アニバーサリー
ハナ暦2年目 6/3
ちょうどここに来て1年が過ぎた。まぁ、ハナ暦だから多少はずれてると思うが。そんな俺も4月に誕生日を迎え26歳になっていた。
あの日から1年、俺の生活はずいぶん変わってしまった。看護師として働いていた頃は、不定期な勤務、日勤は満員電車、ストレスはあったのかもしれないけど、それも自覚はなく、当たり前なんだと思っていた。
それが、今やこの拠点での生活。
川から300mほど離れた所に建てた、土間や居間、トイレや風呂のある拠点、今は皆『母屋』って言ってる。俺達の部屋は他の場所に新しく住居を建て、今はそこで寝泊まりしている。
旧自室は食品加工場にした。今、糀が出来たので、味噌や醤油、酢や酒を仕込んでみている。これはハナとルルとキヌコさんが作ってくれている。
ハナは元々ビネガーとかワインの作製していたから。キヌコさんは昔から作ってくれいたのでやり方を知っているから。ルルは薬作りと似ていて、楽しいそうだ。
味噌や醤油って、大豆からしか出来ないと思ってたら、豆だったら何でも作れるんだとさ。初めて知ったよ。麦から味噌ができるのも知らなかった。色んな種類の豆で試しているようだ。
川から100mほど離れた所、母屋から南にあたる場所に紙工房、土器工房、鍛冶工房。すぐ蕎麦には材料保管倉庫があり、木の皮や鉱石や竹や木材などが置いてある。
西方向川沿い、母屋から200mほど離れた所に水車小屋。ここは米や蕎麦の実の脱穀や精米を行う。
その水車小屋から西側には約1反の稲の水田。合鴨農法実施中。
その水田の北側、今は『西路』と呼んでいる西の海へ出る整地道を挟んで、同じく1反ほどの畑。これは小麦・大麦・ライ麦と蕎麦畑。
麦畑より東、母屋から北西に風車小屋。これは麦の脱穀や粉引きを行う。近くには米と麦専用の保管倉庫を作った。
母屋から50m北に俺達の自室がある。カムイ一家は大きめの家、俺達はみんな7畳ほどの個室だ。
さらに北、馬・牛・ニワトリ・山羊の小屋。その東側にはカムイ作の自慢の堆肥場。
東の畑には食像保存庫、そして大きな畑。脇には果樹木を植え、畑を囲っている。畑も細かく区分されていて、数多くの野菜が育てられている。もちろん、薬草や香草専門の畑もある。
本当に、去年の横穴生活とはえらい違いだ。
後、畑を荒らしに来る野生動物除けの為に、この拠点周りを1mくらいの高さ木柵で囲った。動物被害に悩んでいたカムイからの相談で、レビルさんが作ったのだ。まるでプリンにスプーンを刺すかのような滑らかな動きで次々木の杭を土に突き刺していくレビルさんの姿は、魔王そのものだったよ。
出入り口は木の扉を作り、出入りがないときには木で施錠をする。まぁ、ダイヤ達は軽々と飛び越えてしまうんだけど、それはそれでかまわない。
大型な野生動物が来たら、100%、ダイヤ達の誰かが仕留める。問題は、小さいリスとか狸とか兎とかだから。この木柵で十分だ。
1年後、こんな生活をしているとはあの時、夢にも思わなかったよ。日傘をさし、リュックを背負ってエコバック持っていた俺は、すぐに帰れるとか思っていた。それが今では日傘はホープお昼寝用の日よけになり、リュックは自室に中身空っぽで置きっぱなし。2つのエコバックは使いすぎて穴が開いてしまった。もったいないから捨てていない。
俺の国から持ってきてしまった、色んな食材のパッケージや袋は大切にとってある。何かに使えるかもしれないから。と言うより、捨てる場所がない。
最初に持っていたサバイバルセット。ワイヤーソーはかなり前に切れてしまったが、ナイフは現役だ。まぁ、研いでいたらかなり小さくなったけど。探索時にはまだ方位磁石・笛・火打ち石・カラビナ・千枚通し・サバイバルブレスレット・多機能サバイバルカードは未だに現役使用。小型懐中電灯は電池がないので自室にしまってある。
救急セットの中身はもう殆ど残っていない。ディディが来てからかなり消費した。綿棒・消毒液・絆創膏・綿ガーゼはゼロ。ピンセット・爪切り・小型ハサミはまだ現役選手だ。居間に置いて、みんなが使えるようにしている。ポイズンリムーバーは未だに使ったことがない。包帯・三角巾は麹作りのために使ってしまった。
とまぁ、そんなこんな色々あった1年だった。
そして今日は一周年記念のお祝い。あ、もちろん誰にも言ってない。俺の心の中だけのアニバーサリー。
夕食作り。俺は少し豪華にした。
鯛の干物、パパイヤ干し肉炒め、猪肉の角煮、穀物入り三色ご飯のおにぎり、鰹出汁の干し肉と野菜のスープ、ヒラメの煮付け、赤魚のキノコあんかけ、兎の唐揚げ、ポテトフライ、コロッケ。
ふふふふ、作ってる最中からよだれが止まらなかった。今日はワインも飲みたい。
「お、豪華であるな。今日はなにかの記念日でしたかな?」
「いや~別にぃ~。」
鼻歌を歌いながら、俺は次々と料理を仕上げていく。
「あ、ワイン飲みたいんだけどいいかな?」
「拙者も飲みたい。」
「おでも。」
「私も!」
「我も。」
みんな挙手する。
結局、キヌコさん・子供達・ハナ以外、みんなワインを飲みたいそうだ。
「よし、出来たぞ。食べよう。」
あれから1年。俺は美味しいご飯を食べて生きている。電車に突っ込まれて終わっていた命だったかもしれない。でも、こうやって美味しくご飯を食べることが出来ているというのはなんて幸せなことなんだろうかと、深く思う。
食べる大切さや物を作る喜び、改めて実感が出来ている。
この食材達から頂いた命を、俺はしっかりと血肉にしよう。
明日、待ちに待った北への探索が始まるのだから。
拠点紹介という名目のアニバーサリー




