しさが時折見え隠れしていた。


誰もが前の自分を宝石のようだ、人形のように美しいと言った。

だけど今の自分だからこそわかる。本当に彼女、マリアンヌ・ガルシアが宝石のように輝く瞬間があることを。


(テオドール・ライアサス。 テオドールの前では、【わたし】は本当に宝石のように輝いていたのね)


死して生まれ変わって初めて自覚した感情。

だけどもう遅すぎた。


(わたしはララ・パーカー。 パーカー男爵家の次女)


自分はもう、マリアンヌではないのだから。


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