カムイの子
ハナ暦 7/3
夕方からキヌコさんの陣痛が始まった。
俺が夕食を作っている間にも何度か痛みが襲っていた。狼狽える俺。が、キヌコさんは『こんの程度、まだまだでーじょうぶ。』と、一蹴。
夕食後、陣痛時間が30分に一回、20分に一回と段々短くなっていく。これはもう、子宮が出す気満々のサインだ。
キヌコさんの妊娠かつ間もなく生まれることを知った俺は、『どこで生むのか?』とキヌコさんに聞いたら、『その辺の草むらで』という回答に激怒した。
日本ですら昔は出産自体が『穢れ』とされていた。だから、女は草むらや山の中で出産していたそうだ。不衛生で野性動物も闊歩している中で生んだとなれば、そりゃ母子ともに致死率も格段に高かった。
室内で産み始めたのは江戸時代。それでも不浄とされて隔離されていた。俺の時代では自宅出産はほとんどなく、病院の分娩室での出産がほとんどだろう。
草むらとか、絶対にない。あり得ない。と、授業中に思ったから、この辺りの歴史はうっすらと記憶にある。
俺はこの居間での出産を提案した。
まず、夜中に産気づいても、囲炉裏があり、かつ四方に灯籠を置いているので明るくすることが出来る。
それに、産湯も直ぐに作ることが出来るし、暖も取れる。
土間に向かって腰掛けて生むスタイルなら、産後処理(血液や胎盤等)の掃除もすぐ出来る。
そのプレゼン結果、『出産は居間で』ということに決定した。
前もって出産場所を聞いといて良かった。
キヌコさんの陣痛緩和時間を見ながら、居間・・・正確には居間と土間の境目の床、そこにキヌコさんに座ってもらう。下にはゴザを引き、キヌコさんには背もたれ出来る座椅子を用意した。
陣痛は10分に1回ペースになる。おそらく子宮口が開き出しているのであろう。
「さ、男達と子供は出ていって。」
ルルが追い出す。
俺も出ようとすると、ルルとハナがガシッと俺の肩を掴む。
「タケルが出ていってどうするのよ。取り上げるんでしょ?」
「あなたが取り上げないで誰が取り上げるの?」
そんな話にいつなってたんだ!?
「すまん、タケルどんにそんなことをさせて。」
申し訳なさそうなキヌコさん。
「待ってよ。俺が取り上げることにいつなったんだよ。俺、男だよ?」
「タケルは男だけど、『看護師』なんでしょ?なら、いなさいよ。」
と、強気で話してるけど、俺を掴む手は震えているルル。
「ルルはお産に立ち会ったことないの?」
「あるにはあるけど、お湯を沸かしてただけ。だから、私では無理なのよ。」
「ハナは?」
「ありません。あるのは知識だけです。」
俺にだって無理だよ。5年前の臨床実習で産科に行ったことはある。知識もある程度は覚えてるけど・・・お産にも立ち会って、最初から最後まで見たけど。ただ見ただけだ。
でも、今はそんな事行ってられない。出産とは母子共に命がけなのだ。今、医療の知識があるのは俺と・・・・ハナだけか。
「わかった。やれるだけやってみるから、二人とも手を離して。」
二人は俺の肩から手を下ろす。
やるからには腹を括る。
「ルル、湯を沸騰させてその中にこのナイフと俺のバックに入ってるハサミを入れて。バックは俺の部屋だから取って来て。あと5分は煮込んで。」
ルルが俺の部屋に走る。
「ハナ、消毒液が欲しい。なにか消毒液の代わりになりそうなもの・・・スキャンして持ってきて。」
「わかった。」
ハナが走って土間を出ていく。
「ディディ、使えない失敗作の紙を出来るだけ持ってきてくれ。」
「わかった。」
「シャインは俺の部屋から毛布を持ってきて。キヌコさんにかけて。」
「りょーかい!!」
女子達が動き出す。
「キヌコさん、ごめん。これから俺が赤ん坊の出口を覗きます。いいですか?」
「かまわね。」
行灯を手に、俺は診察する。
もう8㎝、そろそろ頭が出てくる頃だ。
「タケル、消毒液代わり。お酢だと判断したわ。」
「お酢か。よし!俺の手にかけて。」
「要らぬ紙を持って来た。」
「よし、それをここにひいて。あと、5枚位、お酢に浸して。」
「沸騰させたわよ。」
「そしたらこの紙の上に置いて。湯は木桶の中に入れて。そしたら、この行灯を持って、俺の手元を照らしてくれ。」
「うっ。」
キヌコさんの息がヒュッと止まる。陣痛が来たんだ。
「ハナ、陣痛時間を計測して。」
「・・・・・・・ふぅ。」
「62秒よ。」
来るな。子宮口も開き出したことだし、そろそろ頭が見えてくるはず。こういう時に使い捨てグローブがあればと思う。けど、無いものは仕方ない。
「キヌコさん、急にいきまないでね。あまり急にいきむと、赤ん坊にダメージがかかるらしいから。」
「わがっだぁ。うぅ!」
また陣痛だ。感覚がかなり早くなってきてる。
少し頭が見えた。まずは良かった。逆子ではない。一応、ハナのスキャンで逆子ではないことはわかっていたけど、生まれてくるまでは不安だった。
「キヌコさん、深呼吸だ。ゆっくり・・・・そう、ゆっくり。」
場合によっては出口を切らなくてはいけない。ハサミをチラッと見る。出来れば切りたくない。
「タケルどん、まただ!陣痛だ!」
キヌコさんの体が必死に赤ん坊を外に出そうとしている。おそらく、今が一番しんどいところ。頭の最大周計部位だ。ここを越えられなければ切るしかない。
「今だ!いきんで!」
いきんだ瞬間、頭部が動き出す。これならいける。
頭部が抜け出てたところを、俺が優しくかつゆっくりと引き抜く。
あとはズルズルッと肩、体、足が出てくる。
出きった!!!
あとはこの子が羊水を吐き出すために泣くだけ。
「・・・フッ・・・ギャア・・・フギャァ!」
泣いた!肺呼吸に切り替わった瞬間だ。
真っ赤な赤子。これは血だらけだからではなく、鬼の子だから赤い。
煮沸消毒したハサミでへその緒を切る。
「キヌコさん!男の子ですよ!」
「ふぅふぅふぅ、そだか。」
ルルに赤子を渡し、湯で血を洗い流す。
「タケルどん、後産が来そうだ。」
え?もうか!?
俺はまたスタンバる。
「いきむぞ。」
「いいよ。」
あとは胎盤が出れば終わり。鬼の後産は早いんだな。
「んー!!!!」
なぁ!!!また頭が出てきた!!!
「キヌコさん!頭が出てきた!双子だ!!」
止まる女性軍。
「ちょ、キヌコさん!まだ!まだいきまないで!」
「無理だ!」
そして、スルッと生まれてしまった。女の子だ。
「フッギャァ・・・・ギャァ!」
泣き声も確認。
男女の双子。どちらも真っ赤な赤ちゃんだった。
その後、滞りなく後産も終わり、土間の清掃が終わったのは明け方だった。
シャインとハナは仮眠をとるといってそれぞれ自室に戻る。
俺は簡単な朝食を作り、あとのことはハナに任せ、眠った。
まるで久々の夜勤勤務の後の眠りのようだった。
その日の夜。
キヌコさんの腕には男の子カクシ、カムイの腕の中には女の子キクコがすやすや眠っていた。
俺は昼まで寝たあと、いつも通りの作業をしたが、ルルとシャインが起きたのは夕方。なので、少し早めの夕食をとり、夜はまったりすることにした。
「おでの子か。めんこいな。この鼻はおで、耳はキヌコ似だな。」
赤すぎて、両親のどちらに似てるのか俺には皆目検討つかない。
「大きくなったんだら、それぞれホープとクジタと一緒になってくれるといいけどなぁ。」
え?兄弟で結婚させるおつもりですか?
「えっと、鬼の世界で近親婚はありなの?エルフでは絶対ダメだったけど。」
ズバッとルルが聞く。ありがとう。ナイーブな問題をサラッと聞いてくれて。
「まぁ、同じ親ならだめだべな。」
「ならクジタはダメじゃない?」
「あぁ、言ってなかっだが、クジタは俺の子でねぇぞ。」
また来たよテポドン級の秘密が。
「クジタはわだしと、元旦那の子。この子さ腹にいるとき死んでな。ちょうど嫁さいなかったカムイと一緒になったんだ。」
納得。なんだか今、色んな秘密が暴露されまくった気がする。
「でも、生まれたときからおでの息子にはかわりね。クジタも大事な我が家の長男だ。」
ディディも知らなかったようで、必死に紙にメモをとっている。
いやぁ、春は出産ラッシュだなあ。
「んでも、ルルどんも2回結婚したっていってだでねーか。ルルどんの方が結婚は先輩だぁな。」
「キヌコ!それは秘密だって言ったじゃない!!」
最後に水爆級の秘密が飛び込んで来たが、俺は竹茶を飲んでて聞こえなかった呈を突き通すことにした。
余計なことは聞こえないフリをするのが1番の方法だ。
春になると、口も柔らかくなるんですね。
秘密はひょんなところからいきなり顔をだすらしい




